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英雄の復讐 ~絶望を越える絶望~
不可解
しおりを挟む現れるはずのない存在、魔獣。魔王を倒したことで、魔物、魔獣はこの世から一匹残らず消滅した。それは、ちゃんと確認している。確認したから、私は元の世界に帰ることができたのだから。
なのに、魔獣は現れた。しかも、私が知っているものとは少し違う。進化する魔獣……これまでの戦いで、そんな存在はいなかった。いたら、きっともっと苦戦していた。
そんな存在がいなくてよかったという気持ちと、なんでそんな存在が現れたのかという気持ちがぶつかり合う。
……とにもかくにも、魔獣が出現した。それはこの目で見て、肌で感じた事実だ。魔獣が出現した理由は……考えると、真っ先にこれが浮かぶ。
「魔王が、生まれた……?」
魔物、魔獣を生むのは、魔王だ。自然発生するなんてことは、ない。となると、自ずと生まれる考えは一つになる。
新たな魔王が、生まれた……という可能性だ。考えたくないが、前の魔王が死んだため、なんらかの方法で新しい魔王が生まれたということ。
……魔王が復活した、というのは、もっと考えたくない可能性だ。だから、無意識に頭の外に追いやっていた。
「いや、でも……そんなこと、ある?」
新たな魔王が生まれた。考えるのは簡単だが、果たしてそう簡単な問題なのだろうか。
もし本当に魔王が生まれたとして。前回の魔王が死んだら生まれるようなものだと考えると……魔王を倒した私を、むざむざ元の世界に帰すだろうか?
また新しい魔王が出てくるのなら、私を……いや召喚した『勇者』を魔王を倒した瞬間に帰すのは、リスキーなのではないか? まあ、元々魔王倒したら帰る話だから、約束破ったら『勇者』が暴れるからかもしれないけど。
それとも……もしかして、『勇者』って何度も召喚するパターン? 魔王を倒したら『勇者』を元の世界に帰して、新たな魔王が生まれたら再び『勇者』を召喚。いや、再びじゃなく別の?
そして魔王を倒して、帰還。魔王が生まれて召喚。魔王を倒して……と、ループになってる? 一人の『勇者』を留めるより、何人もの『勇者』を別々に召喚する。こう考えた方が、むしろすっきりする?
あれ? ってことは……もしこの考えが正しかったら、あれれ? また『勇者』を召喚するのが、私を召喚したのと同じ人物、ウィルドレッド・サラ・マルゴニアだったとしたら……
「……私、やっちゃった?」
新たな魔王に対抗する『勇者』を召喚するはずの人間を、殺したということに……なるよね。これって、私やっちゃったパターンだったりする?
「おぉおおお……」
「……なにゴニョゴニョ言ってんだ、キモいな」
ユーデリアには、きっとこの気持ちはわかるまい。新たな魔王に対抗するための『勇者』を召喚する人間を、殺してしまったことへのなんとも言えない感情。
あぁ、これってこの世界が脅威にさらされるんじゃ……
「いや、魔王が生まれようがなんだろうが……どうせ世界壊すんだから意味ないだろ?」
「……それもそうか」
そうだよ……私はなにを、悩んでいたんだろう。
元々私は、この世界に復讐するために戻ってきたんだ。そこに魔王が一匹増えようが二匹増えようが、たいした問題ではない。むしろ、邪魔するなら……
「魔王も殺せばいいのか」
「……どっちが魔王だかな」
「いやー、あまりに変なことが起こってたんで、ちょっと混乱してたよ」
この世から消えたはずの魔獣が現れたことに、少なからず動揺していたらしい。人を殺すことは覚悟し、慣れてしまったが、また魔獣と戦うことになるとは思わなかったから。
それも、私が知っている魔獣とは様子が違ったから。余計に、動揺を生んでしまった。
「魔獣が出ようと、魔王がいようと関係ない。気にしても仕方ないか」
「魔獣の言葉は、気になるけどな」
「……」
ちょくちょく反対意見を言ってくるな、この子は。まあ、気にしても仕方ないとはいえ、気にならないと言えば嘘になるけどさ。あの魔獣のことは。
鳴き声ならいざ知らず、言語を話す魔獣なんて……これまでには、いなかった。
例外として、魔王本人や魔王に付き従う四天王……あれらは、私たちと同じ言葉を話した。ただ、あれらは位の高い魔族で、一般の魔物や魔獣とは一線を越えたところにいた。
……一般的に、魔物という生き物……モンスターがいる。普通の動物とは違い、魔王に生み出されたため邪悪な気配が漂う。
魔獣は、魔法を使える魔物のことを指す。おまけに、体の強度も、全体的な身体能力も、魔物よりもかなり高い。だが、言ってしまえばそれだけの存在。
しゃべる魔獣なんて……一年に満たないとはいえその旅の中で、一度も、会ったことも聞いたことも……
「『わたし』、『なぜ』か……まったく意味がわからん」
「ははは……」
意味がわからん……ユーデリアの言う通りだ。いくら考えても答えが出るとは思えないし、答え合わせする手段もない。
結局、考えることは一つだけ……
「呪術、それに関する連中……それに、魔獣が加わったってわけか」
この先の旅で警戒すべき対象が、一つ増えた。いや、もしかしたら魔王、魔物という項目も増えるかもしれない。魔獣があの一匹、であれば話は別なのだが。
そうでなかった場合……項目は増える。あ、魔獣がいた時点で、魔物がいる可能性は非常に高いか。
魔獣か……そういう連中を相手にしてると、嫌でも昔の記憶がよみがえってくる。割り切ったつもりでも、つもりになってるだけなのかもしれないな。
昔のことを思い出して支障をきたさないように、注意しとかないと。
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