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第二章 異世界っぽい世界で学校生活

第69話 魔物だっているさ、ファンタジーだもの

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「いやー、ゴリラがウホウホうっさかったんで帰ってきたわ」

「……戻って早々なにを言っているんだ貴様は」

 ガラガラ……と保健室の扉を開くなり、中に入ってきた人物……達志が発した言葉を受けたマルクスは、意味がわからないと眉をひそめていた。
 戻ってくるなり、なにを意味不明なことを言っているのか。

 同時、呆れたようにため息を漏らす。

「いや、言葉通りの意味だよ。なんか途中から話すのめんどくなって……」

「いやいや、なにしに行ったんだよ!」

「後はムヴェル先生に任せればいいかなって」

「適当だな!」

 時間を無駄にしたぜ、と、なぜかトサカゴリラへの嫌悪感が増している達志。その姿に、マルクスはもはやなにも言えない。
 保健室では、血を見て倒れていた保健医パイア・ヴァンは、すでに起き上がっておいた。

 ルーアは、どこから迷い込んできたのか猫を相手に、猫じゃらしで遊んでいた。なんだこの光景。

「うわぁ、猫だ!」

 その光景を不思議に思っていないのか、猫を見たリミは目を輝かせて、駆け寄っていく。耳と尻尾を揺らし、嬉しそうだというのが丸わかりだ。
 猫とじゃれあうロリっ子とケモ耳娘。なんとも不思議で微笑ましい光景だ。

「まあ、なんで猫がここにってツッコミは置いとくとして。どうせ窓から入ってきたんだろうし。
 聞きたいことがあんだけどさ」

「あぁ」

「今日ってこの後どうなんの? ヒャッハーな集団が来たわけだけど……」

 女子たちの微笑ましい光景を目の隅に映しながら、達志は気になっていることをマルクスに問う。
 いかにこちら側に被害が少ないとはいえ、学校であのような騒動があったのだ。

 普通ならば、早々に帰宅といったところではないだろうか。
 だが学校からは、なんの連絡もない。というか……みんな、落ち着き過ぎではないだろうか?

 それともこれが普通なのか。十年経てば現実など、ファンタジーで魔法で世紀末なのだろうか。

「まあ、そうだな。時間としては……まだ六時限目ができるから、もう少ししたらやるんじゃないか?」

「授業再開すんの!? この状況で!?」

「ちなみに放課後は部活動も普通にある」

「たくましすぎだろこの学校! というか人たち!」

 あんな騒動……言ってしまえば小さなテロだ。そんなことがあったというのに、そのまま続けてしまうのか。
 考えてみれば、他のクラスや学年の人間も出てこないし。なんてことない騒ぎなのか。

「まあ、今時こんなこと珍しくもない。この学校だけが特別なわけではではないし、人じゃなく魔物が現れることなんてしょっちゅうだしな」

「……へー、そうなん……へ?」

 テロだろうがなんだろうが、どうやらこの学校……いやこの世界の人たちには関係ないらしい。
 むしろ珍しくもないと聞いて、物騒な世の中になったと達志は若干引き気味だ。

 その一方で、今の言葉の中にものすごく、興味をひかれるワードがあった気がする。

「今、なんて? 魔物?」

「え、あぁ……あぁそうか。まだ聞いてないのか。いるぞ、魔物」

 どうやら聞き間違えではなかったらしい。魔物という存在が、確かに、この世界にいると。
 それを聞いた達志のテンションは一気に上昇する。

 思えば、魔法なんていうファンタジーなものが存在する世界になっているのだ。だとしたら、同じくファンタジーな魔物という存在があっても、おかしくはない。

「おぉー、なんか異世界っぽい! ファンタジーっぽい!」

「お、おう」

「良かったなタツー」

 目を輝かせる達志に、今度はマルクスが若干引いている。が、今はそんなの関係ねえ。
 ここにきてまた、一気にファンタジー要素が強まったのは、なんだかワクワクする。

 それにしても……今頭上に乗っているスライム。彼も、言ってしまえば魔物の部類ではないのだろうか。人ではないんだろうし。
 ……そう思いながらも、実際には聞けない達志である。

「じゃあ、もしかしてこの学校でも飼ってたりすんの!?」

「ペットか! ……魔物なんて、とてもじゃないか手懐けられるものじゃない。そもそも本来なら、こっちの世界に干渉してくること自体おかしいんだ」

「へぇー?」

 てっきり魔物というやつに会えると思っていたのだが、どうやらそれは叶わないらしい。残念だ。

 当然だが魔物は元々異世界……サエジェドーラに生息していた生き物だ。
 マルクスの話によると、そもそも魔物が世界を渡ってこちらに干渉してくることが、おかしいのだという。

「あれ、ってかサエジェドーラ……マルちゃんたちがいた世界って、滅びたんじゃなかった?」

「誰がマルちゃんだ。……正確には人の……いや『生物の住める環境ではなくなった』、だ。
 魔物という存在を除いてな」


 魔物以外が住めなくなった世界……それが、サエジェドーラの現状。
 魔物以外だなんて、そんなピンポイントなことあるだろうか。あるんだろう。

「そもそもさ、魔物って何? マンガとかじゃよく見るけど、実際に」

「知らないのに飼ってるか聞いてきたのか!?」

 素朴な、しかしわりと重要な疑問が浮かぶ。魔物という存在についてだ。

「それは……あれだ。なんか、ただのモンスターに邪悪なアレが入って生まれる……?」

「いっきなりざっくりした説明になったぞ! さっきまでの自信満々な様はどうしたよ!?」

「仕方ないだろ! 魔物の存在については諸説様々なんだ!」

 とはいえ、さすがにざっくりしすぎだろう。
 見た目は不良でも、中身は優等生のくせに。と愚痴りそうになった達志の頭上から、声が降り注ぐ。

「まあマルちゃんの言うように、魔物についてはいろんな説があるんだけどさ。一番有力なのはこれだぜ」

「ヘラ……」

「人間の邪な心から生まれる穢れたなんかが魔物になるとか、生き物に乗り移って乗っ取るとか」

「あれ、一番有力説も途中からざっくりしてきてない? というか、マルちゃんの説明とそんな変わんなくね」

 魔物についての説明云々はざっくりしているが、一応大まかなものはわかった。とにかく、魔物は良くない生き物、ということだけ覚えておけば問題ないだろう。
 せっかく魔物に会えるかと思ったが、危険ならばやめておいた方がいいだろう。
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