上 下
518 / 522
最期の英雄

消滅の体験

しおりを挟む


『はっ』


 目を、覚ます……覚ますって言い方が正しいのかわからないけど、とにかく意識が覚醒し、視界が開ける。今まで闇の中にいたかのように真っ黒だった景色、それは白に包まれる。

 白……右、左、視界を移動させる。白、白、すべてが……いや、一つそこに、座っている人物がいた。


『おかえり』

『……エリ、シア……』


 エリシア……彼女が、さっきまでと変わらぬ姿勢でそこにいた。それはつまり、ここは変わらず……私の、頭の中の空間。

 今私は、仰向けに横たわっている。意識を失う前は……どうだったっけ。うつ伏せだったっけ、膝をついてたんだっけ。でも、仰向けじゃなかったような気がするし……体勢が、変わってる……

 えっと、意識を失う前私、どうしてたんだっけ。そもそもこの空間で、意識を失うなんて……


『……!』

『思い出した?』


 自分が意識が失う前、なにが起こっていたのかを思い出し……起こるはずのないめまいを感じ、頭を押さえる。そうだ、私は……消滅の力に、体を呑まれて……呑まれた体は、消滅して、私が私じゃなくなっていく感覚があって、それから……


『あれが、呪術の力。アンズが呪術の、消滅の力を使って、その力を受けた者の感覚だよ。自分が自分でなくなるような、そんな感覚……』

『そ、それは……』


 それはまさに、エリシアが言ったようなものと同じ感覚だった。そうだ、自分が自分でなくなるような……体が消滅していきなくなっていく、そして自分自身もなくなっていくかのような……

 最後は、本当に消えてしまう。それが、先に頭で理解できてしまう。自分が消えてしまうとわかる、だからこそ……


『怖い……』


 痛みや、苦しみじゃない。自分が消えてしまう恐怖……それは、苦痛とはまた別次元で恐ろしいものだ。自分の存在そのものが、この世から消えてなくなってしまう、それを理解してしまうというのは、思っていた以上に……心に、くるものがある。

 あれが、ガニムが感じたもの。それに、ユーデリアの故郷で襲ってきた、呪術の力を使って消滅した男たちも……同じように、この感じを味わっていたっていうことか……


『……って、それって……』


 そうだ、これで終わりではない……私は、この後にケンヤ、そしてユーデリアにもこの消滅の力を使って倒している。いや、当然のことだが……その二人の味わったものも、これから受けることに……


『ま、またアレを……? いや、そんなの……おかしく、なる……』

『あはは、アンズ、似たような台詞さっきも聞いたよ。よかったじゃない……だってあと二回で、この死の体験時間から解放されるんだよ? 今まで受けてきた、数えきれない死の体験に比べたら、あとたった二回、なんてことないでしょ?』


 あと、たった二回……回数だけで聞けば、それはなんとも魅力的な数字だろう。永遠に続くと思われた苦痛の時間、それがあと二回の死の体験で終わるのだ。

 けど……今の、消滅の力は、ダメだ。あんなの、単なる死とは訳が違う。一度受けてまともでいられるはずがない。二度目、それに三度目なんか、絶対に耐えられない。


『そんな弱気でどうするのさ。言ったでしょ……これは、罰だって』

『っ……』

『その感じ、それでこそだよ』


 楽しそうなエリシア……直後、始まる。消滅の力が、私の体を蝕んでいく……これは、ケンヤの死の体験だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

公爵家の半端者~悪役令嬢なんてやるよりも、隣国で冒険する方がいい~

石動なつめ
ファンタジー
半端者の公爵令嬢ベリル・ミスリルハンドは、王立学院の休日を利用して隣国のダンジョンに潜ったりと冒険者生活を満喫していた。 しかしある日、王様から『悪役令嬢役』を押し付けられる。何でも王妃様が最近悪役令嬢を主人公とした小説にはまっているのだとか。 冗談ではないと断りたいが権力には逆らえず、残念な演技力と棒読みで悪役令嬢役をこなしていく。 自分からは率先して何もする気はないベリルだったが、その『役』のせいでだんだんとおかしな状況になっていき……。 ※小説家になろうにも掲載しています。

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

処理中です...