355 / 522
もう一つの異世界召喚
本の部屋
しおりを挟む城に住むようになってから数日……二人の生活、そして関係性は、お互いがしっくりくるところまできていた。
まず、城での二人だけの生活だが……広いとはいえ、なにもすべての部屋を使うわけではない。百を超える部屋があるだろうが、使うのはせいぜい数部屋……それも、一つの部屋が大きいから、大抵は一つの部屋に決めて過ごすことが多い。
ガルヴェーブを寝かせる部屋は確定として、ケンヤとガニムが一人で過ごす部屋はそのときによって変更したりする。拠点とはいっても、ここが自分の部屋、と細かく決めているわけではない。
休める場所……それは拠点としてとても利点となるものだが、実はもう一つ、この城を拠点としてよかったと思える場所がある。それは……
「しかし、すごいな……この本の数は」
ある一室……そこに入ると、見渡す限りの本が並んでいる。天井まで届く棚が部屋の奥まで伸びており、その一つ一つに本が入っている。
まるで図書館……というには少々小さいかもしれないが、それは元の世界での図書館を想像するからだ。あそこは言わば、本を保管するためだけの場所……専門の場所というのが正しいか。
だからせいぜい、ここにあるのは、図書館以下学校の図書室以上……という、非常に曖昧な表現になってしまうわけで。まあ、要するにめちゃくちゃ本があるということだ。
少なくとも、この世界に来てからこんなに本を目にしたのは、初めてだ。召喚された当初は、ガルヴェーブが本を使って勉強なんかをしてくれたため、本の存在は知っていたが、まさかこれほどまでの数があるとは。
元の世界でも、図書館に訪れたのはケンヤの記憶では、小学校高学年が最後……だから、これほどの本に囲まれるのは、数年ぶりだ。
「これは、圧倒されるなぁ」
「そうですね……」
初めてこの部屋に入ったときは、それはそれは驚いたものだ。まるで、本たちが自分を見ているような、そんな気分にさえなった。いや、今でもなる。
今だって、部屋に入ったら圧巻されるのだから。
それはガニムも同様で、ケンヤ以上に本という文化に触れてこなかったため、興味津々だ。
人間の土地では知らないが、少なくとも魔族の土地では、本はあまり流通しているものではない。ゆえに、ガニムは生まれてから本を目にしたのは、数度程度。
これだけの本があれば、生き残っているかもしれない僅かな魔族を探すより、禁術についての記述がどこかの本にあるかもしれない。だからこの数日は、もっぱらこの部屋にこもっている。
病の発症や勇者の進撃があったのに、よくもこの部屋は無事だったなとありがたく思う。
「主は、魔族の文字はもうマスターされましたか?」
「はは、どうかな……以前はガルヴェーブに教えてもらっていたし、この数日でガニムにも教えてもらった。マスターとはいかなくても、読み書きくらいはできるよ」
異世界召喚され、言語は通じた。召喚の際、そういう魔法を一緒にかけていたらしいが……文字を理解することまでは、できなかった。
この世界に来てからはガルヴェーブ。この城に戻ってきてからはガニムに、それぞれ教えてもらった。本の文字を読むくらいなら、問題はないはずだ。
「それでも、ワタシじゃまだわからないところもある……頼らせてもらうことになると思うけど」
「いえ、自分にできることなら、なんでも聞いてください」
自信ありげに胸を張るガニム。そんな彼が自分を慕って、口調まで変えるものだから……いつしかケンヤも、『俺』から『ワタシ』に一人称を変えるなど、変化していった。
あんな畏まっているのに、いつまでも『俺』というのも格好がつかない。ということらしい。
「膨大だな……」
並ぶ本の数を見て、呟く。いくら一日の時間のほとんどをかけるとはいっても、二人だけでやっていては時間もかかる。明らかに内容の異なる本は置いておくとしても、どこに禁術についての記述があるのかわからない。
目を皿のようにして、見落としがないように読んでいく。それは、漫画のような絵、ラノベのような挿し絵のある本ばかり読んできた現代っ子のケンヤにとっては、どっと疲れる作業だ。
文字、文字、文字……それも、異世界のだ。ある程度読めるようになったとはいえ、城を出ていた期間のブランクのようなものはある。
ガニムがいてくれなければ、本を読み進めるのだって倍以上の時間がかかっていただろう。人数的な意味だけではなく。
「……ん?」
本を、読み進める……その中で、気にかかった単語を見つける。速読というほどではないが、それなりに速く読めるようになってきた……そんな中で、見つけた文字。
それは……探していた、ものだ。
『禁術とは』
その文字を見つけた瞬間、意識が一気に集中する。今読んでいるのは、自分が元の世界で目にすることがなかった、分厚い本だ。いや、本という分類で考えるなら、この厚さは辞書に近い。
ただ辞書の場合は、分厚く片手で読めるものが多かった。が、この本は大きい。パッと見A4くらいの大きさだろうか。
机に乗せ、読んでいる状態だ。そこで、ようやく探していた言葉を発見した。
「ガニム、ちょっと来てくれ」
すぐに、ガニムを呼ぶ。呼ばれたガニムは読んでいた本にしおりのようなものを挟み、寄ってくる。
「どうしました?」
「これ……」
と、今見つけた文字を指す。それを見たガニムの表情が変わり……ケンヤと視線を合わせ、うなずく。
そこに、なにが書いてあるのか……それを確認するために、読み進めていく。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
余命半年のはずが?異世界生活始めます
ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明…
不運が重なり、途方に暮れていると…
確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
公爵家の半端者~悪役令嬢なんてやるよりも、隣国で冒険する方がいい~
石動なつめ
ファンタジー
半端者の公爵令嬢ベリル・ミスリルハンドは、王立学院の休日を利用して隣国のダンジョンに潜ったりと冒険者生活を満喫していた。
しかしある日、王様から『悪役令嬢役』を押し付けられる。何でも王妃様が最近悪役令嬢を主人公とした小説にはまっているのだとか。
冗談ではないと断りたいが権力には逆らえず、残念な演技力と棒読みで悪役令嬢役をこなしていく。
自分からは率先して何もする気はないベリルだったが、その『役』のせいでだんだんとおかしな状況になっていき……。
※小説家になろうにも掲載しています。
異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。
星の国のマジシャン
ファンタジー
引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。
そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。
本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。
この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる