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英雄vs氷狼vs……
三つ巴の戦い
しおりを挟む「がふっ……!」
腹部に撃ち込まれたのは、三撃目の拳。容赦のない力は、体の内側を容赦なく抉っていくようだ。このまま勢いのままに吹っ飛んでしまう……しかし、やはりそうはならない。なぜか地面に固定された、動かない足によって。
そのせいで、今の私はサンドバッグ状態。なにが足を固定しているのかわからない。これがユーデリアの冷気により凍らされたものではない以上、足が動かないのは殴っている張本人のせいである可能性が高い。
ガニム・マキトロニアと名乗る、魔族の……
「く、そっ!」
撃ち込まれる拳の威力に、意識が持っていかれそうだ。けど、その痛みを必死に堪え、体の中の魔力を集中される。よし、魔力は発動するみたいだ。
動けないならば、それ以外の方法でこの危機を脱するしかない。
「おぉ……ぬっ?」
繰り出される四撃目。これを食らえば、本格的にヤバい……そうなってしまう前に、手を打つ。
盾が通用しないなら、吹き飛ばしてしまえばいい。魔力を集め、ガニムに向けて突風に変換してぶつける。至近距離から、それを受けては無事ではいられまい。
繰り出されていた拳は止まり、突風に押し返される。大柄な男だが、至近距離からの突風ならば……
「ぅ、おぉ……!?」
狙った通り、吹き飛ばすことができた! 同時に、私の足も動くようになる。
やはり、足が動かなかったのは、ガニムのなんらかの能力か? 魔力は感じなかったし、呪術のあの気持ち悪い気もしなかった。なら、また別の……?
まあ、いいや。このまま吹き飛ぶガニムを追撃し、さっき殴ってくれた分の借りを……
「ガルルルァ!」
「わっ!?」
突撃……する直前に、獣の唸り声。その正体は、想像するのは難しくない。ユーデリアだ。今まで傍観していた彼が、ここにきて牙を剥いてきた。
それは予想外とは言わないが、虚を突かれたのは事実だ。それでも咄嗟に体を捻って避けたのは、やはり気を張っていたおかげだろう。
「っ……」
避けることはできた……が、無理に体を動かしたせいで、先ほどガニムに殴られた箇所が、痛む。主に体の内側……内蔵に届く位置にまで。
その痛みが、体の中から響いてくるようだ。あのデカ男め、どんだけバカ力なんだ……!
「ユー、デリ……ちょっ、ま……」
「黙れ、問答無用!」
このまま動き続けるのは体に響く。ユーデリアにも同じく、突風を放って距離を取るか……
「ぬぅえぇい!」
「!」
直後、私とユーデリアとは別の、第三の声が乱入。先ほど吹き飛ばしたはずの、ガニムだ。奴の狙いは私……ではなく、ユーデリア。その体へと、拳を振り下ろす。
音か匂いか、事前に察知していたらしいユーデリアは、拳が繰り出された方向へと冷気の盾を展開。魔力の盾とは違い、純粋に冷気を集め、作り出した盾だ、破られることはない。
現に、冷気の集まっている場所に拳が入った瞬間、拳が凍っていく。凍っていくのだからそれ以上先へと突き出すことはできず、ガニムは後退。腕を体ごと振るい、氷を砕いていく。
「……」
「……」
「……」
三人が、にらみ合う。結界の中に乱入者が現れた時点で予想していないわけではなかったが……予想以上に、混乱している。
片方を相手にすれば、もう片方が。かといって、下手に相手同士の戦いに足を踏み入れて二人から襲われるのは避けたい。
二対一であれば、大きく戦況は変わるだろう。以前ならばユーデリアと協力してそれができただろうが、今の私の言葉が届くとは思えない。ならばガニムは……無理だろうな。
逆に、ユーデリアとガニムが組んで私を殺しにかかってくる可能性。それがないとは言えない以上、二人同時に気を張っていないといけない。冷気を操る氷狼に、魔力とも呪術とも違う力を使う魔族。
一方ずつ相手をするならまだしも、さすがに同時に相手するのは骨が折れる。実際に今骨が折れてるのは置いといても……その、協力体勢にならないことを祈るばかりだが、おそらくそれもない。根拠はないけど……性格の問題かな。
自分たちを殺すと明言した相手と組むほどユーデリアはバカじゃないし、ガニムの方も殺そうとしている相手と共通の敵相手とはいえ協力するとは思えない。
だから、一対一対一……この膠着状態が、保たれている。きっと二人も、同じように膠着状態に気を張っているはずだ。
「……はっ!」
先に動いたのは、ユーデリア。全方位に冷気を放つことのできるユーデリアは、その場から動かずとも攻撃ができる。私だって、魔法を使えば動かずに攻撃はできるが……
ユーデリアの冷気は、触れたら凍ってしまう。それをノーモーションで出せるのは強みだ。
「ちっ!」
「っ」
それを皮切りに、私もガニムも動き出す。
これまでにない、三つ巴の戦いが、始まる……!
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