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もう一つの異世界召喚

異世界召喚

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 ……召喚魔法というものが、ある。魔力のある人間は、また言い方こそ異なれど魔力を持つ魔族は、ある一定の力の量と知識があれば使うことが可能な、術。

 本来であれば、それは同じ世界……たとえば、自身の魔力を糧とし、自身の使い魔とした獣を召喚するもの。

 使い魔、つまり召喚獣は、召喚主に絶対服従の完全なる従僕じゅうぼくとなる。その力は召喚主の魔力の大きさに左右されるが、強大な魔力の持ち主が使い魔を呼び出せば、その獣は強大な力を持つ。もっとも、異世界にまで干渉する召喚魔法はまた規模もなにもかもが違うが。

 召喚魔法の例として、これより先の未来の話だが……勇者として召喚されたアンズ クマガイがマルゴニア王国を襲った際。マルゴニア王国の王子であるウィルドレッド・サラ・マルゴニアが、防衛のために召喚した、いわゆるドラゴンがいる。

 ……ともかく、召喚魔法とはこの世界ライヴ内で行われるものだ、基本的には。だが、例外というものもあり……それが、こことは異なる世界、つまり異世界へ干渉する召喚魔法である。

 この世界とはまったく異なる世界……それどころか、異なる世界が存在するのかすら、曖昧なもの。しかし、それでもその召喚術は確かに存在し、そして成功した。

 ケンヤ サカノ……魔族であるガルヴェーブが召喚術を試し、実際に成功させることができた。それは、過去に事実成功した事例があったというのも関係している。

 召喚術は、魔力の大きさや知識も大事だが、まず信じる気持ちが大切だ。信じることができないのに、異なる世界から人間を召喚できるはずもない。

 何十年か、何百年か……遥か昔、この世界『ライヴ』に召喚された人間がいた。人間側に『勇者』として、魔族側に『魔王』として。それぞれの種族に、一人ずつの人間が召喚されたのだ。

 かつて起こった事態は、いったいどれだけ正確に伝わっているのかわからない。文書に残っているわけではない、ただ言い伝えられているだけだ……

 ある話では、人間が異形である魔族を恐れ、先に勇者を召喚し攻めてきた。魔族は魔王を召喚し、勇者を食い止めたがその時には、半数以上の魔族が滅んでしまっていたと。

 ある話では、この世界を支配しようとした魔族が、人間を滅ぼすために魔王を召喚し、人間をそれを食い止めるために勇者を召喚。壮絶な戦いに発展した……と。

 なにが正しくて、なにが間違いか。直接その現場を見ていない限り、真実は誰にもわからない。語り草として長らく紡がれていても、どこかで真実がねじ曲がってしまうことは、大いに有り得る。

 ケンヤも、そして後に召喚されるアンズも……召喚主に伝えられる真実を元に、動くことになる。そこに悪意があるかもしれないし、ないかもしれない。

 少なくとも……ケンヤを召喚したガルヴェーブは、ただ魔族を守りたい一心でケンヤを召喚し、彼に頼んだ。魔族を救ってくれ、と……


「…………」


 現在の魔王……年老いたとはいっても、未だ絶大な力を持っている魔王は、異世界召喚術の方法を、ガルヴェーブに伝えた。それは彼女が適切であると判断したからだ。

 彼女の魔力も。彼女の性格も。

 ガルヴェーブ……ガルヴェーブ・マキトロニア。マキトロニア一族は代々、魔王とされる魔族に仕えることを一生の役目とする一族だ。だからか、魔族の中でも一定の地位を築いている。

 ……しかし。ガルヴェーブは……いや、マキトロニア一族は仲間である魔族に隠し事をしている。それは決して、誰にも明かしてはならないもの。

 ガルヴェーブ・マキトロニア……真名を、ガルヴェーブ・マド・マキトロニア。彼女ら一族は、本名を誰にも明かさない。明かしてはならない。

 それというのも、マドという名は忌み名として、過去に抹消されたはずの名だからだ。これがどうして忌み名と呼ばれるのか、それは一族に伝えられるもので、たとえ魔王であっても話してはならない。

 ガルヴェーブも、自身が忌み嫌われる存在であることを、知っている。それは、聞いただけのガルヴェーブすらおぞましく感じ……己に、その血が流れていることを呪った。

 過去に犯した、罪……それをただ罪と呼んでしまうのは、簡単だ。だが、罪という表現はあまりに生ぬるい。


「……マド・マキトロニア……」


 その名を呟く度に、記憶にないはずなのに頭が痛む。存在しないはずの記憶が、体験したことのない感触が、まるでここにあるようで。それでも、逃れられない運命。

 マキトロニア一族は、過去に罪を犯した。それは、魔族を滅ぼそうとした人間より、あるいは人間を滅ぼそうとした魔族より、よほど罪深い行為。誰にも知られてはならない、禁断の過去。

 そのはずだが……しかしガルヴェーブは、悩んでいた。この度異世界より召喚したケンヤに、話してみてはどうだろうか、と。この世界の人間ではないケンヤになら話しても支障はないだろう……話す理由も、ないのだが。

 いや、理由ではない……この胸の内を打ち明けて、すっきりしたいのだ。だから……


「ケンヤ様……話したいことが、あります」


 ガルヴェーブは、話すことを決めた。自身の一族が、過去になにをしたのかを……
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