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英雄狙う暗殺者の罠
追い詰められる元『英雄』
しおりを挟む重い、重すぎる一撃は止まることはなく、貫かれる。このまま、勢いのままに腕ごと持っていかれるんじゃないかと思えるほどに、その一撃は強烈だ。
これが、両手で防ぐことができていたなら、また結果は違っていたかもしれない。だけど、残念ながら今の私には片手しかないし、呪術による腕も出てこない。
片手で防ぐだけでは、防ぎきるには至らず押されるのみ……いや、むしろそれでよかったのかもしれない。その場で攻撃を受け止め、踏ん張ることができていたとしたら……グレゴたちに、総攻撃を受けていただろう。
片手しかないのに、その片手を封じられてその場から動けなくなってしまえば、それは袋叩きのいいカモだ。
「とは、いえぇ……!」
このまま地面を抉りながら、後退し続けるわけには……だから、受け止めた状態の手のひらに残る魔力を溜めていく。身体強化しているから、反撃に使えるのは少しだけだけど……
これなら、反撃しても避けられまい!
「えいや!」
「ぬぅ!?」
魔力の塊を放ち、拳を打ち付けていた師匠を引き離す。その際、手から放った魔力はその場で爆発。本来手から放たれるはずのそれは、師匠の拳で蓋をされていた形になっていたのだ。
だから、魔力を放ってもその場で爆発してしまう。師匠を引き離すことには成功しても、私にも反動がくる。
「っく……」
ただ、これで一応は引き離すことに成功した。またどうせすぐに、攻撃が始まるだろうけど。
そうなる前にこちらから仕掛け……たいところだけど、他のメンバーともずいぶん引き離されてしまった。この位置じゃ、私が距離を詰めるよりも先に、エリシアの魔法やサシェの矢が飛んでくる方が早いだろう。
しかも、離れている分攻撃を察知しにくい。どこからどんな形で狙ってくるか……
「……っ!?」
しかし、その瞬間体に異変が起きた……体が、突然動かなくなったのだ。なんの前触れもなく、いきなりだ。
これは……かすかに、エリシアの魔力を感じる。金縛りのような、動きを封じる魔法だろう。確かマルゴニア王国で再会したときも、そんな魔法を使っていた……
「ぐっ……油断した……!」
いつどこから攻撃がくるかの注意をしていたからか……これは、予想外だった。攻撃どころか、動きを止めるためのものだなんて。
あのときは、力ずくで拘束を解いた。今だって、同じことはできるだろう。ただ、そうしてもがいている間に、向こうの一斉攻撃をくらいかねない。
私の使える魔力で拘束を解ければいいが、残念なことにエリシアの半分の力しか出せないこれでは無理だろう。
くそっ、エリシア……以前は、自分の視界に入った相手しか拘束できなかったはず。今は、あんなに遠くにいるのに……幻覚のエリシアだから目がすごくいいのか、さっきのボルゴみたいに私の知らない技を使っているのか……
どちらにせよ、エリシアの魔力を動きを止められたという現実は変わらない。
「ぐぬぬ、くぅの……! ……っ、うぉ!」
この際力任せでも、構わない。拘束を解くためにもがく……が、拘束の力は強力だ。いくら私でも、少しもがいたくらいじゃ抜け出せない。
そこへ、なにかが飛んでくる。そのなにかはギラリと光り、サシェの放った矢であろうことは想像するのに難しくはなかった。それは額に一直線……寸前に、腰を後ろに曲げる形で、矢の軌道上から額を外し回避。
動けないとはいっても、まだかすかに……それこそほんの少しだけど、動けはする。おかげでなんとか、かわすことはできたものの……
「あーあ、また外しちゃった。残念。でも、いつまで続くかな」
見えないはずの、サシェの声が響く。サシェの声は無邪気な子供のようだが、それがここにきてこんなに恐怖を煽るものに変化するとは思わなかった。
その言葉が止んだ直後、一本、また一本と放たれる。動くことはできない……が、魔力は使える。正面に、透明なバリアを張るイメージで、魔力を展開。矢を、弾き落としていく。
これだけで、防げればいいんだけど……
「ぐっ、ぅう……!」
左腕に、痛みが走る。サシェの矢が、正面のバリアをかいくぐってきたのだ……それが、左腕に突き刺さった。
さっきのボルゴみたいに、全身にバリアを張るなんてことはできない。そんな精密なやり方はよほどの集中力がないと無理だし、この状態ならなおさらだ。
曲がるサシェの矢は、なんの障害もなく私の左腕に……!
「いっ、たぁ……!」
刺さったままのそれは、本来もう片方の腕を使って抜けばいいんだろうけど……抜くためのもう片方の腕が、ない。矢が抜けなければ、当然刺さったままな訳で。
魔法を使えば抜けるけど、そっちに気を回す余裕もないし。今はとにかく、この金縛りから解放されることが大事……!
「……っ、な、に……?」
もがいてもがいて、金縛りを力ずくに解くことに成功……すぐに、少し移動しなければいけないところへ、体に異変を感じる。その場に、膝をついてしまう。
なんだ、急に……体が、痺れる……? これは……
「ふふーん、痺れ矢。さすがのアンズでも、効いたみたいだね」
原因は……この左腕に突き刺さった、矢のせいか! この矢の先端に、痺れ薬でも塗ってあるのか元々そういう効果があるのかわからないけど……
とにかく、この矢のせいで、体が痺れて動けなくなっている……のか。
「うっ……ちょ、待った待った待ったぁ!」
エリシアの金縛りに、サシェの痺れ矢……それにより私の動きが大きく制限されてしまい、その間にグレゴと師匠の体勢も整っていくわけで。
二人が、迫ってくる。正面に展開した、魔力の盾に……グレゴの大剣と、師匠の拳が、衝突する。
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