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世界への反逆者 ~英雄と師~

【幕間】『英雄』を殺せる者

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 禁術により、死した状態から生き返らせるに至った『剛腕』ターベルト・フランクニル。彼が『英雄』と氷狼を共に始末すること……これが理想ではあった。だが、現実はそうとはならなかった。

 『剛腕』と『英雄』は死闘を繰り広げ、戦況は圧倒的に『剛腕』に傾いていたが……結果として、彼の敗北となった。

 『剛腕』を生き返らせた理由としては、『英雄』と氷狼を始末してもらいたかったから。しかし、それは実現しなかったため……実現しなかったパターンの、次の動きを考えておく必要があった。


「このあとの話……か。あの『剛腕』が二人を始末できていれば、話はもっとスムーズだったんだが……ま、終わったことをいつまでも言っていても、仕方がない」


 男は改めて、仕切り直す。邪魔な、『英雄』と氷狼を消すための算段を立てるために。


「まあ、打つ手は実はもうほとんど残っていないんだ」

「ないぃ?」

「あぁ。不足の事態があったとはいえ、『英雄』が『剛腕』を打ち砕いたのは事実……この先、『英雄』を消せる人物となると、必然的に『剛腕』よりも強い人物ということになる。そんな奴が、果たしてどれだけいるか?」


 男の説明に、ノットは納得する。要は、ターベルトを殺した『英雄』に、ターベルト以下の実力の持ち主をぶつけても返り討ちにされるのが目に見えている、ということだ。

 かといって、かつて『剛腕』と呼ばれた男以上の実力を持つ者が、他にいるかというと……


「近しい実力の持ち主で言うなら、やはり『剣星』や『魔女』だろう。だが、彼らは知っての通り、『英雄』に始末されている」

「他に実力者を探ろうにも、あの魔王を討伐するための旅のメンバーに選ばれなかった時点で、奴らより劣る、ということですね」

「そういうことだ」


 男の言葉を細くするように、ガニムが告げる。世界は広い……とはいえ、その広い世界から選ばれたのが、勇者パーティーのメンバー六人だ。いや、この世界の者で言えば五人だ。

 うち生き残ったのは二人だけだが、どちらも『英雄』に殺されている。『剛腕』は先ほど話した通り……他に『弓射』や『守盾』を禁術によって生き返らせる手もないことはないが……


「残る二人では、心許ない」


 『英雄』の師匠であった『剛腕』、世界中の剣士の頂点に立つ『剣星』、魔法術師の中でも格段に秀でた才能を持つ『魔女』……これら三名に比べ、残る二人では『英雄』を殺すどころか深手すら負わせられないだろうというのが、現実的な考え方だ。

 彼らにつけられた名は、そのまま体を表している。遠距離からの射的等による攻撃では正確無比な『弓射』だが、『英雄』の危機察知能力の前にはそれも意味のないものだろう。

 『守盾』は言うまでもなく、守りの力。それがどれほど固く、『英雄』の破壊的な攻撃すら防げたとしても……攻撃力が、『守盾』にはないのだ。

 あるいは、一人ずつではなく、誰かとペアを組ませる。たとえば『守盾』に防御は任せ、攻撃力の高い人物を送り込むことも考えたが……


「かつての仲間の癖は、覚えているだろうからね」


 言ってしまえば、かつて旅を共にした仲である以上、その者の癖などはもちろん、弱点となる行為も知っているだろう。

 現に、『剣星』と『魔女』はかつての仲間という、事前の情報と氷狼の協力で活路を見出だした。『剛腕』に関しては、戦法が似ている……というより純粋に彼の戦法を真似たものなのだから、激闘は必須だ。

 それに、禁術によって死者を生き返らせた場合死者の実力は、その者が生前に死んだ最期の瞬間が反映される。従って、死んで力の成長が止まった『弓射』に『守盾』では、現在進行形で強くなり続けている『英雄』に勝ち目はない。

 だから本来、『英雄』のような相手に、生き返らせた人物を当てるのは得策ではない。『剛腕』は例外であるが。


「じゃあ、結局のところそれなり以上の実力がある奴じゃないとダメって訳か」

「あぁ。以前やったように、適当に見繕って呪術の力を与えてもいいが……あれも、そこまで万能ではない」


 氷狼の村で、『英雄』と氷狼に男たちを仕向けた際……彼らには、呪術の力を与えておいた。結果、呪術の力は男たちに力を与え、『英雄』を翻弄はしたが……最期で、自滅する形になった。

 適正がない者が呪術を使えば、そうなる。大きすぎる、呪いの力によって使用者は破滅する。それは、禁術により生き返った者にも、理論的には同じことであろう。

 それに、呪術の力で一時的なパワーアップをしたところで、結局はその場しのぎ。与えられただけの偽りの強さは、本物の強さには敵わない。そういうことだ。


「そこで、だ。ノット……キミに、『英雄』及び氷狼の始末を依頼する」

「……はぁ?」


 誰か適任はいないか……そう考えていたところへの、予想外の言葉に、思わずノットはすっとんきょうな声をあげる。

 予想だにしなかった言葉に、思わず言葉を失う。が、どうやら聞き違いではないようだ。


「……正気か?」

「正気だ」

「私はぶっちゃけ、あの『剛腕』よりはるかに弱いぞ?」

「はっ」


 自分の力は、自分が一番よくわかっている……鼻で笑うガニムに苛つくが、今だけは無視する。


「自惚れるつもりはないが、私はそこいらの雑魚とは違う。けど、『剛腕あれ』ほどの強さなんてない。奴より弱い奴が『英雄』に勝てるはずもない……そう言ったのはあんただぞ?」


 ターベルト・フランクニル……彼ほどの力はないと、自負している。だからこそ、これは無駄な依頼ではないかと思うのだが……


「正面から戦えば、まあ勝てないだろう。が、キミにはキミのやり方がある……そうだろう? 暗殺者"疾風"と呼ばれる、キミならではの」
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