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第二章 異世界っぽい世界で学校生活
第75話 予想以上の体力の衰え
しおりを挟むさて、体験入部……なんか流れで試合をすることになってしまった。
サーブは、交互に打つ方式だ。達志が打ったら、次はマルクス。その次は達志、その次は……と。
全部達志でもいいとお慈悲をもらったが、まだ変なプライドがあったのと、慈悲を言ったマルクスの顔がムカついたので、やめた。
「よっし……行くぜ!」
こうなったら覚悟を決めろ。ありがちじゃないか、物語で、こういう勝負事……決闘で、なんだかんだ主人公が勝ってしまうのは。
もちろん、自分が主人公などと、うぬぼれているわけではないが……
全力でぶつかれば、なんとかなる!
「せい!」
ボールを高く上げ、覇気のあるかけ声と共に、落ちてくるボールに向かって勢いよくラケットを振るう。
それにより、パコンッ、と打たれたボールは、勢いよく相手コートへと襲いかかり……
……パスッ……
「………………」
……襲いかかる、はずだった。
「…………」
確かに、ボールは打った。打てた。打てないなんてことはなかった。一投目で当たったのだ、大したもんではないか。勘は鈍ってない、はずだ。当たったのだ。うん、当たった。当たったのは間違いない。
……ボールは、数メートル先に転がっていた。もちろん、相手コートには届いてもいない。ネットは超えていない。
当たったが、ボールはそこにある。これはつまり、そういうことだ。
「フォルト!」
いつの間にか審判についていた、一人の男子部員。彼が、高らかに声を上げる。
あぁ、ヤバい。恥ずかしい。
「ここまでかよ……」
まさか、打ったボールが相手コートに届かないほどに、腕の筋力が衰えているとは。
当たらないよりマシなのかどうか、悩ましいところだがとりあえず、これだけは言える。
……これは予想以上にヤバい、と。
――――――
「ハァ、ハァ……ぜぇ、はぁ……!」
日は傾きはじめ、気温は落ち着いていく。
しかし額から流れる汗は、この場が凄まじく暑いのだと物語っている。
まるで長距離マラソンを走った後のように、額から汗が吹き出し、息切れも激しい。
現在テニス部に体験入部中で、副部長のマルクスと試合をしている達志。
彼がすでに疲労困憊なのは、誰の目から見ても明らかだ。
「な、なかなか……はぁっ、やるじゃ、げほっ……ねぇか……」
「……いや、その……」
自分をここまで追い詰めた相手として、達志はマルクスに賞賛を贈る。
体力は限界でも、せめてもの強がりとして、不敵な笑みを浮かべておく。
だがその賞賛を受けたマルクスは、若干引き気味だ。そして、彼は息切れ一つも起こしていない。
それは相対する者同士のレベルの違い……という問題ではない。
というか、それ以前の問題だ。
「けど、はぁ……次こそは、点をもぎ取る!」
「いや、半分以上自滅だよな」
メラメラと燃える達志に対して、引き気味のマルクスは、自分はほぼ何もしていないことを告げる。
実際、ここまでの展開は、達志の自滅で試合は進んでいた。
現在のポイントは40-0。もちろん、マルクスが40だ。ここまでの試合展開、達志のフォルトから始まり、続いてまたも失敗し、ダブルフォルト。
サーブ権を交代し、マルクスのサーブを受けたが、なんとかラケットに当てることはできても見当違いの方向へ飛んでいき、失点。
ボールを追えるだけの動体視力は健在……であったが、あれがマルクスの本気のサーブではないだろう。
加減するとは、試合前に言っていた。加減してもらって、その結果がこれだ。
二回目のサーブ権も同じく、ネット越えならず。これで達志は三失点してしまったわけだ。半分以上というか、もう全部達志の自滅である。
「はぁ、はっ……ぅえ……」
その上、ほとんど動いてないのに……汗がだらだら、息は絶え絶え、とんでもない体たらくだ。
トサカゴリラテロの時は、しばらく走っても大丈夫だったのに。
やはりただ走るだけとは違うのか。それにしたって、ここまでとは思わなかった。
「なあ、もうやめないか? 見てるこっちがつら……」
「うるせえぇー! まだやれる! お、俺はまだ、やれる!」
達志にいい印象を抱いていないマルクスすら、中断を促すレベル。
だがここで中断しようものなら、本当にただのカッコ悪いやつになりさがってしまう。
先ほどから無言のリミ。応援してくれているはずの彼女を見るのが、怖い。
ただ、負けるにしても、せめて最後までやりきる。それがせめてもの、礼儀だとも思うから。
「ほら、来い! 言っとくけど手加減すんなよ、本気で来いよ!」
「……わかった」
諦める様子のない達志に、離れていてもマルクスの軽いため息が、聞こえてくるようだ。
次のマルクスのサーブ……達志の言葉通りにしてくれるなら、次こそ本気サーブだ。
先ほどのサーブを打ち返せなかったのに、本気サーブを打ち返せる自信は、正直ない。
「な、なんなら魔法使ってもいいんだぜ!」
なぜこの期に及んで、自らハードルを上げるような言葉を言うのか。
もうほぼやけになっているんじゃないかなと、達志は自分でも思う。
「悪いが、僕は魔法は使えないんだ」
が、返ってきたのは予想に反したものだった。達志の周りの人間が使える人が多いから、てっきり使えるものと思っていた。
だが、使えないのならば、どうしようもない。
とはいえ状況が変わったわけではない。魔法が使えようが使えなかろうが、これまでも素の力で負けてたわけだし。
だが、できるかできないかじゃない。やるかやらないかだ。
たとえできないとしても、それがやらないことには繋がらない。だから……
「おらぁ!!」
バゴォンッ!
……最後まで食らいついてやるという闘志は、一気に削がれた。
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