144 / 184
第四章 激動の体育祭!
第143話 お昼ご飯の時間!
しおりを挟むさて、午前中の種目がすべて終わり……時間は、お昼ご飯の時を迎えていた。
家族や友達と、弁当を持ち寄って和気あいあいとした空間を過ごす。
ある意味、体育祭のメインとも呼べるイベントだ。
もちろん、用事で来れなかったりする場合もあるから、みんながみんなというわけではないが……
その点で言えば、達志は恵まれていた。
「いやぁ、母さんとセニリアさんの弁当楽しみだな」
「私も作りたかったのに……」
見学に来ているみんなの所へ向かいつつ、早くも腹の虫が暴れだす。
先ほどのビーチフラッグスで体力を使ったため、余計にお腹ペコペコだ。
ちなみにビーチフラッグスは、ラストランナーであるヤー・カルテアが怒濤のトップで旗を勝ち取り、チーム戦としては彼女所属の黄チームが、一番点数を稼ぎ幕を閉じた。
情けない話、まったく活躍できなかったが……そこは、午後の部で活躍することで、挽回できると思いたい。
きっと最後には派手な活躍を飾ってみせるから、その時に備えて今は、腹を満たすのだ。
「お、いたいた」
この辺りにいる、と連絡を受け、探していると……視線の先に、母みなえの姿を発見。
ちょうどいい木の下、ブルーシートを敷き、座る母の隣にセニリアがいる。
さらに……
「お、猛。それにさよなも。そこにいたんか」
「おう、お疲れさん」
「達志くん、リミちゃん、お疲れ様」
幼なじみである茅魅 猛、五十嵐 さよなの二人も座っていた。
幼なじみといっても、見た目では親戚のお兄さんとお姉さん程度に見える。
誰も、この三人が幼なじみだとは誰も思うまい。事情を知る人でなければ。
さよなはともかく、猛はわざわざ休みを取って来たらしい。以前、行くとは言ってくれたが。
嬉しい気持ちと、そこまでしなくても、という気持ちで押し潰されそうだ。
そして……恥ずかしさでも、押し潰されそうだ。
「猛、その服……」
「あぁ……例の応援衣装だよ」
座る四人を見て……まず注目するのは、猛だ。正確には、猛が着ているものだ。
それはいわゆる、ハッピだ。私服の上に羽織っている。まさに今、猛が言った『応援』にぴったりの衣装だ。
これは以前、達志と猛がさよなの家に呼び出され、半ば強制的にデッサンされたときの……その、完成した衣装だ。
ちなみに達志は、作ってもらっていたリストバンドを、ちゃんと手首に付けている。赤色の、かっこいいやつだ。
デザインとして、赤を基調とし、所々に黒い斑点がついているもの。
身に付けたことのないものを付けているというのに、やけにしっくりくる。さすがはさよなだ。
「なんだ、ジロジロ見て」
「いや……」
応援衣装を着ている猛……その姿は、なんというか、目立つ。
季節は夏であるというのに、暑苦しそうな黒い色を基調としており、背中に赤い文字ででっかく『志』と描かれている。
なんとも気合の入った衣装……というか、それを着ている猛が、めちゃくちゃ張り切っているみたいだ。
「猛……」
「言うな達志。俺もさすがにこれはと思ったが……あの威圧感には勝てなかった」
「そうか……」
せっかくさよなが、張り切ってデザインしたものを……
……というより、「私がデザインしたものが着れないのかオオン?」といった気迫の前に、だんまりを決め込むしかなかったらしい猛。
なんだか想像しやすい。
色や文字以外にも所々、凝ったデザインをしてあるな、という箇所があるのだが……
達志としては、これを着ている猛と、これを作らされたであろうさよなの知り合いが気の毒である。
