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英雄の復讐 ~絶望を越える絶望~

無数の剣

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 ユーデリアが村人の足を奪ったために、村人は逃げることはできない。奪ったってのは比喩で、物理的にってわけじゃないけれど。

 まあ、一撃で殺していくよりも……体の部位を壊していき、じわじわと殺していくのも、悪くはないかもしれないけど。


「グルルルル……!」


 ユーデリアから放たれる冷気はその威力を増していき、周囲の地面を次々凍らせていく。それに伴い、地面に突き刺さった剣も、凍りついていく。

 結局、これがなんなのか、わからないままだったな。まあ、そういう村もある、ってことで納得しておくしかない。それに、どうしても知りたいわけでもないし。


「く、そぉ! こんなとこで、死んでたまるか!」


 騒ぎを聞きつけ駆けつけてきた村人も、次々動けなくなってしまう。しかし、みながみな無抵抗のままにされるがままなわけではない。

 ある者は戦う意思を見せ、地面に突き刺さっている剣を引き抜く。地面にしっかり刺さっているのかと思っていたが、結構簡単に抜けるんだな。


「う、おぉおお!」

「待て、近づいたら……!」


 ある者は剣を取り、突撃してくる。しかし、仲間の制止の声も聞こえないほどに逆上している村人は……気づかない。こちらに近づけば近づくほど、ユーデリアの冷気にさらされ、氷付けにされてしまうことを。


 パキィン……!


 近づけば氷付けになり、近づかなくても死の瞬間を待つだけだ。ここにはどうやら、魔法を使える者は一人もいないらしい。

 貧しい貧しくない関係なく、これだけの村で魔力を持つ人間が一人もいないというのも、珍しい。


「おぉおお、なにしてんだてめぇら!」

「!」


 ガキッ!


 咄嗟に、私は左腕に魔力を通して硬化。同時に右上へと腕を振るうと、そこに振り下ろされた剣を受け止める形になる。


「! 腕、で!?」


 剣を振り下ろし、攻撃を仕掛けてきたのはレバニルだ。私が腕で剣を受け止めたことに驚いているようだが、こっちだって驚いている。

 さっきまで、魔物の相手をしていたんじゃないのか?


「……あ」


 ……と、声を漏らすのはユーデリア。何事かと思い、その視線の先を追ってみると……その先では、足元が凍りつき動けなくなった魔物がいるではないか。

 どうやら、冷気の範囲を広げているうちに、魔物まで巻き込んでしまったらしい……


「な、に、し、て、ん、の……!」

「いや、その……仕方ないだろ……」


 魔物は放っといても、村人を襲ってくれていたのに。魔物が動けなくなったんじゃ、魔物の相手をしていたレバニルがこちらへ来るのは当然だ。

 気まずそうなユーデリアはまああとでお説教するとして……今相手にしているレバニルは、たいした実力じゃない。こんなの、簡単に対処でき……


「!?」


 しかし、予想通りに物事は進まない。レバニルが放った一閃は、どういうわけか不規則な動きを見せて動いていく。

 受け止めていた剣を引いたかと思いきや、続いて再び振り下ろしてくる……が、その切っ先が向かうのは私の再び私の頭だ。

 再び同じところに剣を振り下ろしてくるなんて、私が対処できないはずもない。またそれを受け止めるが……今度は、その剣を手放す。

 手放したかと思えば、地面に刺さっている剣を抜きそれを使って斬りつけてくる。しかしその一閃には力はこもっていない……いや、力がこもっていないというより、鋭さがない。


「……」


 めちゃくちゃだ。レバニルの剣撃は、まるで法則性がない。先ほど、魔物に対する動きを見て素人に毛が生えた程度と思ったが……その考えは、間違いじゃなかったようだ。

 ただ剣を振り回すだけ、というほど規則性がないわけではない。だが、剣士と言えるほどにかしこまった動きというわけでもない。

 めちゃくちゃな動き、ゆえに動きを推測しにくい。しかも、剣を捨てては地面に刺さった剣を取り、また剣を捨てて拾う。それは、この戦場において無限の武器があるアドバンテージとも言える。

 だが、こんなこと繰り返していても……


 ゾワッ


「……?」


 なんだろう、今……なんか、胸の奥がざわっとした。いや、背筋を手のひらで撫でられているような、ぞわぞわした感覚。

 なんだこの感覚は……レバニルが、あの剣を取った瞬間だ。あの剣から、なんとも言えない不気味な気配を感じる。

 ……あれを受けては、いけない!


「っと……!」


 振るわれる一閃を、身を捻ることで避ける。

 今まで腕で受けたり、蹴り砕いたりしてきたが……こうして、向けられる剣に対して妙な違和感を覚えてしまうのは、なぜだ。

 この感覚、以前にもどこかで……


「おら、どうした! 避けてばかりで!」


 これまで反撃に転じていた私が、回避に集中しているのが不思議なのだろう。それでも、逃げる相手に徐々に、調子をあげていく。

 あの剣に当たったら……いや、斬られたら。まずいと、私の中で第六感が訴える。

 この感覚は……そう、まるで『呪剣』を相手にしたときと同じ……!


「もしかして……」


 この、無数に広がる剣の景色。この剣の中に、まさか『呪剣』のように、呪われた……呪術に関係した剣が、あるのではないか。

 これだけの剣があるのだ、なにがあっても不思議ではない。


「ぅ、ぉ、お……!」


 その証拠……と言ってもいいものか。それを使っているレバニルの目から、徐々に目から光が、生気が失われている。『呪剣』を使っていたコルマ・アルファードと同じように。

 まあ、あいつは元からおかしかったのかもしれないけど。

 やはり、この剣も……!
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