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予期せぬ再会

襲い来る脅威

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 美味しい料理を食べて、お腹は満たされた。久しぶりの美味しいものに大満足だし、これならばこれから動くのに問題はない。あれだけ食べたけど、激しく動けばいい運動になるしね。

 最後にあたたかい食事にありつけたのは……あぁ、ノットと戦ったあの村か。あそこの料理も絶品だったなぁ。

 店で、満足いく気持ちでいっぱいになった……はずなのに、店から出たあと、ノットの術中にハマって、自分の記憶の中の人物と戦わされたんだよな。それに勝ったかと思えば、直後に術者(ノット)との連戦。あれには参った。

 今回も、そんなトラブルがないだろうな……


「……変な気配はなし、か」


 あのときは、店から出てからずっと誰かに見られている感覚があった。けれど、今はそういった視線は感じない。怪しい気配も。

 ノットは、初めから私たちを狙っていた。つまり正体に気づいていたってことだが……少なくともここに、私たちの正体を知る者はいない。変な気配も、なし。

 この国は大きく、たくさんの冒険者もいるが……まあ、実力は中の下……気持ち見積もって中の上ってところか。けど、中の下だろうが上だろうが問題はない。

 私は、上の上……そのさらに高みにいる連中を知っている。共に旅をして、死んだ状態から生き返らせられたとはいえ一戦を交えた……そんな特上ランクの相手を知っていれば、雑魚がどれだけ集まろうと脅威にはなり得ない。

 たとえこの国の冒険者が束になってかかってきても、苦戦すらしないだろう。もしかしたら、ユーデリアがあっという間に凍らせて終わらせちゃうかも。

 さあて、今回はどう始めようか。手始めに、適当な建物を爆発させる? それとも敢えて、目立つこの場所で人を殺してみせる? 自ら正体を明かして、周囲が呆気にとられているうちに事を済ますってのもありだな。

 さっきの冒険者たちみたいに、平和に賛成じゃない……つまり刺激を求めている人もいるかもしれない。だから一気に殺気を出して、周囲の反応を見てみるか……?


「うーん、どれも悪くはないよな……」

「きゃー!」

「……ん?」


 さてどの演出がいいか……そんなことを考えていたとき、遠くから女の声がした。はて、私はまだ殺気を出してはいない。これは、私に向けられたものではない。

 声の方向に視線を向ければ、それは国の出入り口……門がある方向だ。目を凝らせば、向こうから誰かが走ってくるのが見える。一人や二人ではない。

 それに声の数も、増えていく。悲鳴、に近いだろうか。それにあの動きは、こちらに向かってくるというよりも、こちらに逃げているといったほうが正しいか……

 ……逃げている、か? なにから? この平和な国で? 出入り口から逃げているということは、何者かが国に侵入してきたということじゃ……


「みんな逃げろ! 魔物が、魔物が出たぞ!」

「! 魔物……?」


 逃げてきた一人の男が、叫ぶ。それは人々に、この国に危険が迫っていることを伝えるもの。それも、内容は衝撃的だ。

 魔物、なんて……魔物は私が魔王を討ち取ったとき、この世から消滅したはずだ。……したはずだった。

 この世界に戻ってきて、旅を続ける道中……私は魔物と、いや魔獣と遭遇した。この世にはもういないはずの存在と、遭遇し、実際に戦った。

 結果としては勝ったが、これまでに見てきた魔獣とは全然違った。姿形を変え、力が増幅する……戦いの最中に成長するってやつだろうか。魔獣はただでさえ厄介だというのに、進化するという未知の変化に戸惑った。

 なにより、これまでの魔獣と違ったのは……しゃべったことだ。その内容はもう覚えてないけど、魔獣がしゃべるなんて現象見たことも聞いたこともないため、よく印象に残っている。とはいえ、あれ以来遭遇したことはなかった。

 それとまったく同じとはわからないけど……いるはずのない存在が、また現れたのは事実だ。それがこの国を襲ってきた……と。


「魔物? マジかよ! こりゃあ……」

「あぁ、しかもこの事態だ。退治すりゃ報酬金もたんまりじゃねぇか?」


 逃げ惑う人々……しかしそんな中、恐怖とは正反対の感情を浮かべる者たちがいる。それは喜び……に近いものだ。

 逃げる人々の方向とは逆……つまり魔物が来ているであろう方向を向き、二人組の男は笑っている。その手に、剣や槍といった武器を持って。

 あー、さっきの文句言ってた冒険者か。魔物がいなくなったから、稼ぎが少なくなったって。で、魔物がいて攻めてきたから、それを退治することで報酬金を貰おうと……台詞がなくても、いやらしい顔でバレバレだ。

