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もう一つの異世界召喚

姉弟の再会

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 ……ケンヤが城を再び出てから、またそれなりの日数が経った。その間、周囲をよく見てみたが……魔族や魔物の気配も姿も、どこにもなかった。

 魔物は、魔王が死んだためこの世から消滅したという。魔物は、基本的には魔王が生み出したものだからだ。

 しかし、魔族も魔物同様、姿はなくなっていた。勇者に殺されたか、城の連中と同じように獣となったか、はたまた魔物に襲われたか……

 魔族と魔物は基本同じ存在であるが、なにも仲間というわけではない。魔物にとっては魔族も人間も変わらず、正真正銘同じ存在であるはずの魔物同士で争うこともある。

 ただし、あまりに強大な魔力には反応し、襲ってはこない。これは数少ない本能の危険察知能力が残っているからであろうか。魔物は普通、どれだけ傷ついても危機に陥っても、ただ本能のままに暴れ続ける。

 それでも、決して逆らってはならない存在は、わかるのだ。現に人間のケンヤが襲われなかったのは、ケンヤの魔力の強大さゆえ。


「……誰も、いないか」


 村に訪れても、誰もいない。一番最後に見た魔族は、サーズ……それ以降、誰もいない。魔族がいなければ、それはつまり禁術について情報を得ることができないということで。

 決して、人恋しい……いや、魔族恋しいというわけではない。それでも、あの日から誰とも会わず、気配すらないというのは……まるで、世界に一人取り残されたような気がして。

 それはなんだか、とても……


「……誰だ?」


 ……城を出て、どれくらい経った頃だろうか。もはや計算することも面倒になっていた。元々この土地は、暗い……元の世界でいうなら、常に夜の感覚だ。

 誰かの声を聞いたのは、ずいぶん久しぶりな気がする……それだけは、わかった。ガルヴェーブが殺され、城に戻るまでの間は……まだ、魔族が生き残っていたし、冷たい目を向けられながらも誰かが生きているという実感はあった。

 だから……この、自分だけが取り残されたような世界で、誰かの声を聞くというのは、一瞬聞き間違いではないかと思った。それでも、その声は再び……


「誰だ?」


 間違いなく、ケンヤに向けられる。お前は誰だと、ケンヤに対しての疑問を持って。

 よかった、まだ生き残りがいた……そう感じたのは、きっとケンヤだけではない。声の主も、同じ事を感じていたはずだ。この村に、他に誰かがいる気配はない。

 その声の主は、ゆっくりと向こう側から姿を現し……


「! 人間……?」


 即座に、警戒心を露にした。なぜ、この魔族が住まう地に人間がいるのか……語らずとも、ケンヤには彼がそう感じているのがわかった。

 これまで、会う度に魔族にそのような顔をされてきた。何度も、同じ言葉を吐かれた。なんで人間がここに、ここはお前のいる場所じゃない、立ち去れ……やはり、望まれて呼ばれた城の連中とは違う。

 誰も、人間であるケンヤを求めてはいない。それでも、口うるさい連中には……


「……!」


 こうして、魔力を溢れさせてやるだけで……大抵は、おとなしくなる。


「っ、なんだ、この、魔力……人間、だよな……?」


 本来、人間が持つはずのない魔力。正確に言うならば、人間が使う魔法の根元も、魔族が使う魔力と同じものではあるのだが……

 ケンヤの放つそれは、魔族のものに近く……どころか、より、どす黒くあった。なにが、彼にあったのか……少なくとも、人間が持てるような魔力じゃない。


「……」

「……」


 ケンヤが魔力を放ったことにより、魔族から敵意は失せた。自分では敵わないと悟ったからか、ケンヤが魔力を溢れさせるだけで敵意がないことに気づいたからか。

 両者、なにもしゃべらずにらみ合いが続く。せっかく自分以外の生き残りに会えたのに、どう対応すればいいのかわからない……そんなところだ。

 そのまま、永遠にも続く時が流れるかと、思われたとき……ケンヤを睨み付けていた魔族が、目を見開く。それは、ケンヤの顔から視線を外し……彼が背負っているなにかに、焦点を合わせたときだった。


「姉貴……?」

「?」


 絞り出すような声で、しかし確かに、こう言った……姉貴、と。ガルヴェーブを見て、姉貴と。

 ガルヴェーブは、もはや原型はないほどに体は朽ちてしまっている。皮膚も髪も骨すらも……それはもはや、魔族であったもの、としか表現できない有り様だ。

 それでも、魔族は……ガルヴェーブのことを、姉だと認識した。それは、姉弟だからこそわかる絆のようなものだったのだろうか。なにはともかく、ガルヴェーブを姉と言うということは、つまり……


「お、前が……ガニム、か……?」


 ガルヴェーブには、離ればなれになった弟がいると言っていた。そして、その名は……ガニム。

 彼がガルヴェーブを姉と言うなら、そういうことになる。


「貴様……姉貴に、なにをした!」


 感動の姉弟の再会……とは、ならなかった。それどころか、彼はケンヤに、先ほどとは比べ物にならないほどの殺意を向ける。

 それは、当然といえば当然だろう。見知らぬ男、それも人間が、離ればなれになった姉を背負っている……死体として。あの人間がなにかやったと思うのが、当然の流れだろう。

 溢れる殺意。一方、ケンヤは冷静だった……しかし、心中穏やかという意味ではない。ケンヤは魔族はもう嫌いな段階であるが、ガルヴェーブとその身内は別だ。

 決して、ケンヤがガルヴェーブを手にかけたわけではない。だが……彼にいったい、どう説明すればいいのか。果たして真実を話して、納得……いや、そもそもまともに話を聞いてもらえるか、どうか。
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