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第一章 異世界召喚かとテンションが上がった時期が俺にもありました

第39話 幕を開ける学校生活

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 担任教師ムヴェルと合流。そこに由香を含めて、達志たちは三人で教室へ。
 教室の前に着き、ムヴェルが先に教室へと入る。これから復学生が来る、と説明をしているのだろう。

 その間達志は、深呼吸を繰り返していた。
 大丈夫、できる。自己紹介のシミュレーションはもう何回もやった、大丈夫だ、できる!

「よーしイサカイ、入ってこい」

「たっくん、頑張って」

 教室の中から、達志を呼ぶ声。由香の声援を受け、達志はついに教室へと足を踏み入れる。
 ただ前だけを見て……教壇に立ち……

 ガチガチの体で、黒板に背を向け、口を開いた。

「えぇっと、その……い、いさかい……た、たつ、しです……よ、よろしく、く……」

 久しぶりに大人数を前にして、緊張。しかも、その大半が異世界人であるという事実に若干……
 いや、極度の不安を覚えたせいか、思いっきりどもってしまう。

 何回も練習したはずの、自己紹介。それが、この場に立った瞬間、この人数を前にした瞬間、頭が真っ白になってしまった。
 練習なんて、なんの意味もなかった。そう思えるほどに。

 達志の自己紹介に、クラス内は静まり返っていた。達志に続いて教室に入ってきた由香は、心配そうな表情を浮かべている。
 ここは、拍手でもするべきだろうか。そんなことを考える。

「……と、いうわけだ。まあいろいろあるが、その辺は貴様ら適当にやれ。
 っと、席は……」

「タツシ様ー!」

 一通り達志の自己紹介が終わったと判断したムヴェルは、達志をどの席へ座らせるか、視線を巡らせる。
 そこへ、はい、と手を挙げた女の子がいた。

 窓際最後尾に座っている少女……リミは、健気に、ぶんぶんと手を振る。
 どうやら、彼女とは同じクラスらしい。

 リミの反応は嬉しいが、どうしようもなくむず痒い。
 この環境下、ただでさえ緊張でどうにかなりそうだというのに、あんなぶんぶんされたら、恥ずかしくて死んでしまいそうだ。

「なんだ、ヴァタクシアと知り合いだったのか。よし……イサカイは、廊下側の最前列な」

「「何で!?」」

 リミの発言を受けて。ムヴェルのまさかの発言に、達志とリミの声が見事にハモる。
 この流れは「なら、知り合い同士世話を頼む」みたいなノリで、リミの隣になるパターンだと思っていたからだ。
 リミの隣空いているし。

 それは達志だけでなく、リミも同じことを思った。

 達志が隣に座るつもりでいたのか、リミはこの世の終わりみたいな顔をしている。
 がっかりするにしても、席が隣じゃないだけで?

「先生! タツ……イサカイ君はいろいろとその、この環境に混乱してるはずです! ですからここは、知り合いである私が!」

 だが、ここで引き下がるリミではない。はいはいっ、と挙手し、立ち上がる勢いで、物申そうと口を開くが……

「いや、冗談のつもりだったんだが……まさかそこまで本気にするとは。普段真面目なお前がここまで反応を見せるとはな。
 ……イサカイ、貴様面白いな」

 リミの抗議が成される前に、ムヴェルからは冗談だという言葉が告げられる。そして何故だか、達志に矛先が向けられた。

 リミはというと、それが冗談であった安堵感も束の間。取り乱してしまったことへの羞恥心から、顔を赤くして、わたわたと手を振り回して慌てている。
 静かに座り直すその姿が、なんとも面白い。

「というわけで、イサカイはヴァタクシアの隣な」

 結果、リミの隣……最後尾の、窓側から一つ横の席へとなった。

「先生、リミの隣なのは全然いいんですけど、何であんな中途半端な席空けてるんですか」

 あれだと見映えが悪いし、空けるなら端っこの席ではないか、と思ったのだが。

「席替えがめんどくさくてな」

「さいで」

 ささやかな疑問は、しかしバッサリと切り捨てられた。

 ともあれ、空いている席へと向かう。最中に、視線を四方八方から浴びながらも、席に到着。
 隣ではリミが、花の咲いたような笑顔を浮かべており、ウサ耳をピコピコ動かしている。

