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第五章 海に行こう

第177話 なんだか厳しい

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 子供の作り方を聞かれた由香は涙目になっていた。

「ぅ……た、たっくぅん……」

「先生だろ、答えてやれよ」

 達志は由香の助けを無視した。
 同様に、他のみんなも由香の視線から逃れるように顔をそらしていく。みなえを除いて。

「お、おばさぁん」

 由香に助けを求められたみなえは、いつの間にか装着していたサングラスをずらし、しっかりを由香を見つめる。
 そして、ただ一言。

「由香ちゃん、頑張って」

「うぁあああ!」

 にこっと笑みを浮かべたが、それは由香を救う言葉ではなく、突き落とすためのものであった。
 物事は非情である。

「母さん……」

「ふふ、子供だった由香ちゃんが、教え子に子供の作り方を教えることになるなんて……なんだか、不思議な気分で……」

 ダメだこの母親、なんとかしないと。なぜか泣き出してしまった。
 達志は思う。最近母親の涙腺が緩みまくっている、と。

「うぅ……」

 そして逃げ場と助けを失った由香は、顔を赤らめもじもじしている。
 赤ちゃんを抱きかかえもじもじしている姿は、なんというかとても……

「えろいな」

 この一言に尽きる。直後にさよなに殴られた。

「わ、わかったよぉ。けど、ここじゃ……あっちで、話そ」

「? はい」

 人間の好奇心を止めることなど、誰にもできない。由香にとって、教え子からなにかを問われればそれに応えるのが義務だと思っている。
 その内容がなんであれ。

 しかしさすがに、男もいるこの場で話すのは気が進まないらしい。
 そこで由香は赤ちゃんをみなえに預け、リミを連れ、場所を移動していく。

 海まで来て、私はなにをしているんだろう……今、由香はこう思っていることだろう。

「……子供の作り方をリミに教える由香か……なんか創作意欲がわいてくるな」

「バカなの?」

 ここ最近のさよなは、なんだか厳しい。
 まあ今のは完全にバカなこと言ったせいだろうが。

「ところでセニリア、どうせならキミが教えてやればよかったのに。リミちゃんのことならキミに任せた方がよさそうなもんだが」

 そこへ、猛が気になっていたことをぶつける。確かに、リミのことはセニリアがよくわかってるはずだ。
 進んで教えるものではないにしても、聞かれたからにはセニリアから率先して答えそうなものであるが。

 その疑問に、セニリアはほのかに顔をそめて……

「だってその……恥ずかしい、じゃないですか」

 由香のなけなしの勇気が台無しになるような言葉を放った。


 ――――――


 由香がリミをどこかに連れて行ってから数分後……帰ってきたリミの顔は、真っ赤だった。由香に真実を教えてもらったが故の反応に違いない。
 いつも天真爛漫なリミが恥ずかしがっている姿はなかなか珍しいものであるが、反応が初心すぎる。

「由香、なにを吹き込んだ」

「なにって、そりゃあ男の人の……って、な、なに言わせようとしてるのバカ!」

 人にものを教える立場になり、こうしてちゃんと教えることが出来ている。
 それなのに、その成長を素直に喜べないのは教えたことの内容によるものか。

 まさか海に来てまで、子供の作り方講座をすることになるとは由香も思わなかったことだろう。

「まったく、私は保健の先生じゃないんだからね」

「うってつけなえろい体してるくせに」

「あぁ?」

 由香ににらまれ、達志は黙る。その視線がとても鋭く、怖かった。
 その視線に耐え兼ねつつあったが、そこへさよなが思い出したように、由香へと声をかける。

「そういえば、由香ちゃんの鞄からさっき音が鳴ってたよ。携帯の着信音じゃない?」

「え、ほんと?」

 どうやら、達志、リミと共にジュースを買いに行っていた間に、由香の携帯に着信があったらしい。
 いくら幼なじみで長い付き合いとはいえ、勝手に鞄を開けてはいないので確定ではないが。

 それを受け、自分の鞄を探る由香がスマホを取り出すと……確かに画面が光り、着信があったことを知らせていた。

「ホントだ。わ、職場から……ごめんね、ちょっとかけ直してくる」

「あいあいー」

 スマホの不在着信を確認し、それが職場……つまり学校からであることがわかると、由香はみんなに断ってから、その場から移動する。
 今帰ってきたばかりなのに、忙しいのである。

「おい、なにやってんのさ達志」

「へ?」

「着いていってあげないと」

「俺!?」

 由香の背中を見送りつつ、猛とさよながそれぞれ達志に言う。
 着いていけと、自分が言われると思っていなかった達志は驚愕に目を見開くが、なにも不思議なことではない。

「だって由香を一人にしたら……ナンパされるぞ?」

「それは……そうだろうけど。今度は猛が行けばいいじゃんよ」

「バーカ、俺はこの子の世話しないといけないから」

 と、預かった赤ちゃんの頭を撫でつつ言う猛に、達志はぐうの音も出ない。
 ぶっちゃければ、ここにはさよなやセニリア、年長者のみなえだっているのだ。猛がいなくても問題はなかろうが……

 猛が預かった子だ、そういうわけにもいかないのだろう。

「わかったよ……」

「おう、見失わないうちになー」

 さっきから歩いてばっかだ……と嘆く達志をよそに、猛はさっさと赤ちゃんの世話に戻ってしまう。

 それを最後に、達志は由香を追いかける。
 幸い、由香は歩きながら電話をしていたので、すぐに追い付くことができた。

 後ろから声をかけるのも悪いと思ったので、電話が終わるまで待つ。ここからでは声は聞こえないし、盗み聞きをするつもりもない。なので、ただ待つ。

 しばらくして、電話が終わった頃には……あまり人気のない場所にまで来ていた。
 電話に夢中で、どこまで来ているのか気づいていなかったであろう由香は、辺りを見回して……

「あれ、ここは!?」

 と言った。

「いや、なにしてんだよお前……」

 いくらなんでも無用心すぎだ。これでは帰り道を案内するとかなんとかで変な男に捕まりかねない。
 なので、達志は素早く声をかける。

 どうやら追いかけられているとは思っていなかったようで、由香は目を丸くしている。
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