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勇者パーティーの旅 ~魔王へと至る道~
人の恋路ほど面白いものはない
しおりを挟む「じゃーねー!」
魔獣を倒し、魔物も一掃した私たちは、今度こそ集落をあとにする。姿が見えなくなるまで手をブンブン振っていたサシェが、なんだかほほえましい。
今度またここに来るときは、魔王を倒したその帰り道だ。
「しかし、チームワークも形になってきたじゃないか。さっきのはなかなかだったぞ?」
先ほどの魔物&魔獣との戦いで、打ち合わせたわけではないが私たちはそれなりに協力プレイはできたと思う。師匠にもほめられたし、自信が持てる!
個々の力は、言うまでもなく相当高い。けれど、そこにチームワークという武器が加われば、私たちはもっと強くなる。たとえ相手が、魔王という強大な相手だとしても……私たちは、このチームで必ず勝つ!
そのために、仲良くなる……以外にも、戦いの中で呼吸を合わせることができればいいんだけど。無論、先ほどの魔獣との戦いみたいにできたらいいんだけど……
事前に打ち合せできるものでもないし、意識してもできるものではない。なかなかに、難しいものだチームワークって。
でもきっと、チームワークっていうのは……作るものじゃなくて、自然と出来るものなんだろう。私は、そう思う。
一緒に過ごしている時間は、短くない。三ヶ月という期間は、私たちの絆をより深めたはずだ。
……それに……三ヶ月という期間で、絆以外の感情を芽生えさせた人物も、ここにはいる。
「あ、ボルゴー、食べかすついてるよー」
「えっ、あ、あぁ、ありが……っ!?」
たとえば食事の時間、ボルゴの口端についていた食べかすを、隣にいたサシェが摘まみ取る。そこまでは、いいのだ……直後、その食べかすをサシェが食べてしまう。
その行為に、お礼を言おうとしたボルゴは固まり……サシェはニコニコだ。サシェにとってはなんでもない行為が、純情なボルゴには刺激が強いらしい。
なにせ……ボルゴは、サシェが好きなのだ。仲間的な意味ではなく、男女的な意味で。サシェを好きになったのだと、告白されたときには心臓が止まりそうになったよ。
まさかあのボルゴが、女の子を好きになるなんて……おっと、なんか母親目線っぽくなってしまった。
とはいえ、わからんでもない。サシェは、育ってきた環境のせいもあり同性異性関わらず距離感が近い。それに今みたいに、食べかすをぱくり、なんてされてしまったら男の子としては勘違いしてしまうものなのだろう。
こんなときに、そんな浮わついた恋愛なんて……と思うかもしれない。でも、実は……その浮わついた恋愛感情が、この旅の数少ない癒しになっていたりする。
だって、娯楽もなにもないこんな旅の中じゃ、人の恋路なんてなににも勝るスパイスだよ。ただ……
「うわ! 魔物だよ!」
くそう、空気の読まない魔物め……!
いつ現れるともわからない魔物は、私の僅かな娯楽さえも邪魔をする。ええい、こんな苦難続きの旅なんだ、ちょっとくらい楽しんでもいいじゃないか!
「うらぁ!!」
「アンズ、張り切ってるなぁ……」
だから私は、娯楽を邪魔された恨みやなかなか前に進まないボルゴの恋愛事情に感じるもやもやのもどかしさを拳に乗せ、魔物にぶつける。数体の魔物が、面白いくらいに吹き飛んでいく。
恋愛に関しては、本人たちの問題だ。けれど……なにが起こるかわからない、危険と隣り合わせの旅をしている。伝えたい想いがあるなら、伝えたほうがいいに決まってる。
そんなことを考えていた、ある時……みんなが就寝している中、私は目を覚ました。ううん、ちょっと暑苦しいかも……
その原因を探る……より前に、原因が明らかになった。サシェが、私に抱きついている。暑苦しいわけだ。寝苦しいわけだ。
サシェを起こさないように引き剥がし、すっかり目が冴えてしまったので少し、夜風に当たることにする。こうして一人で夜空を見上げるのは、いつぶりだろうか。
みんなからあまり離れない程度に、近くを歩いていると……話し声が、聞こえてきた。まさか、私たち以外に人が? ……その考えは、即座に否定される。
聞き覚えのある声に、岩影から覗きこんだ声の主は……師匠と、ボルゴだ。こんな夜遅くに、男二人でなにを話して……
「……そうなんですか?」
「あぁ、俺にも経験はあるさ。だからボルゴ、後悔することになる前に、伝えたいことは伝えとけ」
ううん、途中からだから話の内容がつかめないな。なにか、大切な話をしてるのか? 後悔することになる前、って?
「後悔……」
「俺と同じ道を辿るなよ? 男ならどんとぶつかってこい」
あれあれ? 男ならどんとぶつかれ? うんうん、これってもしかして……
「ターベルトさん……」
「お前にはそれだけの勇気がある。それに、あいつには言葉にしなきゃ一生伝わらんぞ?」
「はは、そうかも、しれませんね。…………うん、決めました。僕、サシェに告白します!」
キターーー!!!
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