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最期の英雄
消滅の体験
しおりを挟む『はっ』
目を、覚ます……覚ますって言い方が正しいのかわからないけど、とにかく意識が覚醒し、視界が開ける。今まで闇の中にいたかのように真っ黒だった景色、それは白に包まれる。
白……右、左、視界を移動させる。白、白、すべてが……いや、一つそこに、座っている人物がいた。
『おかえり』
『……エリ、シア……』
エリシア……彼女が、さっきまでと変わらぬ姿勢でそこにいた。それはつまり、ここは変わらず……私の、頭の中の空間。
今私は、仰向けに横たわっている。意識を失う前は……どうだったっけ。うつ伏せだったっけ、膝をついてたんだっけ。でも、仰向けじゃなかったような気がするし……体勢が、変わってる……
えっと、意識を失う前私、どうしてたんだっけ。そもそもこの空間で、意識を失うなんて……
『……!』
『思い出した?』
自分が意識が失う前、なにが起こっていたのかを思い出し……起こるはずのないめまいを感じ、頭を押さえる。そうだ、私は……消滅の力に、体を呑まれて……呑まれた体は、消滅して、私が私じゃなくなっていく感覚があって、それから……
『あれが、呪術の力。アンズが呪術の、消滅の力を使って、その力を受けた者の感覚だよ。自分が自分でなくなるような、そんな感覚……』
『そ、それは……』
それはまさに、エリシアが言ったようなものと同じ感覚だった。そうだ、自分が自分でなくなるような……体が消滅していきなくなっていく、そして自分自身もなくなっていくかのような……
最後は、本当に消えてしまう。それが、先に頭で理解できてしまう。自分が消えてしまうとわかる、だからこそ……
『怖い……』
痛みや、苦しみじゃない。自分が消えてしまう恐怖……それは、苦痛とはまた別次元で恐ろしいものだ。自分の存在そのものが、この世から消えてなくなってしまう、それを理解してしまうというのは、思っていた以上に……心に、くるものがある。
あれが、ガニムが感じたもの。それに、ユーデリアの故郷で襲ってきた、呪術の力を使って消滅した男たちも……同じように、この感じを味わっていたっていうことか……
『……って、それって……』
そうだ、これで終わりではない……私は、この後にケンヤ、そしてユーデリアにもこの消滅の力を使って倒している。いや、当然のことだが……その二人の味わったものも、これから受けることに……
『ま、またアレを……? いや、そんなの……おかしく、なる……』
『あはは、アンズ、似たような台詞さっきも聞いたよ。よかったじゃない……だってあと二回で、この死の体験時間から解放されるんだよ? 今まで受けてきた、数えきれない死の体験に比べたら、あとたった二回、なんてことないでしょ?』
あと、たった二回……回数だけで聞けば、それはなんとも魅力的な数字だろう。永遠に続くと思われた苦痛の時間、それがあと二回の死の体験で終わるのだ。
けど……今の、消滅の力は、ダメだ。あんなの、単なる死とは訳が違う。一度受けてまともでいられるはずがない。二度目、それに三度目なんか、絶対に耐えられない。
『そんな弱気でどうするのさ。言ったでしょ……これは、罰だって』
『っ……』
『その感じ、それでこそだよ』
楽しそうなエリシア……直後、始まる。消滅の力が、私の体を蝕んでいく……これは、ケンヤの死の体験だ。
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