上 下
89 / 184
第二章 異世界っぽい世界で学校生活

第88話 私はサキュバス〜!

しおりを挟む


 ……サキュバスであることを証明するための、準備。そのためにルーアが部屋を去って、もう十分が経過しようとしている。
 その間、待っているよう言われた達志は、ただ待っているしかない。

 去ったといっても元々広くない、アパートの一人用の室内だ。
 部屋と部屋とを仕切る扉があり、せいぜいその向こうで何かをしているのだろうが……

「……なにしてんだろ」

 正直、覗いてやろうという気持ちが十回くらいあった。鶴の恩返し気分だ。だが、待っててと言われたわけだし……
 もし覗いたら、見ぃたぁなぁとか言いながら、この辺にある水晶で叩かれたり杖で刺されそうだ。これも中二グッズか。

 たくさんグッズが置いてあるおかげで、退屈はしなかった。仮にも、一人暮らしの女の子の部屋をあちこち見るのも、どうかとは思ったが。

 そんなこんなで、こうしてきちんと待っていた。
 そして待ち始めて十分以上が経った頃、ようやく準備が終わったらしく。バンッと勢いよく、扉が開かれる。

「待たせましたね!」

「ホントにな。ったく準備ってなにを……ふぁっ!?」

 扉が開き、高らかな、かつ偉そうな声が聞こえる。こんなにも待たせといて、なぜこうも偉そうなのか。
 一言文句を言ってやろうと、ルーアに視線を向けると……その格好に、思わず変な声を上げてしまう。

 それもそのはず……ルーアは先ほどまでの制服ではなく、なぜかぶかぶかの……ワンピースだろうか……を着ていたのだ。

「お前……なん、その……えっ?」

 あまりに珍妙な光景に、言葉が出ない。その様子を見て、ルーアはなぜか得意気だ。

「ふふん、驚いてますね? まあ確かに、今の私にはちょっぴり大きなサイズで……うっかりポロリしちゃいそうですもんね? ふふふ……」

「そこじゃねえよ! いやそこもだけど……そこも含めてだよ! だいたいポロリとか十年前すらあんま聞かねえぞ!」

 ポロリなど、十年前ですらあまり聞くことのなかった単語を使っているルーアは置いておいて、改めてその格好を見る。
 本人はちょっと……と言ったが、どう見てもぶかぶかだ。

 体格的にも、中学生(下手をしたら小学生)が、成人女性の服を着ているようにしか見えない。
 そのサイズの合ってなささから、服を着ている、と言っていいのか困ったところではあるが。

「まさか準備って……それか?」

 これだけ時間をかけて、ぶかぶかの服を着てくるのが準備だというのか。
 だとしたら、その意図が掴めないのだが……

「そうです! この方が、変化がわかりやすいかなと思いまして」

「変化ぁ?」

 なぜこんなにも、見えてしまいそうなはしたない格好で、堂々としているのか。達志にとってはもはやそっちの方が不思議になりつつある。
 羞恥心とかないのだろうか。

 そんな疑わしい視線を向けていると……

「む、なんですかその目は。ははーん、さては私のこの、ナイスなボディが見えそうで見たくて仕方がないとか? タツもエッチですねえ」

 なんて言い始めた。
 やらしーですねえ、なんて言葉を続けながら、眉を下げ、なんとも腹の立つ表情で見つめてくるのだ。

 準備だなんだと言っておきながら、もしかしてからかうために着てきただけではないのか。
 殴りたくなるような表情な上に、達志にとっては聞き捨てならない言葉だ。

 だから、それに応えるために……

「……はっ」

 思いっきり鼻で笑ってやった。それを受けたルーアは動きを止め……カタカタ震え始める。

「な、なあ! い、今鼻でわら、笑いましたね!?」

「悪いな。俺、ガキには興味ないんだよ」

「タツと同じ高校生だし! しかも私がフラれたみたいな言い方やめてくれません!?」

 理不尽だー、と抗議するルーアだが、理不尽を訴えたいのはこっちだ。
 今日は別に、ルーアと漫才するために家に来たわけじゃないはずだが……

「ぬぬ……いいでしょう! ならば見せてあげましょう、私の進化した姿を!
 このサキュバスの力で、タツなんか思わず見惚れて襲いたくなっちゃうくらいの、ダイナマイトバディに変体してやりますよ!」

 一人燃え上っているルーア。
 趣旨が変わってきている気もするが、今ルーア着ているぶかぶかの服に、今の台詞を加えると、つまりこういうことだろう。

 サキュバスは、自身の体を変化させることができる。

 達志も、いろいろ書物を読み漁ったことでその辺りの予想はつく。
 要は、ルーアのロリッ子体型がボンキュボンになる……ということだろう。

 だから、体が大きくなっても大丈夫なように、今ぶかぶかな服を着ているのだろう。
 今も大丈夫な服を着てきてほしかった。伸縮自在な服とかないのだろうか。

「ふふん、では……とくとみるがいい!」

 燃え上がったルーアのテンションが、最高潮に達した。不敵な笑みを浮かべている。
 直後、その体が淡い桃色の光に包まれ……達志に見えるのは、ルーアのシルエットだけになる。眩しすぎて目を開けられないほどではない。

 そして、シルエットは……体が、一回り大きくなっていく。さらには手足が、体の大きさに合ったサイズへと、伸びていく。
 こういう表現が正しいかはわからないが、魔法少女ものの、アニメの変身パンクを見ているようだ。

 実際の時間は、そんなに経ってはいない。光が徐々におさまっていくのは、変体が終わった合図だとわかった。
 ルーアを包んでいた光が完全に消え、そこから姿を現したルーアは……
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

