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もう一つの異世界召喚

誓いを新たに

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 ……ガルヴェーブから、マド一族についての話を聞いたケンヤは、その日の夜、一人ベッドに横になっていた。

 昼間に聞いたことは、知らなかったことばかりだ……彼女が話さなかったのだから当然であるが。

 だが、マド一族のことを抜きにしても……精霊という存在、ガルヴェーブには弟がいるという事実。過去のいざこざよりも、大きくこの二つが、ケンヤの頭の中を占めていた。

 ファンタジーの世界で……というか、元いた世界でだって、精霊という言葉は耳にすることがある。死後の魂であるとか、山や川、草木などに宿るとされる魂であるとか。この世界の精霊という存在も、それと近いものだろう。

 なにせ、火、水、地、風と四つの属性を持つ精霊がおり、それぞれサラマンダー、ウンディーネ、ノーム、シルフと呼ぶ……その四属性を持つ精霊を、ひとまとめに四大精霊と呼ぶそうなのだ。

 なんかかっこいいな、とは思う。それぞれの属性があり、名前があり……きっとこれが物語の中ならば、かっこいいなという気持ちだけで止まっていただろう。

 だがこれは、物語の中ではなく現実だ。精霊という存在はこの世界に存在している。もしも精霊という存在が、目の前に現れる可能性だってあるのだ。その場合、どうすればいいのか気に留めておく必要がある。

 ……ただ、存在している精霊に対し、なにをどうしろという話でもない。精霊は、基本的に世界に過度な干渉はしないのだという。人の前に姿を現すことだって、滅多にないし、あったとしてもそれは本体ではないらしい。

 ……基本的に、だ。もしもガルヴェーブがマドの一族の末裔と知られれば、きっと精霊は彼女を殺しに来る。現に、過去マド一族の一部を殺したのは、精霊という話だ。それに、先代の水の精霊を殺した呪術にも、強い憎しみを抱いているだろう。

 たとえガルヴェーブ自身が呪術を使えなくても、彼女の正体はなにがなんでも知られるわけにはいかない。精霊なんて仰々しく呼ばれているが、神様ではないのだ。すべてを見ていて、すべてを理解なんてできやしない。

 ガルヴェーブが生き残っているのが、その証拠だ。


「……ガニム、か」


 精霊、そしてガルヴェーブの弟……どちらかというと、ケンヤにはこちらの方が重要だ。自分(ケンヤ)をこの世界に召喚した、ガルヴェーブのたった一人の弟。

 今どこでなにをしているのか、わからない。昔生き別れてしまった、たった一人の弟だという。

 彼女は、きっと生きていると言ってはいたが……当然、弟の行方を探しはしたのだろう。彼女はそう言わなかったが、そういう性格だ。だが、なんの手がかりも得ることができていない。

 弟を、探しだしてあげたいとは思う。だが、この世界で育ったガルヴェーブが、生き別れてから今日に至るまで探し続けて……手がかりを得ることができないのにだ。この世界に来て数ヵ月のケンヤに、なにができるだろう。

 この世界……いやこの土地さえ、すべてを知らない。知り合いだって、この魔王城の中にしかいない。この世界には写真なんかもないから、姿も知らない。そんな相手を探す方法が、ケンヤにはない。

 ガニムのいう魔族も、自らの名前に忌み名が含まれているのは知っているだろう。自分から話さない限りバレることはないだろうが、確実というものはない。

 もしも、今どこかに一人でいて、忌み名がバレてしまうようなことがあれば……そう考えるだけで、ガルヴェーブにとっては気が気でないはずだ。


「……」


 ガルヴェーブの弟、ガニムを探したいとは思う。だがそれは、ケンヤにとってはあまりに手段がないどころか……時間も、そこまで残されてはいない。

 ガルヴェーブは言っていた。この世界に勇者が召喚され、世界が混乱に陥るその前に見つけ出したい……と。それは、言葉の通りだろう。

 勇者が召喚され、魔族を滅ぼすために攻めてきたら……自分たちは勇者を食い止めるために動かなければならなくなり、人探し……いや魔族探しどころではなくなる。

 勇者への対抗策を考えるのに手一杯で、他のことには手を回せない。そうなってしまう前に……なんとか、探しだすことができれば……


「んー……ルヴが自分のことを話してくれたのはいいことなんだけど、考えることが増えたなぁ」


 もちろんガルヴェーブは、ケンヤに余計な負担を持たせることはしないだろうし、身の上話をしたのも、なにかしらの打算があって、というわけではあるまい。

 それでも……知っておいてほしいという、気持ちはあったのかもしれない。だからこそケンヤに話した。もしかしたら、自分ガルヴェーブになにかあったとき、ケンヤにガニムのことをお願いしようと考えていたり……


「いや、それは考えすぎか」


 ガルヴェーブになにかあったとき……そんなときは、ない。いや、たとえあったとしても、自分が守る……彼女を、いや魔族を。

 ケンヤは、なんでもかんでも守れると思うほど、思い上がってはいない。それでも、自分の手が届く範囲で守ることができる者がいるなら、守ってやりたい……そう、思う。

 そのために、日々鍛えているのだ。勇者だろうとなんだろうと、好きには、させない。

 もし……勇者が召喚されるまでにガニムを見つけることができなかったとしても。さっさと勇者を食い止め、手を出させないように説得すれば……世界の混乱は、収まる。そのときにまた、改めて探せばいい。

 そのために……もっと、強くなろう。ケンヤは、誓いを新たに心に留めた。
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