239 / 522
世界への反逆者 ~英雄と師~
【幕間】『英雄』を殺せる者
しおりを挟む禁術により、死した状態から生き返らせるに至った『剛腕』ターベルト・フランクニル。彼が『英雄』と氷狼を共に始末すること……これが理想ではあった。だが、現実はそうとはならなかった。
『剛腕』と『英雄』は死闘を繰り広げ、戦況は圧倒的に『剛腕』に傾いていたが……結果として、彼の敗北となった。
『剛腕』を生き返らせた理由としては、『英雄』と氷狼を始末してもらいたかったから。しかし、それは実現しなかったため……実現しなかったパターンの、次の動きを考えておく必要があった。
「このあとの話……か。あの『剛腕』が二人を始末できていれば、話はもっとスムーズだったんだが……ま、終わったことをいつまでも言っていても、仕方がない」
男は改めて、仕切り直す。邪魔な、『英雄』と氷狼を消すための算段を立てるために。
「まあ、打つ手は実はもうほとんど残っていないんだ」
「ないぃ?」
「あぁ。不足の事態があったとはいえ、『英雄』が『剛腕』を打ち砕いたのは事実……この先、『英雄』を消せる人物となると、必然的に『剛腕』よりも強い人物ということになる。そんな奴が、果たしてどれだけいるか?」
男の説明に、ノットは納得する。要は、ターベルトを殺した『英雄』に、ターベルト以下の実力の持ち主をぶつけても返り討ちにされるのが目に見えている、ということだ。
かといって、かつて『剛腕』と呼ばれた男以上の実力を持つ者が、他にいるかというと……
「近しい実力の持ち主で言うなら、やはり『剣星』や『魔女』だろう。だが、彼らは知っての通り、『英雄』に始末されている」
「他に実力者を探ろうにも、あの魔王を討伐するための旅のメンバーに選ばれなかった時点で、奴らより劣る、ということですね」
「そういうことだ」
男の言葉を細くするように、ガニムが告げる。世界は広い……とはいえ、その広い世界から選ばれたのが、勇者パーティーのメンバー六人だ。いや、この世界の者で言えば五人だ。
うち生き残ったのは二人だけだが、どちらも『英雄』に殺されている。『剛腕』は先ほど話した通り……他に『弓射』や『守盾』を禁術によって生き返らせる手もないことはないが……
「残る二人では、心許ない」
『英雄』の師匠であった『剛腕』、世界中の剣士の頂点に立つ『剣星』、魔法術師の中でも格段に秀でた才能を持つ『魔女』……これら三名に比べ、残る二人では『英雄』を殺すどころか深手すら負わせられないだろうというのが、現実的な考え方だ。
彼らにつけられた名は、そのまま体を表している。遠距離からの射的等による攻撃では正確無比な『弓射』だが、『英雄』の危機察知能力の前にはそれも意味のないものだろう。
『守盾』は言うまでもなく、守りの力。それがどれほど固く、『英雄』の破壊的な攻撃すら防げたとしても……攻撃力が、『守盾』にはないのだ。
あるいは、一人ずつではなく、誰かとペアを組ませる。たとえば『守盾』に防御は任せ、攻撃力の高い人物を送り込むことも考えたが……
「かつての仲間の癖は、覚えているだろうからね」
言ってしまえば、かつて旅を共にした仲である以上、その者の癖などはもちろん、弱点となる行為も知っているだろう。
現に、『剣星』と『魔女』はかつての仲間という、事前の情報と氷狼の協力で活路を見出だした。『剛腕』に関しては、戦法が似ている……というより純粋に彼の戦法を真似たものなのだから、激闘は必須だ。
それに、禁術によって死者を生き返らせた場合死者の実力は、その者が生前に死んだ最期の瞬間が反映される。従って、死んで力の成長が止まった『弓射』に『守盾』では、現在進行形で強くなり続けている『英雄』に勝ち目はない。
だから本来、『英雄』のような相手に、生き返らせた人物を当てるのは得策ではない。『剛腕』は例外であるが。
「じゃあ、結局のところそれなり以上の実力がある奴じゃないとダメって訳か」
「あぁ。以前やったように、適当に見繕って呪術の力を与えてもいいが……あれも、そこまで万能ではない」
氷狼の村で、『英雄』と氷狼に男たちを仕向けた際……彼らには、呪術の力を与えておいた。結果、呪術の力は男たちに力を与え、『英雄』を翻弄はしたが……最期で、自滅する形になった。
適正がない者が呪術を使えば、そうなる。大きすぎる、呪いの力によって使用者は破滅する。それは、禁術により生き返った者にも、理論的には同じことであろう。
それに、呪術の力で一時的なパワーアップをしたところで、結局はその場しのぎ。与えられただけの偽りの強さは、本物の強さには敵わない。そういうことだ。
「そこで、だ。ノット……キミに、『英雄』及び氷狼の始末を依頼する」
「……はぁ?」
誰か適任はいないか……そう考えていたところへの、予想外の言葉に、思わずノットはすっとんきょうな声をあげる。
予想だにしなかった言葉に、思わず言葉を失う。が、どうやら聞き違いではないようだ。
「……正気か?」
「正気だ」
「私はぶっちゃけ、あの『剛腕』よりはるかに弱いぞ?」
「はっ」
自分の力は、自分が一番よくわかっている……鼻で笑うガニムに苛つくが、今だけは無視する。
「自惚れるつもりはないが、私はそこいらの雑魚とは違う。けど、『剛腕』ほどの強さなんてない。奴より弱い奴が『英雄』に勝てるはずもない……そう言ったのはあんただぞ?」
ターベルト・フランクニル……彼ほどの力はないと、自負している。だからこそ、これは無駄な依頼ではないかと思うのだが……
「正面から戦えば、まあ勝てないだろう。が、キミにはキミのやり方がある……そうだろう? 暗殺者"疾風"と呼ばれる、キミならではの」
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
余命半年のはずが?異世界生活始めます
ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明…
不運が重なり、途方に暮れていると…
確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。
公爵家の半端者~悪役令嬢なんてやるよりも、隣国で冒険する方がいい~
石動なつめ
ファンタジー
半端者の公爵令嬢ベリル・ミスリルハンドは、王立学院の休日を利用して隣国のダンジョンに潜ったりと冒険者生活を満喫していた。
しかしある日、王様から『悪役令嬢役』を押し付けられる。何でも王妃様が最近悪役令嬢を主人公とした小説にはまっているのだとか。
冗談ではないと断りたいが権力には逆らえず、残念な演技力と棒読みで悪役令嬢役をこなしていく。
自分からは率先して何もする気はないベリルだったが、その『役』のせいでだんだんとおかしな状況になっていき……。
※小説家になろうにも掲載しています。
異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。
星の国のマジシャン
ファンタジー
引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。
そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。
本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。
この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる