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もう一つの異世界召喚
禁術の方法は
しおりを挟むとにもかくにも、バーチは禁術についての情報を持っている。その情報を聞き出すために、早々にその話題に入らせてもらおう。
「それで、禁術の方法っていうのは?」
つい、食いつくように口を開いてしまう。求めていた情報が、ついに手に入るのだ、しかもこんなに早く。無理もないが。
その様子を見て、真剣さを受け取ったのか……バーチは、一つ咳払い。
「その本には、こうあった……禁術を使うのに主に必要なものは、人間の血、そして魔族の血……それに、呪術の力」
語られたのは、主にその三つ。人間、及び魔族の血。しかし、ひとえに血とはいっても、少量ではない。大量の、それも複数の者の血が必要だ。
そして、呪術の力。禁術とは、呪術よりもさらに先の、とんでもない力だと知識はあったが……禁術を使う過程で、呪術が必要なのだ。
聞いてみれば、普通に思い付きそうなものではある。あくまでケンヤが思う知識内ではあるが、なにか生け贄を捧げなければならない……町一つくらいの人間を殺さないといけないとか。
それを考えれば、人間と魔族の血、というものは比較的に軽いものだと思える。そこに生き血か死んだ者の血かどちらが必要かの指定がなければ、集めるのはわりと簡単だと思える。
死んだ者の血でなければ、それこそ町一つを犠牲にしないといけないかも、しれない。だが問題は、人間よりも魔族だ。ケンヤにとって人間の里には行ったことがないからわからないが、今魔族は、滅びていると言って過言ではない。
あの魔王城にも、外にも……魔族は、このガニムを除いて見当たりはしない。どれだけの量が必要なのかはわからないが、ガニム一人で賄えるものではないだろう。
とはいえガニムならば、限界まで自分の血を差し出そうとするだろうが……
「呪術の力が必要、ってのは、結構曖昧だな」
そもそもケンヤは、呪術の力がどういったものか正確にはわかっていない。それはガニムも同様だ。魔法、魔力とはまた異なった異質な力……それくらいの知識だ。
ゆえに、ケンヤとガニムには当然、呪術の力は使えない。残る可能性はバーチではあるが……
「悪いが、呪術は私も使えないぞ」
視線を向けると、バーチは首を横に振る。どうやら彼も、呪術については扱うことができないらしい。少しばかり期待していたが、仕方ないだろう。
だが、がっかりするのはまだ早い……と言わんばかりに、バーチは指を立てる。立てた人差し指を、意味ありげに左右に揺らす。
「ただし、私は使えないが……呪術の力を使うことのできる者ならば知っている」
「! 本当か?」
呪術の力を、使うことのできる者……その存在は、ケンヤたちにとっては朗報だ。目を見開き、先を促す。
「あぁ、本当さ。まあ、彼女は私と違い、一人を好むようだが」
「彼女?」
バーチの口ぶりから、その人物が女であるということがわかる。さらに、バーチとは違い……つまり、マルゴニア王国王子の側近、というバーチの立場とは違い、その人物はそういった役職にはついていないらしい。
バーチの仲間……というよりは、組んでいる、という表現が正しいのかもしれない。なぜだか、その表現の方が正しいと、感じた。
「彼女の名前は?」
「ノット」
その口から紡がれた名前……それを聞いた瞬間、ケンヤとガニムは今日何度目かの衝撃を受けた。まさか、ここでこの人物から、その名前を聞くとは思わなかった。
ノット……それは、ケンヤとガニムが、探していた者の名前で。
「ノット……本当に?」
「なんだ、知っているのか」
「あぁ、ええと……」
知っている、というのは果たして正しい表現なのだろうか。こちらが一方的に、それも名前しか知らないのだ。さらに、バーチの言うノットと探しているノットが同一人物とは、限らない。
「その、ノットってのは……暗殺者"疾風"のことか?」
「あぁ……確か、そんなことを言ってたな」
名前が同じだけの、別人。その可能性が浮かび上がったが、どうやらその線もなさそうだ。それはバーチの答えにより、明らかとなった。
こんな偶然が、あるだろうか。知りたかった禁術についての情報、探していたノットという暗殺者の情報……それを、一度に得ることができるなんて。
しかも、ただの情報ではない。バーチと組んでいるであろう上に、呪術という力まで使える。なんという偶然……これはもう、運命ではないか。
……それにしても。
「ノットって、人間の女だったのか?」
ガニムから話を聞いた上では、魔族だと思っていた。しかし、バーチの知り合いとなると……人間の線が強くなる。それも、性別不明だったのが女だとわかった。
「すみません、自分もてっきり、魔族かと……」
と、ケンヤの視線を受けて反省するガニムだが……噂に聞いた話であるし、真偽のほどは確かめようがない。仕方ないだろう。魔族が人間の話をしているとも、思うまいし。
まあ、ケンヤとガニムのように人間と魔族が一緒にいるパターンもあるのだ。一口に、人間と組んでいるからといって魔族でないとは言えないだろう。
「なんだ、知り合いだったのか?」
「いや……けど、探してた人物なのは間違いない」
とはいえ種族など、この際どうでもいいことだ。目的の人物への手がかり……これは、大きな前進だ。
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