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英雄vs氷狼vs……

氷の兵隊

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 四つ巴の、睨み合い……それは、あこが動き出したことで崩れた。あこはユーデリアに、凍らされた人たちを元に戻すために向かい。私は、あこを追いかけようとしたところをケンヤに阻まれて。

 今のユーデリアは、なにか危険だ。弱所を見つけるまで歯が立たなかったはずのガニムを、あんな氷像に変えて。ぼろぼろになりながらも、元気な姿よりもむしろ鬼気迫る迫力がある。

 だから、そんな相手に突っ込むあこを止めたいが……ケンヤが、邪魔をする。正直、今の状態でケンヤとやりあうのは……キツい。


「どけ、お前!」

「嫌だね」


 当然、私の言葉が受け入れられるはずもなく。どいてほしければ、力付くでってことだろう。

 体力自体は、先ほどあこがケンヤと戦っている間に、少しは回復することができた。魔力が使えれば、魔法により回復を早められたのだろうが……相変わらず、この左目は機能しない。結果として、それでよかった気もするが。

 ケンヤは、相手の魔力を吸いとり、自分の力に変える能力を持っている。そんな相手に、魔力を使った攻撃は使えない。魔力を使えないのは痛いが、相手にもパワーアップの材料を与えないことを考えれば……

 右腕には、全然血が戻らない。動かせない。使えるのは、この左腕……そして、そこに落としていた『呪剣』。これでケンヤを斬ることができれは、呪いが発動し、斬られた部位の血が抜き取れるはずだ。

 そうすれば、ケンヤの動きを封じることができる。そうなれば、この場を回避する手段だって……


「そんな状態で、できると思うのか?」

「……っ」


 ケンヤの言葉は、悔しいが事実だ。この状態で、なにができるか……できることを考えるのが難しい。

 両手が使える状態で、あの様だったのだ。それを、片手のみ……体力も万全ではない状態で。あことの戦いで多少は消耗しているだろうケンヤだが、それで差が埋まったことにはならない。

 状況を見ると、私の方が断然不利な状況にある。それでも……


「やってやる……!」


 こんなところで死ぬわけには、いかないのだから。

 震える足に力を込めて、足を踏み出す……その瞬間、体全体をなにかが包み込んでいく。なにか……冷たいこのなにかは、考えるまでもない。冷気だ。

 これは、ユーデリアの……冷気か?


「っ……」

「ったく面倒だなぁ……誰が一人一人なんて面倒なことをするもんか。みんな、氷付けになってしまえ」


 冷気だけでなく、冷たい声がその場に響く。まるで頭の中に響いてくるような、そんな声……近くにはいないはずなのに、すぐそこにいると錯覚させられるような。

 この言葉の通りだとするならば、ユーデリアは私たち三人を、いっぺんに始末するつもりか? けど、そんなことをしたら……


「へぇ、面白いね」


 予想通り、ケンヤの注意がユーデリアに向く。ケンヤだけではない、元々ユーデリアに敵意を向けていたあこも改めて、それに私だって。

 あこだけを相手すればよかった状況から、三人を一度に相手する状況に自ら変えるだなんて……なにを、考えているの?


「! 冷気が……」


 肌を刺すように冷たい……いや、痛いほどの冷気が辺りを包み込んでいく。冷たい風というのは、一定を越えると痛いという表現に変わる……これはまさに、それだ。

 それほどまでに、今のユーデリアの冷気は強烈なものになっているということだ。この場にいる三人を相手に、余裕を見せることができるほどの。

 ガニムをあんな風にしたんだ。まだなにか、手があるっていうのか?


「……出ろ、氷の兵隊」


 小さく、しかしやはり頭に響くようなユーデリアの声……それに反応するように、目の前の光景に変化が訪れた。ユーデリアが歩いてきた場所のみが氷付けの地面……スケートリンクのようになっていたが、瞬時に私たちの足元にまで、氷が侵食してくる。

 一瞬、地面ごと私たちを凍らせるつもりかと思ったが……足から氷が伝ってくる感覚は、ない。代わりに……


「……!」


 凍った地面から、なにかが生えてくる。それは、ただの氷ではなく、狼の形をした氷。

 なるほど、氷の兵隊……すべて、ユーデリアと同じ姿をしたもの。しかも、私に使っていた、狼の形をした冷気とは違い、こいつらにはちゃんと実体もあるってわけだ。


「けど、そんなのは……」


 大した脅威じゃない。そう、思っていたが……


「っ、はや……!」


 生まれた氷の兵隊が何体か、こちらに突撃してくる。その速度は、本体ほどとはいかなくてもそれなりに速い。これは、油断してたら……やられる!

 今私は、片手しか使えない。それは『呪剣』を握ってはいるが……実体があるとはいえ氷相手に剣を振るっても、効果は薄い。呪いの効果が出るかも、望み薄だ。そもそも血がないのだから。

 ならば、ケンヤ相手には通用しなかったけど、この呪術の炎で……


「……って……!」


 そうだ、ノットの呪術が宿っているのは、右手だ。右腕から血を抜かれ、動かせなくなった今、呪術(それ)は使えない。 


「こな、くそぉ!」


 ならば、やはりこの『呪剣』で砕いていくしかない。肌を刺すような冷気だ、素手で触れるよりは幾分、マシなはず……!

 しかし、一体砕く間に二体、三体と増えていく。ユーデリアの奴、まさかこのまま持久戦に、持ち込むつもりか……!?
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