白紙の冒険譚 ~パーティーに裏切られた底辺冒険者は魔界から逃げてきた最弱魔王と共に成り上がる~

草乃葉オウル
ファンタジー
誰もが自分の魔法を記した魔本を持っている世界。 無能の証明である『白紙の魔本』を持つ冒険者エンデは、生活のため報酬の良い魔境調査のパーティーに参加するも、そこで捨て駒のように扱われ命の危機に晒される。 死の直前、彼を助けたのは今にも命が尽きようかという竜だった。 竜は残った命を魔力に変えてエンデの魔本に呪文を記す。 ただ一つ、『白紙の魔本』を持つ魔王の少女を守ることを条件に……。 エンデは竜の魔法と意思を受け継ぎ、覇権を争う他の魔王や迫りくる勇者に立ち向かう。 やがて二人のもとには仲間が集まり、世界にとって見逃せない存在へと成長していく。 これは種族は違えど不遇の人生を送ってきた二人の空白を埋める物語! ※完結済みの自作『PASTEL POISON ~パーティに毒の池に沈められた男、Sランクモンスターに転生し魔王少女とダンジョンで暮らす~』に多くの新要素を加えストーリーを再構成したフルリメイク作品です。本編は最初からすべて新規書き下ろしなので、前作を知ってる人も知らない人も楽しめます!

異世界隠密冒険記

リュース
ファンタジー
ごく普通の人間だと自認している高校生の少年、御影黒斗。 人と違うところといえばほんの少し影が薄いことと、頭の回転が少し速いことくらい。 ある日、唐突に真っ白な空間に飛ばされる。そこにいた老人の管理者が言うには、この空間は世界の狭間であり、元の世界に戻るための路は、すでに閉じているとのこと。 黒斗は老人から色々説明を受けた後、現在開いている路から続いている世界へ旅立つことを決める。 その世界はステータスというものが存在しており、黒斗は自らのステータスを確認するのだが、そこには、とんでもない隠密系の才能が表示されており・・・。 冷静沈着で中性的な容姿を持つ主人公の、バトルあり、恋愛ありの、気ままな異世界隠密生活が、今、始まる。 現在、1日に2回は投稿します。それ以外の投稿は適当に。 改稿を始めました。 以前より読みやすくなっているはずです。 第一部完結しました。第二部完結しました。

RiCE CAkE ODySSEy

心絵マシテ
ファンタジー
月舘萌知には、決して誰にも知られてならない秘密がある。 それは、魔術師の家系生まれであることと魔力を有する身でありながらも魔術師としての才覚がまったくないという、ちょっぴり残念な秘密。 特別な事情もあいまって学生生活という日常すらどこか危うく、周囲との交友関係を上手くきずけない。 そんな日々を悶々と過ごす彼女だが、ある事がきっかけで窮地に立たされてしまう。 間一髪のところで救ってくれたのは、現役の学生アイドルであり憧れのクラスメイト、小鳩篠。 そのことで夢見心地になる萌知に篠は自身の正体を打ち明かす。 【魔道具の天秤を使い、この世界の裏に存在する隠世に行って欲しい】 そう、仄めかす篠に萌知は首を横に振るう。 しかし、一度動きだした運命の輪は止まらず、篠を守ろうとした彼女は凶弾に倒れてしまう。 起動した天秤の力により隠世に飛ばされ、記憶の大半を失ってしまった萌知。 右も左も分からない絶望的な状況化であるも突如、魔法の開花に至る。 魔術師としてではなく魔導士としての覚醒。 記憶と帰路を探す為、少女の旅程冒険譚が今、開幕する。

異世界転移したら、死んだはずの妹が敵国の将軍に転生していた件

有沢天水
ファンタジー
立花烈はある日、不思議な鏡と出会う。鏡の中には死んだはずの妹によく似た少女が写っていた。烈が鏡に手を触れると、閃光に包まれ、気を失ってしまう。烈が目を覚ますと、そこは自分の知らない世界であった。困惑する烈が辺りを散策すると、多数の屈強な男に囲まれる一人の少女と出会う。烈は助けようとするが、その少女は瞬く間に屈強な男たちを倒してしまった。唖然とする烈に少女はにやっと笑う。彼の目に真っ赤に燃える赤髪と、金色に光る瞳を灼き付けて。王国の存亡を左右する少年と少女の物語はここから始まった!

レジェンドテイマー ~異世界に召喚されて勇者じゃないから棄てられたけど、絶対に元の世界に帰ると誓う男の物語~

裏影P
ファンタジー
【2022/9/1 一章二章大幅改稿しました。三章作成中です】 宝くじで一等十億円に当選した運河京太郎は、突然異世界に召喚されてしまう。 異世界に召喚された京太郎だったが、京太郎は既に百人以上召喚されているテイマーというクラスだったため、不要と判断されてかえされることになる。 元の世界に帰してくれると思っていた京太郎だったが、その先は死の危険が蔓延る異世界の森だった。 そこで出会った瀕死の蜘蛛の魔物と遭遇し、運よくテイムすることに成功する。 大精霊のウンディーネなど、個性溢れすぎる尖った魔物たちをテイムしていく京太郎だが、自分が元の世界に帰るときにテイムした魔物たちのことや、突然降って湧いた様な強大な力や、伝説級のスキルの存在に葛藤していく。 持っている力に振り回されぬよう、京太郎自身も力に負けない精神力を鍛えようと決意していき、絶対に元の世界に帰ることを胸に、テイマーとして異世界を生き延びていく。 ※カクヨム・小説家になろうにて同時掲載中です。

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

処理中です...