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世界への反逆者 ~英雄と師~
傲慢すぎるだろ
しおりを挟むバキバキッ……!
「くっ……」
ユーデリアの冷気により地面が、そして師匠の足をも凍らせていく。しかしそれは、たいした足止めになることはない。
凍った足を力付くで動かし、氷を剥ぐ。歩き地面に足をつけた段階でまた凍っていくが、足を動かすとまた剥がれるため、同じことだ。
ユーデリアの冷気では、足止めはできない。
「子供にしてはたいした力だ。うん、すさまじいな」
「嫌みにしか聞こえないんだけど」
ユーデリアは、さらに冷気の勢いを強くする。しかしそれも、凍らせても次の瞬間には剥がれていくため、意味を為さない。
意味を為さない……ならば、次にユーデリアがとる行動は、決まっている。
「グルルル……!」
「ちょっ……」
その場で吠え、力を蓄える。額から氷の角を生やしていく。
師匠に、立ち向かおうというのだ。
「待って、キミじゃあの人には……」
「そんなん、やってみないとわからないだろ。いいから、さっさとそいつ回復させといてよ!」
……ユーデリアの、言うとおりだ。今は、コアの体を治すことが最優先。そのために他に気を散らしていられないし、体の痛みを感じていない今だからこそ、ユーデリアが体を張ってくれている今だからこそ、急がなくては。
とはいえ、焦ってはダメだ。焦りは一つの邪念となって、集中力を乱す。あくまでも目の前の、コアの体を治すことだけに、意識を集中するんだ。
「一人……いや一匹で向かってくるか。その心意気やよし!」
「お前がアンとどんな関係か知らないが、邪魔をするなら、殺す!」
「アン……もしかしてアンズのことか? ははぁ、呼び名まであるなんて。お前さんらは仲良しなんだなぁ」
「ほざけ!」
視線は、そらさない。コアから、外さない。意識も、集中する。それでも、声が、音が、耳に届く。なにが起きているかは見えないけど、なにが起きているかは聞こえる。
まだ、完全に集中できてないってことか。
「なかなかすばしっこいな」
「速さが、武器なんでね!」
「っと!」
ガキンッ
……集中、集中……
「ヒ、ィ……」
「よし……」
コアの、体の内側……内臓部分は、なんとか治癒に成功する。内臓にダメージとはいっても、臓器が激しく損傷、といったダメージではなかったから、幸いだ。
あとは、この折れた足。それに、コア自身が負ったダメージも……
ドクッ……!
「くっ……!」
胸が、痛い。いや、胸も腹も、さっき主に傷つけられた部分が。こんなタイミングで、痛みが、ぶり返してきた……!
待て、待て待て……まだ、早い。せめて、この子の傷を、治してから……!
「その額の角、なかなか硬いな! 全然折れんわ!」
「素手で折られたら、立場がないんだよ!」
ガン! ギィン!
まるで金属がぶつかり合うような、音。それが、嫌に頭の中に響いてくる。
くっ、頭も痛くなってきた……けど、ここで治癒をやめるわけには、いかない。続けられるまで、続けてやる……!
「ブル、ゼェ……」
「もう少し……もう少し、だから」
「氷狼とやり合うのは初めてだ! なんともまあ愉快だな! 生き返ったことに感謝だな!」
「生き返っ……はぁ? ちっ……」
……折れた足を治すのは、そう難しいことではない。先ほどの内臓に比べれば、目で見える部分が多い分、やりやすくもある。
一本、また一本……丁寧に、治していって……
「ぐぅわ!」
「青い! いいセンスは持っているが、いかんせんまだ若いなぁ。青臭いわ」
「ちっ……!」
……よし、終わり! まだ完全に治せたとは言えないけど、とりあえずこのまま死んでしまうということはない!
あとは、自分の傷を治して……
「ぅぐ!」
「ぶへ!」
……しかしそこへ、なにかが……ユーデリアが飛んできて、うまい具合に私に激突する。なんの用意もしてなかったから、もろにふつかってしまう。
こいつ、師匠に、吹っ飛ばされて……
「いっ……」
「わ、悪い……」
「たぁあああい!? 痛みが、ぶり返して……!」
今の激突で、かろうじて抑え込んでいた痛みが、一気に、ぶり返してきた。
あー、これ、ヤバイかも……
「わ、悪かったって……それより、コアの様子は……」
「ぁぐぅああぁあ!」
ヤバいヤバいこれ尋常じゃない痛みだ! ただでさえさっき殴られ続けていたのに、その痛みを感じなくなった間コアに回復とは魔法を使い続け、放置。
さらに痛みが、増している!
「ぅううぅう……!」
「アンズぅ、やせ我慢はもうできないみたいだな。お前の内臓はもうぐちゃぐちゃ……今生きてるのが、不思議なくらいだ。せめてあのボニーよりも自分の治療を、優先してればなぁ。ま、お前にとっちゃ自分よりも、いつ死ぬかわからないボニーを優先したってところだろうな」
「ぐっ、ぅ……!」
「自分以外はすべて殺さんとする勢いだよな、これまでのお前のやり方は。エリシアも、グレゴも、ウィル王子も、その他の国や村の人々も……なのになぜ、そんなボニー一匹見捨てることができない? 人の大切なものを奪っておきながら、自分は嫌だなんて……傲慢すぎるだろう?」
……大切なもの……か……そんなもの、とっくに私は、失ってる……!
そんなこと、言われなくても……わかって、いる……!
「はは、せっかく治したのに御愁傷様だな。その氷狼も、今のお前も、俺には勝てない。そのボニーは、また同じ痛みを味わうだけだ。はは、なんとも酷いことをさせるなぁ、アンズは」
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