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英雄vs氷狼vs……

精霊の死

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 水の精霊の、命が終わる……ケンヤの攻撃は私には届かず、ユーデリアは動けない。もはや、私を邪魔できる者はいない。


「ぐぅ……ぁ……」


 水を手で掴む、という表現がよくよく考えればおかしなものではあるが、黒く染まったこの手では液体も実体があるかのように掴むことができる。というより、この水の中に水の精霊の実体があるから、精霊の実体を掴んでいると言った方が正しいか。

 以前戦ったときは、精霊の意思はあったがそこに実体はなかった。倒しても、そこの水を操っていた精霊本体を倒せたわけではない。あのときも黒く染まった手で殴ったりはできたが、実体を捉えられる分あのときに比べ呪術の力はさらに、強まったのだろう。

 この力は私を呑み込み、いずれ滅ぼすと水の精霊は言った。実際、さっきなんかは思考が完全に変なことになってたし、それもあり得ない話ではない。

 それでも、今の私にはこれしか頼る力がない。この、文字通り呪われた力しか……


「ちっ」


 ケンヤは、遠距離からの魔力連打を止め、私に接近して直接殴ろうとする。が、やはり呪術による見えない壁が、ケンヤの拳を防いでいく。

 ユーデリアは、動けないまま。それに、少しでも変なことをしようとすれば……たとえば凍ったままのあこになにかしようとすれば、すぐにわかる。その場合、即座に止める。

 あこは……まだ、死んではいない。なぜだかわからないけど、わかる。あこはまだ生きている。氷付けにされているだけだ。もっと言えば、ガニムも、警備隊の人たちも、凍らされている者はまだ生きている。

 さすがに割れてしまっている者は、助からないだろうが……みんな、凍っているだけだ。慈悲を与えた、というわけではないだろう。それでも、まだ死んでいないというのはありがたい。


「が、ぁ……」


 これで心置きなく、精霊を殺すことができる。自然と、首を握りしめる手に力が入る。

 首から上へ、そして顔を、全身を黒が包み込んでいく。


「前回戦ったときは、結構苦労したけど……今回は、そうでもなかったね」


 あっけないと言えば、それまでだが……ついに、精霊の命が尽きる。それは、私も今までに経験したことのないことだ。


「こ、の……世界の、害、め……」


 負け惜しみか、最後にそれだけを言い残して……精霊の体は、その水の体は、完全に黒く染まった。生命の鼓動が、止まる。


「精霊が……」

「くず、れる……」


 ケンヤとユーデリアが、呟く。目の前で、掴んでいた水の精霊の体が、ぼろぼろと崩れ落ちていく。人間や魔物なんかの生き物とは違うが、そこに確かにあった命が失われていく。

 あっけない、あっけない、あっけない……精霊なんて大それた存在でも、その終わりはあっけないものだ。まあ、自分が死ぬようなことになるなんて、考えたこともなかったのだろう。

 ……命に対して鈍感な者が、本当の命の危機に触れたところで、もう遅いのだ。これは、今まで余裕ぶっていたがゆえの、怠慢が招いた結果だ。


「……」


 これで、なにかが変わるのだろうか。水の精霊ウンディーネは死んだ……その影響が、どんな形で表れるのか、わからない。

 わからないけど……


「これで、邪魔者は一人減った」

「っ、ぐ……!」


 あと自由に動けているのは、ケンヤのみ。狙いをケンヤに変え、手を伸ばす。触れたらまずいとわかっているためか、素早くケンヤは後退する。

 しかし、後ろに逃げた程度じゃ回避はしきれない。手のひらから黒い煙が放たれ、それがケンヤを捉えようと向かう。


「うっ、とうしい!」


 虫を払うように、手を振ると……黒い煙が、弾かれる。魔力を使って弾いたか。

 いいね、必死な感じで。このまま追い詰めて……


 ゴロゴロ……!


 その瞬間、空から激しい音……雷の音のようなものが轟く。この世界にも雷とかあるのかと思いつつ……空を見上げると、黒い雲が青空を隠していた。

 まるでこれから一雨来そうな……そんな、雲が。
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