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英雄狙う暗殺者の罠
守るための力
しおりを挟む残る体力、魔力を足に集中させ、爆発的に脚力を上昇させる。矢の雨には一見隙間などないが、この速さであれば駆け抜けることができる。
普段やるロケットスタートよりも、速さを追求したもの。正直、魔力の壁を、移動に合わせて動かせればいいんだろうけど……その力は、私にはない。エリシアなら、できたんだろうけど。
「マジか……!」
さすがに、この矢の雨の中を駆け抜ける可能性は考慮してなかったのだろう。グレゴの、驚愕した声が聞こえる。
余計なことは考えず、走る。とにかく、走る。足に刺さっても、体に刺さっても、とにかく顔だけはガードしておけばとりあえずは大丈夫だ。
左手で、顔をガードする。やはり相応の防御力があるようで、矢が当たっても突き刺さることなく、はねのける。今の私にとっては、これが唯一の防御手段と言ってもいい。
「……抜けた!」
矢の雨の範囲を抜け、勢い余って前転するように地面へと足をつける。受け身をとって、すぐに起き上がり状況を確認。
左手は、相変わらず黒いまま。体はボロボロ……どころか、足や体に何本か矢が突き刺さってしまっている。やはり、矢の雨を完璧に無傷で抜けることはできなかったか……
幸運なのは、痛みや痺れがないこと。痺れはともかく、痛みを感じないのは今だけだ……どうせ後々、襲ってくる。今は敵を倒すことに集中だ。
あとで、この戦いのダメージや疲労がいっぺんに襲ってくるんだろうなと、泣き言を言いたくなるのも今はなしだ。
「むちゃくちゃするな、アンズは」
と、声をかけてきたのはボルゴ。矢の雨を抜けるのに夢中だったが、どうやらボルゴの立つ位置の近くまで来ていたらしい。
これは、好都合……厄介な、守りの力を持つボルゴを……
「倒すチャンス、か」
「アンズの攻撃で、できるの?」
……こいつ、今挑発した!? 挑発したよね! こんなキャラだっけ!?
……とはいえ、ボルゴの言うことは一理ある。私の力じゃ、ボルゴの守りの力は破れるかはわからない……それは万全でも同じこと。
だけど、だとしても……!
『ボルゴはさー、なんか気弱だよね』
『えっ、なにさいきなり……気にしてるのに』
『いやぁ、ウチの男連中アレじゃん? それに比べたらずいぶんおとなしめだなって思って』
『グレゴやターベルトさんと一緒にしないでもらえる!? あの二人がいろいろと特殊なんだよ』
『あっはは、確かに。明るいというか好戦的というか……だから、二人とも攻撃的な力を持ってるのかもね』
『あぁ……それに比べて、この守りの力。果たして役に立つんだろうか』
『立つよ、なに自信なくしてるのさ! どんなに攻撃力があっても、防御力が皆無じゃ勝ち目なんてなくなっちゃうんだから。ましてや魔王討伐の戦い、強力な守りの力が私たちには必要で……』
『この間、攻撃は最大の防御、とかなんとか言ってなかったっけ。いらなくないこの力?』
『……と、とにかく! このメンバーの中に不必要な人なんて誰一人いなーい! 私は、そう思う!』
『ごまかしたな……』
『それに、ボルゴの守りの力がすごいって事実は変わらないよ。私や、師匠の拳でだって傷一つつかないんだから。大したもんだよ』
『ターベルトさんなんて、魔物に拳を打ち込んだ瞬間、魔物が内部から破裂したもんな……』
『それほどに強大で迫力的な攻撃も、ボルゴの守りの力は壊せない。この世に、ボルゴの守りの力を壊せるものはきっとないよ』
『それは大袈裟……でもないのかな。現にターベルトさんの拳が通用しなかったわけだし』
『そうとも! だから、自信を持って言うよ。ボルゴのその力は、私たちに必要なもの。もっと、自分に自信を持って!』
『……あぁ、そうだな』
……あの頃は、とても頼もしかった、ボルゴの守りの力。それが今は、とても……邪魔だ。
あの頃の私と今の私とじゃ、実際に力関係に差がある。自惚れじゃないが、格段に力を上げている自覚はある。それに、ボルゴの時間はあの頃のまま……死んでしまったのだから、進んでいるはずもない。
記憶の中の人物とはいえ、極端なパワーアップはないはずだ。いくら、私の記憶にない技を使ったとはいえ。強さは、あの頃と大差ない。
ただ、今私は万全ではないし、相手が相手だ。一対多人数の、それはもう泣きたくなるほどの敵。今の私の力で、どこまでできるか……
「おりゃ!」
「うわっ、いきなり……!」
ガギンッ!
目の前のボルゴへと、即拳を放つものの……それは、見えない壁に防がれる。魔力による透明な壁とは、また違う……よっぽど強力な力。
バランスのいい魔法の力や、サポートの射的、攻撃に特化した剣と拳の力とも違う……純粋な、守りの力。簡単に壊れるわけもない。
やはり、これを正面から破るのは無理と、割りきったほうがいい……!
「なら……!」
正面からでなく、回り込んでからの一撃。もっとも、それをしたところで……
ガンッ!
「っ、やっぱりか……!」
正面だけじゃなく、背後にも守りの力が働いている。全身を覆っているのか……この黒い左手でも、破ることはできないってわけか。
それでも……
「っ……」
僅かに、ボルゴの表情に変化がある。表情が、歪んだ。おそらく、さっきのグレゴと同じだ……守りの力を破れこそしないが、殴った衝撃は、伝わっている。
完全には、防ぎきれてないってことだ!
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