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英雄の復讐 ~マルゴニア王国編~

マルゴニア王国

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 ついにマルゴニア王国が目前に迫り、私は自然と出てくる笑みを隠しきれなかった。まさか、こんなに早く来ることができるなんて……ユーデリアに、感謝だな。

 あぁ、この辺り……懐かしい景色だな。王国が近づいてきたから、さすがに付近の景色には見覚えがある。

 主に、この辺りをうろうろしていた魔物を倒すために、師匠と一緒に訓練したっけな。

 ……さあ、このまま王国へ入りたいところだけど……さすがは王国というでかさだ。中へ入るためには、あの大門を潜らないといけない。門には、当然門番もいる。二人、か。

 本来ならばあの門番に、身分証を見せ、王国に来た目的を話し、然るべき処置をこなしたところで、ようやく門が開かれるのだが……


「関係ないよ……」


 そんな通過儀礼、私たちには関係ない。私たちがやることは、ただ一つだけ……


「ん? おい、こっちに誰か近づいてきてないか?」

「え? あぁホントだ……ボニーと……狼? おーい止まれ! とまっ……」


 『復讐』だ!


「がっ……?」

「えっ……?」


 ボニーとユーデリアは速度を落とすことなく、門へと駆ける。そして、門番とすれ違う一瞬のうちに、私は腰から抜いた剣で、ユーデリアは鋭い爪で、それぞれ門番を瞬殺。

 この、斬った者の自我を奪う『呪剣』は、殺した相手にまで呪いを及ぼすことはできない。だから、殺すほどの傷を負わせた相手の自我を奪うことはできない。

 なので、殺した門番はそのまま、地に倒れる。抜いた剣を、鞘に戻す。

 門番二人を、瞬時の間に殺す。それにしても、門番二人ってのはちょっと少なすぎだよ、マルゴニア王国。私にとっては、好都合だけど。

 王国に入るためには、この大きな重い門を開けなければいけない。それは、本来門番によって行われるものだ。

 門番がいなければ、門を通ることはできない。普通に考えれば、こんな大きな門を壊すことなんてできない。だから、門番の数が少なかったのだろうか?

 だとしたら……


「はぁあ!!」


 ドゴォ!


 甘い、甘いよ。私が、こんな門一つ破壊できないとでも思った? まあ、『英雄』自らが門を破壊しに来るとは、誰も思わないだろうけど。

 ボニーから飛び上がり、門をぶん殴り、破壊する。こんな大門破壊しちゃったら、当然それなりの音が響き渡るから中の人たちにも気づかれちゃうけど……もともと、この場所でこそこそやれるなんて思ってない。


「すっごい力……」


 呆れたように言葉を漏らすユーデリアは無視。着地するようにボニーに乗り直した私は、一足先に王国内へと踏み込む。

 そこには、大門が壊れたことで何事が起こったのかと、こちらを見る人々の姿があった。


「な、なんだ? 門が……」

「なになに? どうしたの?」


 こちらを見る人々は、まだなにが起こったかよくわかっていないらしい。それはそうだろう……あんな大きな門が、開くではなく、壊れたのだ。正確には、壊されただけど。

 それを、すんなりとは受け入れられないだろう。

 買い物、おしゃべり、デート……いろんなことをしている人が、いる。中には、見覚えのある顔もいる。私の物語はこの王国から始まったのだから、それも当然だけど。

 懐かしいな……みんな、久しぶりだね。

 そして……


「さよなら」


 腰から抜いた『呪剣』を、振るう。ボニーが駆けるその刹那に、すれ違う人間を次々切り裂いていく。今度は、殺さない程度に。

 斬られた人間は……いや、斬られていない人間も、なにが起こったかすぐには理解できていない。だけど、それも刹那の後……血が、悲鳴が、辺りを包み込み……それは、伝染する。


「きゃあああ!」

「なんだ、き、切られた!?」

「血が! 血が出てるぞ!」


 平和だった空間は、一瞬で絶望へと変わり、みな恐怖に狼狽える。

 どうだ……これが、平和な日常を待ち望んでいた者が、絶望に叩きつけられた気持ちだ。私が味わった気持ちだ。その十分の一でも、お前らに理解できたか!

 死なない程度に『呪剣』で斬られた人々は、次第に自我を奪われ、正気を失う。そして、見境なく近くの人に襲いかかる。

 正体不明の人間でなく、自分の知った顔に襲われる恐怖。隣人に、知人に、友人に。それがさらに、この場の人間たちに混乱と恐怖を与えていく。


「まったく、一人でやらないでよ」


 私が『呪剣』を振るう間にも、別の場所から悲鳴が。そこには、人間を襲う藍色の狼……ユーデリアが、牙を、爪を振るい、その身を血に染めている姿があった。

 謎の狼の襲来……それに対処する術は、この場の人間は持っていない。できることはただ、逃げ惑うだけだ。絶望に染まったその表情で。


「あとは、放っといてもどうとでもなるかな」


 すでに阿鼻叫喚の地獄絵図……とは大袈裟かもしれないが、そう言っても差し支えない光景だ。

 自我を失った人間が、人々を襲う。知った顔に抵抗できない人間は、倒れていく。たとえ抵抗できても、複数に群がられて数に押しきられる。

 放っといても、ここはそのうち崩壊する。


「城は、あそこか……」


 もうじき騒ぎを聞き付けて、王国中央にある城から兵士が来るはずだ。それを待っていてもいいけど……それも、面倒だ。いや、待つ意味がない。

 なぜなら、私が一番用があるのは兵士ごときじゃない。この国で一番偉い『あの男』は、どうせ兵士に任せて自分から出てきやしない。

 なら……


「私から会いに行くよ、ウィル」


 このマルゴニア王国の王子、ウィル……ウィルドレッド・サラ・マルゴニアに、直接会いに行こうじゃないか。
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