 まあ、偉そうなことを言ってたんだ。それなりに実力はあるんだろうし、私からなにかしないでもいいか。そもそも、魔物に国を破壊されようが私が自分でしようが、変わらないしな。

 ……そう考えると、私はむしろ魔物に便乗した方がいいのでは……?


「おい、来たぜ!」

「へぇ、結構でけぇじゃんか!」


 あ、どうやら魔物の姿が見えたようだ。魔物っていう存在だけでも人々には恐れられたりするもんだけど、これだけの人が蜘蛛の子を散らすみたいに逃げるなんて、相当凶暴な……


「グォオオオオオ!」

「…………」


 ……でかくない? 大型トラックくらいの大きさがあるんだけど。

 四足歩行……に加えて四本の足。つまり八足歩行で、全身黒い毛並みに包まれている。パッと見狼のような姿かと思いきや、尻尾は三つにわかれている。結構でけぇどころじゃない。

 これまで見た魔物の中でも、でかさだけならトップクラスだ。大きくてもせいぜいが大型犬くらいだし。あんなのに、さて冒険者二人はどう立ち回って……


「行くぞおらぁあああ!」

「死ねやぁああ!」


 意気込み、得物を構えて魔物に向かう。見た目チンピラだけど、その姿は勇ましい。体格差がありすぎるけど、なんとかしてくれるんじゃないかという思いを与えてくる。

 さっきまで逃げていた人々も、立ち止まりどこか期待したような……というか希望に満ちた表情に変わっている。え、もしかしてあの二人結構有名だったりするのか? そこまで強くないとは思ってたけど。

 勇ましく迫る二人を捉えた魔物が、赤く光る瞳で見下ろす。その視線は、並の人間ならばそれだけで動けなくなってしまうほどに鋭い。

 そんな視線に臆することもなく、二人は、魔物へと飛びかかり……


「グゥオオ!」

「あっ」


 ……まるで虫でもはたき落とすような仕草で、魔物の足で払われた。それは、一瞬の出来事……人二人が、地面へと激突する。

 一瞬の出来事に、周囲は静まり返る。しかし、魔物の咆哮が現実を思い知らせ……


「キャアアァ!」


 再び人々は、逃げる。腕に覚えのある冒険者がやられ、もはや為す術がないと悟ったのだろう、一心に逃げる。

 魔物は建物を破壊し、人を踏み潰す。それは目を覆いたくなるような光景だが、あいにくと私にはどうってことない光景だ。このまま、魔物が国を滅ぼしてくれるのならちょうどいいんだけど……


「グゥウウ……!」

「……なに見てんのさ」


 魔物が、私を見ている。なにを考えているのかは、わからないが……足を振り上げたことで、なにをするかは予測できた。こいつ、私を踏み潰そうと……

 勝手に国を滅ぼしてくれるのなら放っておいたのに、私も殺そうとするなんて……私を邪魔するなら、こっちがお前を殺してやる……!

 左拳に魔力を込め、振り下ろされた足にカウンターの要領で拳を打ち込むビジョンを思い浮かべる。まずは一発、痛い目にあわせてやる!

 そうしているうちに、足が振り下ろされる。それは防御のしようのないほど強大な力、それを衝撃ごと跳ね返してやる。拳を握りしめ、タイミングを見計らって……


「せいや!」


 バチコォ!


「!?」


 ……振り下ろされていた足が、弾かれる。弾かれた足は行き場を失い、魔物は悲鳴にも似た叫びを上げる。

 なんだ、なにが起きた……誰かが魔物の足を、弾いた? 誰だ。ユーデリアは後ろにいるし、周囲は逃げ惑う人々ばかりのはず。魔物に立ち向かう者なんて……


「そこまでよ! 観念しなさい!」


 魔物の足を弾いた、何者かが……着地する。その人物は、魔物を指差し堂々と言い放った。

 ……さっきの料理店にいた、お面の店員が、そこにいた。
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