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第三章 変わったことと変わらないこと
第98話 秘訣を教えてほしい
しおりを挟むすっかり日も傾き、うっすらと暗くなり始めている景色……いつも通る通学路を、一人の美女と一人の美少女が通っている。
由香とリミだ。
こんな時間だから、通行人もそこまで多くないだろうと思っていたが……やはりまだ、それなりに人はいる。
並んで歩く美女&美少女が通りすぎる度、通行人は振り返る。
一人でも周りの視線を独り占めしてしまうであろう女性が、二人並んでいるのだ。逆に振り返らない方がおかしい。
「はぁ、今くらいの明るさがちょうどいいよね。だんだん暗くなってくるのかな」
と、由香。時期的には、放課後過ぎでもまだ明るい。しかし、それもすぐに過ぎてしまうだろう。
それに、今は涼しいからいいものの……最近は、温暖化やら氷河期やら魔暴事件やらで、すっかり変な気候になってしまっている。
この間なんか、セミが鳴いているかと思えば突然雪が降りだす始末だ。
「それで、話ってなにかな、リミちゃん」
最近の気候の変化に内心文句をつけながら、ここでリミに疑問をぶつける。そもそも、一緒に帰ろうと言われた理由だ。
もちろん、純粋に二人で帰りたかった、と言われれば、嬉しいことこの上ないが……
まあ予想はできる。おそらく彼のことだ。
十年前までは、幼なじみである彼……勇界 達志よりも背が低かった由香だが、十年という歳月は、二人の身長を逆転させた。
もしも二人が同じように時を過ごし、成長していたならば……今も、昔と身長差は変わっていなかっただろう。
むしろ広がっていたかもしれない。相手は男の子だし、急な成長期があったかもしれない。
だが……十年間、ベッドの上で眠り続けた達志は、その間肉体の成長が止まっていた。故に、普通に体が成長した由香のみが、達志よりも身長が伸びたのだ。
そんな由香に見下ろされ、達志よりも少し背が高い(ウサ耳込み)リミは、自分よりも背が高い由香を見上げる形になる。
「……実は、先生」
「やだなぁ、もう学校じゃないんだし、二人きり。名前でいいよ」
「……では、由香さん」
学校では教師と生徒という立場から、お互いの立場以上に干渉することはしない。
だが、こうして学校を離れ、それも二人きりであるなら……変に取り繕う必要はない。
最初……彼女と出会った頃は、様付けで呼ばれたりしたものだ。
正直その頃でも気恥ずかしかったのだが、こうして教師になり、その学校の生徒になったリミから様付けで呼び続けられるのは、たとえ二人きりでも恥ずかしい。
だから頼み込んで、なんとか呼び方を変えてもらった。残る幼なじみ二人も、様付けに気恥ずかしそうにしていたが……猛はなんだかんだ満更でもなさそうだったし、さよなは諦めたらしい。
そんなこんなで、リミが由香を様付けで呼ぶことはない。
そして現在、二人きりや、事情を知る者の前では、こうした砕けた呼び方になるのだ。
すぅはぁ、と深呼吸をしてから、由香を見つめるリミの瞳は、やはり綺麗だ。由香から見ても、そう思う。
ほぁあ、キレイ……
……と、感心している場合ではない。きっと達志のことを聞かれるのだろう。十年前の事故以来、リミはずっと達志のことを気にかけていた。
彼が目覚めてからは、その恩義を果たそうと日々奮闘している。
彼の幼なじみとしてここは一つ、なんでも相談に乗って……
「あの、由香さんのことについて聞きたいことがあるんですがっ」
「うんうん、なんでも聞いあれぇー?」
予想外だった。まさか達志のことではなく、由香自身のことについて聞かれるとは、全くもって予想外だ。
「わ、私?」
「はい! 前々からその、スタイルの秘訣を教えてもらいたかったんです!」
予想外の相談に困惑する由香に構わず、リミは目をキラキラさせながら、近づいてくる。
ウサギなのに、まるで肉食動物のようだ。
……とはいえ、その相談内容、少々無理がある。
「リミちゃん、充分スタイルいいと思うけど」
当のリミは、『校内二大美少女』の一人として数えられている。容姿端麗であることは想像するに難しくないし、実際に見ても、非の打ち所がないスタイルだ。
まあ当の本人は、自分が『校内二大美少女』の一人であるとは知らないようだが。
「そうですかね。あまり自信がなくて……周りにはセニリアや由香さん、それにさよな様……魅力的な女性ばかりですし」
「あー」
リミが自信を持てない理由。それは、周りに魅力的な女性が多いかららしい。
とはいえ、由香とさよなはリミより十年の歳月を経ているわけだし、セニリアは……あの人、何歳なんだろう。多分同世代だろうが。
だから、リミの心配は杞憂なものだと思う。由香がリミの年の頃は、ここまでスタイルは良くなかったし、そもそも素材が違う。
リミだって十年経てば、今の由香を越える容姿になるだろう。
「……って、たっくんにはえろくなったって言われたんだよね。教え子のそんな姿、想像したくないな……」
「?」
達志にえろくなったと評された由香を越えてしまえば、それはどれほど妖艶な女性になるのか。考えるのが楽しみなような、怖いような。
心配事をしていたリミに、今の言葉は届かない。
確かリミの母親は、めちゃめちゃ綺麗な人だった。あの人の娘ならば、将来とんでもないことになるだろうことは間違いない。
というか……あの人も、結構えっちな容姿だった。
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