気持ちは嬉しいが。
「なあ、もしかしてその『志』って文字……」
「もちろん、達志くんの名前から取ったんだよ!」
えっへん、と、ない胸を張るさよなに対し、達志はなにも言うことができない。
だって『達志』から『志』を取って、それがハッピの背中に描かれているなんて、どう反応すればいいのか。
これなら普通に、志って意味だけの方が良かった。
不幸中の幸いなのは、『志』が達志を指している、とパッと見わからないところだろう。
なんか張り切ってる人がいるな、程度で。
「けど驚いたよ。猛くん、それ着たまま達志くんの応援始めようとするんだもん。恥ずかしいから止めたけど」
「そのための応援衣装じゃないのかよ。着たまま黙って座ってたら気まずいわ。もう着たんだし、どうせならめちゃくちゃやってやろうかなって思ったが」
「やめてくれ! 主に俺が恥ずかしさで倒れるわ!」
背中に『志』を載せた、黒ハッピの男。
そんな男にそんな格好されて、名前を呼ばれて応援された日には、羞恥やらなんやらでどうなってしまうかわからない。
一方、人に派手な衣装着せといて、いざ応援するとなったら恥ずかしがる気持ちがよくわからないが……
投げやりになった猛を止めてくれて、さよなに感謝である。
「まあまあみなさん。話は食べながらでもできますし……まずは、腹ごしらえといきませんか?」
話に夢中になっていたところへ、せっせと弁当箱を並べるセニリアの声が届く。
それは一般的な弁当箱ではなく、重箱だ。しかも何段にも重なったものがいくつも。
「えへ、張り切っちゃった」
母親の「えへ」など聞きたくもないが、そんなこと気にならないくらいに、達志は目の前の光景に釘付けになっていた。
弁当箱の蓋が開くと、そこにはなんとも豪華な品々。
一段にはまるごとご飯、一段にはまるごとおにぎり、そしてその他おかず尽くし……
肉から魚から野菜、それはもう色鮮やか且つ栄養を考えられた、メニューだ。
これを、みなえとセニリアの二人で作ったというのか。
見ると、みなえは自慢気にVサインを、セニリアは軽く会釈をしている。
0
お気に入りに追加
300
あなたにおすすめの小説
異世界転移したら、死んだはずの妹が敵国の将軍に転生していた件
有沢天水
ファンタジー
立花烈はある日、不思議な鏡と出会う。鏡の中には死んだはずの妹によく似た少女が写っていた。烈が鏡に手を触れると、閃光に包まれ、気を失ってしまう。烈が目を覚ますと、そこは自分の知らない世界であった。困惑する烈が辺りを散策すると、多数の屈強な男に囲まれる一人の少女と出会う。烈は助けようとするが、その少女は瞬く間に屈強な男たちを倒してしまった。唖然とする烈に少女はにやっと笑う。彼の目に真っ赤に燃える赤髪と、金色に光る瞳を灼き付けて。王国の存亡を左右する少年と少女の物語はここから始まった!
後宮の侍女、休職中に仇の家を焼く ~泣き虫れおなの絶叫昂国日誌~ 第二部
西川 旭
ファンタジー
埼玉生まれ、ガリ勉育ちの北原麗央那。
ひょんなことから見慣れぬ中華風の土地に放り出された彼女は、身を寄せていた邑を騎馬部族の暴徒に焼き尽くされ、復讐を決意する。
お金を貯め、知恵をつけるために後宮での仕事に就くも、その後宮も騎馬部族の襲撃を受けた。
なけなしの勇気を振り絞って賊徒の襲撃を跳ね返した麗央那だが、憎き首謀者の覇聖鳳には逃げられてしまう。
同じく邑の生き残りである軽螢、翔霏と三人で、今度こそは邑の仇を討ち果たすために、覇聖鳳たちが住んでいる草原へと旅立つのだが……?
