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英雄vs氷狼vs……

やるしかない

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 炎と氷が、ぶつかり合う。衝突の度に爆音が轟き、空気が震えるのを感じる。

 あことユーデリアが、戦っている。それでもこの氷の兵隊の動きが鈍らない辺り、やはりユーデリアが生み出した時点でユーデリアが操っている、という線はなくなったみたいだ。氷の兵隊に自我はないみたいだけど、ユーデリアの意識が別に向けば動きが鈍る……みたいな展開も少し期待したんだけど。


「はぁ、はぁ……」


 二人の戦いに、注視ばかりしているわけにもいかない……氷の兵隊を壊してはいくものの、無限に生まれるそれらは私の体力を確実に奪っていく。

 ただでさえぼろぼろな状態、片手は使えない……そこに、無限の兵隊が、それも冷気を伴いこちらの体温を奪ってくる相手が来るのだ、嫌な相手すぎる。

 数は力とは言うが、それを今体感させられている。以前にも、こうやって数の圧倒的差で追い詰められたことはある……まだ私が、勇者だった頃だ。でもその頃は、まだ仲間がいた。だから、乗り越えられた。

 今は……一人だ。


「っ、あぐっ……!」


 ふいに、左肩に痛みが走る。背後から、一匹の氷の兵隊に噛まれたのか……油断した!

 氷の牙が、肩に食い込んでいく。


「うっ……せや!」


 体を捻り振り払い、氷の兵隊を叩き割る。が、噛まれた箇所は傷口が凍りついている。出血はしないが、これじゃ内部から凍傷になってしまう。

 そうなれば、肩から先の左腕までも動かせなくなる……いや、それで済めばまだいい。最悪、体内全身へと凍傷の影響が及び、内側から破壊される……くそ、油断だ……!


「っ、つ……」


 右腕には一向に力は入らない、氷の兵隊もどんどん生まれてくる。体温は奪われ、噛まれた箇所から寒くなってきた。これは、いけない。

 足場も不安定で、これは……この流れは、まずい。


「く、そぉ……!」


 ここで、残った魔力を全部使えば、この場にいる氷の兵隊くらいは片付けられるかもしれない。けれど、氷の兵隊は無限に増える……それに、この後ケンヤやユーデリアともやりあうことを考えたら、ここで消費するわけには……

 使えるのはやはり、この『呪剣』のみ。呪われた剣も、氷の兵隊相手にはその効力を存分に発揮しないけど。


「すぅ……はぁ」


 落ち着け……邪念が多すぎては、勝てるものも勝てなくなる。

 グレゴは言っていた、剣には集中力が必要で、邪念が多いと本来の効力を発揮しないと。集中力さえあれば、どんな切れ味にも昇華することができる……それを極めることが、剣士のなるたるかだとかなんとか。

 集中すれば、相手の呼吸を感じることができ見えなくても気配を辿れるようになる。残念ながら相手は意思のない氷の兵隊だから呼吸もなにもあったもんじゃないが、落ち着くことは大事だ……

 体力がないのに、大立ち回りをするからダメなんだ。襲ってくる氷の兵隊だけ、返り討ちに……


「そこ!」


 背後から迫る氷の兵隊を、斬る。こいつらには人にはある気配ってものがない。その代わり、音やなにより冷気が、こいつらの接近を教えてくれる。

 ま、体温が奪われていく今、感覚が麻痺しつつあるけど……


「私は、剣士じゃないってのに……」


 とはいえ、今ある得物はこれだけ。ないものねだりをしても仕方ないし、あるものでやっていくしかない。

 今の私には、あこやユーデリアのような大きな力も、ケンヤのような余裕もないのだから。


「あぁ、やってやる……やってやるよ」


 覚悟を決め、目を閉じて深呼吸。一回、二回……そして、目を開く。そこには無限に生まれる、氷の兵隊がいる……

 そのはずだった。


「……あれ?」


 目の前に広がるのは、氷の破片、破片、破片……氷の兵隊の残骸であろう破片が、そこらに転がっていた。

 目を閉じた、ほんの数秒の間で……氷の兵隊が、全部砕けた?
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