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もう一つの異世界召喚

拠点

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 ガルヴェーブとの別れを済ませたガニムがケンヤを主として従うと言ってきたり、これからの行動をするに対して拠点を作ろうという話になったり……新しい事態に、移ろうとしていた。

 ケンヤのことを主としてこれから接するというガニムには、これからケンヤも対応を考えていくとして……これから事を起こすのに、なにをするにしても拠点を手に入れるというのは、いい案かもしれない。

 このまま宛もなく歩き続けるより、よっぽど効率がよく思える。


「拠点……拠点か。けど、どこを……」


 一口に拠点と言っても、それをどこにするのか。悩みどころだ。単に場所だけをというのなら、この村でも構いはしないだろうが……

 しかし、せっかく拠点とするなら、使い勝手のいいところが好ましい。となると、この世界に詳しくないケンヤには、思い当たる場所は……


「……あ」


 あった、一つだけ。この世界に召喚されたケンヤが、ガルヴェーブに案内され……その後逃げ出すまで、ずっと暮らしていたあの城だ。

 あそこならば、拠点とするにはちょうどいいかもしれない。城に住んでいた者は今は誰もいないため、貸し切り状態と言っても過言ではないだろう。

 ただ、問題があるとするなら……二人だけでは、あの城は広すぎるということ。魔族のたくさんいた頃でさえ、まだ余裕はあったのだから。


「どうか、しました?」

「うん……城は、どうかなって」


 ケンヤが漏らした声に、すかさずガニムが反応する。それを聞かれて、隠すつもりはない……思い付いた場所で、城があることを告げる。

 だが、広すぎること……それ以上に、魔族の消えた城に果たして後腐れなく住めるものかどうか。幽霊の存在を信じていないわけじゃないが、ファンタジー世界で魔族が化けて出てくるというのもおかしな話。

 それに、場所が遠いのも一つ。城から逃げ、遠くへ逃げ、禁術の方法を聞き出すために城に戻り……また、手がかりを探すために城から出て、ここまでやって来た。

 そのおかげでガニムと出会えたとはいえ、行ったり来たりの繰り返しだ。


「城……魔王城ですか。自分は、その場所がどんなところかは知りませんが、悪くはないですね」


 とはガニムの見解だ。ガニムは本来、ガルヴェーブと共に魔王城へと向かうはずだったのだ。それを道中、離ればなれになってしまった。だからガニムは、魔王城へ行ったことがない。

 だからどんな場所かはわからないものの、少なくともたくさんの魔族が住んでいた場所だ。生活環境は、整っているのだろう。

 ガニムにも、城で起こったこと……『病』のことは話した。その影響により、今は城はもぬけの殻になっていることも。人払いならぬ魔族払いは、病により済んでいるわけだ。

 そう、病により。……その病が、いつガニムに牙を剥くかもわからない。そうなれば、ケンヤを襲ってしまいかねない。そうなってしまっては、申し訳ない……だからせめて、拠点とするなら狭い場所より、広い場所の方が対処しやすい。

 生活環境、病の危惧……その条件に、まさに城はうってつけだ。ガニムにとっては、魔族が病を発症し死んだ場所など、気にもならない。


「なら、城に行くとするか」


 ガニムが反対しないというのなら、ケンヤにも反対する理由はない。問題は、距離だ。城から歩いてきた方角は覚えているとはいえ、またあの距離を歩くと思うと……気乗りはしない。仕方のないことではあるが。

 せめて、一回目に城から逃げ出したとき……ガルヴェーブと共に城の外へと瞬間移動した、あの技が使えればかなり楽なのだが。

 あれ以来、同じことはまったく起こっていない。あの瞬間移動を使うことができれば、城への行き来はかなり楽になる。いや、城だけではない。

 いろんな場所へ行くことだってできるだろうし、ますます拠点があったほうがいろいろやりやすくなる。なにかあれば、すぐに拠点に戻って、考えることができるのだから。

 この瞬間移動については、先ほど病のこととあわせて話した。この世界に来てからの経緯は、細かにとはいかないが大まかなことは話してある。この世界の魔族であるガニムの方が、いろいろとわかることもあるだろう。


「……強く、念じてみてはどうです?」


 瞬間移動について、どうやらガニムも同じことを同じタイミングで考えてくれていたらしい。それは、例の瞬間移動を発動させるにあたって、可能性のある一つの見解だ。

 それは、言葉の通り、念じる……つまり城に行きたい、もっと言えば城に瞬間移動したいと、思ってみてはどうかというものだ。このファンタジーな世界には、あまり現実的であるとはいえない考え方だ。

 だが、現状他に思い付く手段がない。城から逃げたときだって、『ここにいたくない』『ここではないどこかへ行きたい』……ただそう思っただけだ。

 しかしそれも、強く念じたから現象が起こったと、言えなくもない。もっとも、ガルヴェーブを連れて城に戻っていったときだって、念じたことがないわけではなかったが。

 だから……試してみよう。


「ん……」


 自分と、ガニムと……ガルヴェーブと。この三人で、城に行きたい。いや行くと。目を閉じて、強く、強く念じて……そして……


「……え?」


 ふとした違和感に目を開くと、そこは……見覚えのある、建物の中だった。
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