中華風異世界転移ファンタジー、未だ終わらず。
広大な世界と深遠な精神の、果てしない旅の物語。
第一部↓
バイト先は後宮、胸に抱える目的は復讐 ~泣き虫れおなの絶叫昂国日誌・第一部~
https://www.alphapolis.co.jp/novel/195285185/437803662
の続きになります。
【登場人物】
北原麗央那(きたはら・れおな) 16歳女子。ガリ勉。
紺翔霏(こん・しょうひ) 武術が達者な女の子。
応軽螢(おう・けいけい) 楽天家の少年。
司午玄霧(しご・げんむ) 偉そうな軍人。
司午翠蝶(しご・すいちょう) お転婆な貴妃。
環玉楊(かん・ぎょくよう) 国一番の美女と誉れ高い貴妃。琵琶と陶芸の名手。豪商の娘。
環椿珠(かん・ちんじゅ) 玉楊の腹違いの兄弟。
星荷(せいか) 天パ頭の小柄な僧侶。
巌力(がんりき) 筋肉な宦官。
銀月(ぎんげつ) 麻耶や巌力たちの上司の宦官。
除葛姜(じょかつ・きょう) 若白髪の軍師。
百憩(ひゃっけい) 都で学ぶ僧侶。
覇聖鳳(はせお) 騎馬部族の頭領。
邸瑠魅(てるみ) 覇聖鳳の妻。
緋瑠魅(ひるみ) 邸瑠魅の姉。
阿突羅(あつら) 戌族白髪部の首領。
突骨無(とごん) 阿突羅の末息子で星荷の甥。
斗羅畏(とらい) 阿突羅の孫。
☆女性主人公が奮闘する作品ですが、特に男性向け女性向けということではありません。
若い読者のみなさんを元気付けたいと思って作り込んでいます。
感想、ご意見などあればお気軽にお寄せ下さい。
魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~
月見酒
ファンタジー
俺の名前は鬼瓦仁(おにがわらじん)。どこにでもある普通の家庭で育ち、漫画、アニメ、ゲームが大好きな会社員。今年で32歳の俺は交通事故で死んだ。
そして気がつくと白い空間に居た。そこで創造の女神と名乗る女を怒らせてしまうが、どうにか幾つかのスキルを貰う事に成功した。
しかし転生した場所は高原でも野原でも森の中でもなく、なにも無い荒野のど真ん中に異世界転生していた。
「ここはどこだよ!」
夢であった異世界転生。無双してハーレム作って大富豪になって一生遊んで暮らせる!って思っていたのに荒野にとばされる始末。
あげくにステータスを見ると魔力は皆無。
仕方なくアイテムボックスを探ると入っていたのは何故か石ころだけ。
「え、なに、俺の所持品石ころだけなの? てか、なんで石ころ?」
それどころか、創造の女神ののせいで武器すら持てない始末。もうこれ詰んでね?最初からゲームオーバーじゃね?
それから五年後。
どうにか化物たちが群雄割拠する無人島から脱出することに成功した俺だったが、空腹で倒れてしまったところを一人の少女に助けてもらう。
魔力無し、チート能力無し、武器も使えない、だけど最強!!!
見た目は青年、中身はおっさんの自由気ままな物語が今、始まる!
「いや、俺はあの最低女神に直で文句を言いたいだけなんだが……」
================================
月見酒です。
正直、タイトルがこれだ!ってのが思い付きません。なにか良いのがあれば感想に下さい。
社会では変人な俺は仙人見習い
tukumo
ファンタジー
仙人それはあらゆる縛りを捨てた存在。
生物に存在する寿命を取り払り、ほぼ年を取る事も無く長い時を生きる存在。
人の俗世に嫌気がさし、人との関わりを断ち、山の頂、秘境へと閉じ籠りし存在。
生物の持つ欲求を捨て去り、生命としてより高みへと昇らんとする存在。
仙術を用いて超常の現象を引き起こす存在‥。
なんて御託並べてみたものの、仙人は半分人間性は残しているし。
道徳は耳にタコができるくらい身に付けないと外道に墜ちちゃうから。
仙人見習いである山村八仙は今日もマイペースに修行に明け暮れていた。
そんなゆっくりな仙人を目指し、長寿を目指す現代社会には理解できない彼の変わった日常とは!?
42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。
町島航太
ファンタジー
かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。
しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。
失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。
だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる