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英雄の復讐 ~絶望を越える絶望~

増幅する魔力

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「すげえ魔力だ……お前ら、気張れよ!」


 元々、エリシアの魔力の半分……それだけしか、私は発揮することができない。しかし、『魔女』と呼ばれたエリシアの魔力は、たとえ半分とはいえ凄まじい力がある。

 それこそ、並の魔法術師なんか、目じゃないくらいに。


「相手は女子供だ。とはいえ……」

「あぁ、手加減なんてしてる場合じゃないのは、わかるぜ!」


 言うが早いか、村人の数人が攻撃を仕掛けてくる。

 火の玉、水の鞭、雷の刃……人がいるだけ、様々な属性の魔法が飛んでくる。それも、国の魔法術師隊のように統率されていないから、一つの属性に揃える、なんてこともしない。

 バラバラの属性魔法。だからこそ、こちらとしては読みづらい。


「それに、威力も高い……」


 距離が離れているのに、その力がピリピリ伝わってくる。一つ一つの威力が高い……たとえエリシアのものには敵わなくても、数が合わされば力もさらに増す。

 個で敵わないなら、数を足せばいい。数という力には、何者も及ばないのだから。

 ただ……


「足りない……!」


 それでもこの魔力には、敵わない。エリシアの、たとえ半分の魔力でも……負ける気がしない。

 左目が魔力の源……そこから魔力が溢れだし、私を中心に突風を、全面に向けて巻き起こす。放たれる魔法に対し、突風をぶつける。

 ぶつかった魔法同士、それは、暫しの拮抗を保った後……村人たちが放った魔法を、吹き飛ばす。いや、正確には消し飛ばしたのだ。


「な、に!?」

「消し飛ばした!? あの数の魔法を!?」


 驚くのも、無理はないと思う。属性の弱点を狙ってとか、力の弱所を見切って、とかではないのだ……ただ、力押しで消し飛ばした。それだけだ。

 だが、それに対して混乱……し続けるわけではない。すぐに体勢を立て直し、次の行動に移る。というのも……


「みな、慌てずに! 隙を見せたら相手の思う壺だ!」


 一人、村人の中でリーダー的な存在がいる。そいつが、混乱する村人に声をかけ、混乱してしまわないように誘導している。

 白髪がある、年配らしき男だ。だいたい、五十代前半といったところだろうか。この村の村長的な扱いなのかも、しれない。


「相手の力が強かろうと、力を合わせれば勝てない相手ではない!」

「そうだ、やってやるぞ!」

「おー! ガルバラさんに続け!」


 ……年を食ってるにしては、ちょっと暑苦しいなあの男。まあ、それにより村人の士気が上がっているのだから結果オーライと言うべきか。

 あの男、どうやらガルバラって名前らしい。なんか強そうだ。

 そのガルバラの右手には、なにかが握られている。あれは、木の棒……いや、杖か? よく映画とかで見る、魔法使いが使う魔法の杖だ! それっぽい!


「けど、なんで……」


 ここは、映画の中ではない。映画かの中では、呪文を唱えて杖から魔法を放つ、なんて芸当をしていたが、この世界では杖なんて必要ない。

 手から炎は撃てるわ、風の刃を放てるわ、浮遊できるわ……この世界では、魔法はそういうものなのだ。道具がなければ使えない、というものではない。

 そう、言ってしまえば魔力だけあれば、誰でも魔法は使える。ならば、あの杖はなんだ? まさかなんの意味もないただのポーズ……ってことは、ないだろうし。


「何者かは知らんが……この村に害成す存在であることは間違いない! 覚悟せよ!」


 声高らかに叫び、杖を掲げるガルバラ。その杖は、先端……地につけるのとは逆の位置に、赤い石がはめてある。まるで、宝石のよう。

 それが、光を放ち輝き始める。赤い石が、赤く、さらに赤く……


「あれは?」


 なんだろう……あの光が強くなるにつれて、ガルバラ自身の魔力も上がっているような。気のせいか……いや、気のせいじゃない。

 もしかしてあの杖は、持ち主の魔力を増幅させる効果が、あるのか?


「だとしたら……」


 このまま放置しておくのは、得策とはいえない。いくらエリシアの魔力が高火力とはいえ、相手の魔力がどんどん増幅していったら……!

 魔力がこれ以上増幅してしまう前に、こちらから仕掛ける!


「せいや!」


 魔力を集中させ、大気の水蒸気を氷の槍に変換し、放つ。丸太ほどの太さがあるものが、五本。槍というには太すぎる気もするけど、当たれば殺傷力には変わりない。

 村人たちは、迎撃のために魔法を槍にぶつけてくるが、そのどれもが、槍一本を打ち消すにも至らない。

 もう、この攻撃だけで村人の半分は殺せるんじゃないかと思えるほど……しかし、そうはならなかった。


「えぃやぁ!」


 ガルバラが杖を振るうと、輝く石から無数の炎の刃が放たれる。それは一つ一つの大きさは大したことないが、数えるのも億劫になるほどの数。

 それが槍とぶつかり……氷に炎をぶつけた影響か、爆発を起こす。煙が晴れる……その直前から、まだ残っている炎の刃が、放たれる。


「うわっ!」


 どうやら、どうやら、氷の槍を打ち消されたどころか、打ち破られてしまったようだ。いくらこっちが氷で向こうが炎とはいえ……属性の問題だけじゃない。威力が、越えられたということだ。

 とっさに炎の刃を避ける。幸いにそれは追撃してくることはなかったが、それは直撃した地面が蒸発するほどの威力。

 地面が蒸発ってのも、変な表現だけど。


「やっぱり、あの杖は……」


 どんな原理かはわからないが、あの杖はやはり持ち主の魔力を増幅させているようだ。あれは、いったいなんなんだ。
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