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英雄vs氷狼vs……
砂塵爆発
しおりを挟む拳から放つ衝撃波と、体当たりしてくるユーデリアとがぶつかり合う。ただ、ユーデリアは冷気でそう見せているのか、気迫でそう見させられているのか、その姿は巨大だ。
巨大になった……が、それは冷気にしろ気迫にしろ、実際に巨大になったわけじゃない。ただ大きく見せているだけだ。
ユーデリアの体……正確には角の先端に、衝撃波がぶち当たる。衝撃は目に見えないもののはずだが、カチカチと音を立てて氷へと変化していく。
「ダメか!」
正面からぶつかったのでは、衝撃波もユーデリアの前に凍らされてしまう。やっぱり、あの角はユーデリアの冷気が凝縮しているってわけか。
衝撃波を打ち破り、私への壁はなくなる。一直線に突進してくるユーデリア、それを黙って待っておくほど私はバカではない。
「ふん!」
地面を思い切りぶん殴り、割る。それはユーデリアの足場を崩すのが目的ではない……地面を殴ったことで巻き上がる、砂煙が目的だ。
これで目眩ましができればいいんだけど、鼻の利くユーデリアには意味のないものだろう。だから、もっと別の方法で使う。
巻き起こった砂煙と、吹雪き続ける雪。それらは、ユーデリアどころか私の視界を奪うことにしかならないが……その場から後退し、砂煙の中心部から逃れる。
「ただの砂煙じゃ、無理だろうけど……」
砂煙が巻き上がっただけなら、それは日常的な光景だ。ただし、今はユーデリアのよう起こす吹雪により、激しく舞っている。それこそ、砂嵐のように。
昔、なにかで見たことがある。砂嵐の中で砂粒同士がすごい勢いでぶつかって、その摩擦熱で発火……それが大量に起き、爆発のようになる現象があると。それを、砂塵爆発って呼ぶとかなんとか。
あれだけ激しく砂煙が舞えば、それを行える可能性はある。知識だけしか知らないし、当然やったこともないけど……
「粉塵爆発ならぬ……砂塵爆発!」
パチンッと指を鳴らし、炎を砂煙の中心へと。タイミングを同じくして、ユーデリアも砂煙の中心に突っ込んでいく。
炎は、それだけではユーデリアには通用しない。けれど、爆発を起こすほどの威力ならば、通用するはずだ……!
「ルッ……?」
もはやユーデリアの姿さえも、砂煙と吹雪で見えない。もしもこの試みが失敗したら、見えないところから現れたユーデリアを相手することになる。
が……確かに聞こえた。ユーデリアの、困惑したような声が。そして、直後に異変は起こった。
ユーデリアの姿は見えないが、そこに赤いなにかが輝いていくのが見えた。それがなんであるか、考えるまでもなく……赤は一気に広がっていき、弾けていく。
……爆発が、起こる。
「っ……!」
咄嗟にさらに後ろに下がり、爆発の規模に巻き込まれないように……って、結界があるからあんまり遠くへといけないんだった。
なら、残る魔力をバリアとして、正面に展開。爆発に、爆風に巻き込まれないように防御だ!
「きた……!」
爆発が発生する。それは、予想していたよりもうまくいき、ユーデリアを中心に呑み込んでいく。バリアを展開していても勢いは感じるし、バリアでは熱気は防げない。爆発って、テレビの中でしか見たことがなかったけど、こんな感じなんだ。
この距離でこの熱さだ。爆発の中心にいるユーデリアには、かなりの熱さ……いや熱さでは済まないダメージが、刻まれたはずだ。
もしかしたらこれで、戦闘不能になっていてくれれば……
「……!」
殺気……!
「グルガァアアア!」
爆炎の中から、ユーデリアが現れる。あの爆発が直撃して、無事だって……!?
いや、無事じゃない。少なくとも火傷の痕が……
「グッ……!」
先ほどよりも大きくなった殺気。その牙が、私を狙ってくるが……正面にバリアを展開してるため、私に届くことなくぶつかる。
「ぐ、ぅ……やって、くれたな……!」
苦しげなユーデリアの様子に、先ほどの爆発は意味があったのだと知る。なんだ、ちゃんと効いてるじゃないか。
けど、あの爆発の中でこの程度のダメージしか負っていないのか……咄嗟に冷気で身を守ったか? さっきまで巨大だったのが元に戻ってるし。
それとも実は、外側でなく内側にかなり損傷があるとか……
「しぶといね……!」
「うるさい!」
爆発の余波も収まり、ユーデリアの猛攻は続く。その氷の角で、バリアを何度も攻撃し、破壊しようとしている。
冷気の威力が凄まじい上に、結界の方に魔力を使っているから、このままじゃ破られて……
「……っ、と!」
しかし、地面からかすかな違和感。その場から飛び退くと、直後に地面から氷の柱が突き立てられる。
なるほど、私の意識を正面に向けといて、他の位置から攻撃。なかなかいい手だけど、私にはそんな小細工……
「……あれ?」
そのまま追撃が来る……と身構えていたが、ユーデリアは動かない。代わりに、氷の柱が次々と打ち立てられていくが……それも、私を狙ったものではない。あちこちに、バラバラに。まるで電柱のように、氷の柱が立っていく。
なんだ、なにがしたいんだ? いったい……
「ガルルァア!」
「!」
氷の柱にばかり、気をとられていられない。先ほどと同じく、氷の分身を放ってきた。しかも今度は、続々と……ユーデリアの体から冷気が放たれ、狼の形と成っていく。次々放たれる。
数で押そうってことか? だけど分身程度なら、この炎で……
「ッウ!」
「!」
瞬間、正面にいたはずのユーデリアの姿が消え……チカッとなにかが光ったと思った直後、右脇腹に痛みが走る。咄嗟に体を捻ったけど、今、のは……!?
ユーデリアはいない。けれど、先ほどユーデリアがいた場所に殺気が残っている。まるで、そこから凄まじい速さで移動した結果、殺気だけを置き去りにしたように……
「!」
気づいたときには、その場から飛んでいた。直後、足裏に痛みが走る。間違いない……今のは、ユーデリアによる攻撃だ。
目で追うことが困難なほどのスピードで、私に突進してきた。まるで矢のように、一直線に。一撃目は、それでも体が反応してくれたおかげで、右脇腹へのダメージだけで済んだ。
足裏への二撃目。それは背後からだ。正面から突撃してきたユーデリアが、なぜ背後から……その答えは、一つだ。
「あれ、か……!」
無差別に立てたと思われた氷の柱。いや実際に無差別に立てているのだろう。その氷の柱を足場にして、仕留めきれなかった私を背後から狙ってきた。結果、やはり体は反応してくれたが、足場にかすった。
この氷の柱は、単なる目眩ましじゃない。矢のように高速……いや光速で動くユーデリアが、方向転換を可能にしたもの。単なる矢であれば、一直線に放たれそれで終わり……しかしこれなら、氷柱を使い何回でも矢を放てる。それも、違った角度から。
おまけに……
「こ、のぉ!」
ユーデリア一人だけなら、かろうじて目で追えるかもしれない。集中すれば、いかに光速であろうと。
だけど、氷の分身がそれを邪魔する。冷気の塊だから、ユーデリア本人と判断がつかないことはない。普段ならば。なのに、ユーデリアが光速で動き、それに混ざって狼を型どった冷気が視界を邪魔する。
この分身に紛れて、ユーデリアは光速で動き回り……
「っ!」
私の頭、胸……一撃で葬るため、急所を狙ってくる。急所を外しても、完全に防ぐことは難しく……傷が増えていく、一方だ!
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