 本当にわかりやすい子だ。

「タツシ様と隣……よろしくお願いします、タツシ様!」

「あぁ、よろしく。って、学校でその呼び方は……」

 一々オーバーなリアクションだな、この子は。
 嬉しそうなリミを見て、自然とこちらも頬が緩む。だが、それに気を取られてもいられない。

 リミはおそらく、学校では人気があるのだ。そんなリミと親しげに話している達志を、周りがどう見るか……

「おう、イサカイっつったか。オイラはヘラクレスってんだ。隣同士仲良くしようぜ」

 これからのことを考えている達志の思考に割り込むように、リミとは逆側の隣の席から、声がかけられる。
 その声はまるで、ドラマで聞く、ボイスチェンジャーを使った犯人の声のように甲高かった。
 が、どこか親しみを感じさせるトーンだ。

 名前が、ヘラクレス。めちゃくちゃ強そうな名前に、どんな人物が声をかけてきたのかと、達志のテンションも上がる。

 ウサギ獣人のリミに、ケンタウロスの教師。いったい次は何が飛び出してくるのか。
 隣同士になった縁。こちらも親しみを込めて挨拶せねばなるまい。リラックス、リラックス……

「あぁ、勇界 達志だ。こちらこそよろし……」

 心の中で深呼吸をしながら、ゆっくりと振り向く。なるべく自然に、不自然がないように……
 そして、動きが止まった。

 ……振り向いた先にいたのは、スライムだった。

「……く……」

 消えかけてしまった言葉を、なんとか最後まで繋ぎ直す。それほどまでに、衝撃的な展開が待ち受けていたから。

「イサカイ……うぅーん堅苦しいな。タツって呼んでいい? オイラのことも好きに呼んでいいぜ。ヘラやライムって呼ばれることが多いんだけどよ。
 あ、ライムってのは、スライムから取ってるみたいだぜ。名前と全然かすってねえし、ウケるよな」

 気さくに話しかけてくるのは、紛れもなくスライム。ケラケラと笑っている。
 ソフトクリームのクリーム状のような、てっぺんがちょこんと跳ねた形状をしている。水色の半透明な体に、漆黒のつぶらな瞳。

 それはまさしく、ゲームでよく目にするスライムそのものだ。

 初対面で馴れ馴れしく話しかけてくるスライム。それは達志に緊張感を与えないためにあえてこういう話し方なのか。
 いや、即座に否定。

 おそらくこれこそが、このスライム……ヘラクレス本来の話し方なのだ。馴れ馴れしくも、どこか親しみを感じさせる。
 それにしても、よく喋るスライムである。ペースを乱されないようにしなければ。

「じゃあ……ヘラで。よろしく……」

 ヘラクレス、と言うから、どんないかつい人物が出てくるかと思いきや……見た目雑魚キャラが出てきてしまった、と失礼なことを考えてしまう。
 しかしそんなこと、口が裂けても言えない。

 呼び方はひとまず、名前から文字ることにしよう。

「おう、タツ。しく~」

 あくまで馴れ馴れしいスライム、改めてヘラは、達志をタツと呼ぶことにしたらしい。それは全然構わない。
 そして今のはおそらく、よろ『しく』と取った言葉なのだろう。斬新な挨拶だ。

 リミという見知った人間がいたことに安心していたが、まさかこんなキャラがいるとは……リミに対する安心感とは、また違う感情が沸いて来る。
 そして達志は、伸ばされた手に応じて、なにも考えずにヘラと固い握手を交わす。

 ……そう……『伸ばされた手』に。

「……ん?」

 そこでようやく、違和感に気づく。この手は……なんだろう。
 目の前から伸びてきたのだから、これはヘラのものである可能性が高い。しかも水色だし。

 だがスライムには手足がなく、言ってしまえば風船のような形をしている。そんな相手から手が伸びてきた事実に、握手を交わしてから気づいた。
 あまりに自然な動きだったので、こちらも自然と握手に対応してしまったが。

 そして、今自分が握手を交わしているそれを確認する。それは、紛れもなく手だった。
 手が、というか腕がヘラの体から生えている。体と同色。見た目も感触も、人間の手とさほど変わらなかった。

 つまり今のヘラは、スライムの体に片腕が生えた状態、という非常にアンバランスな形態になっていた。
 その状態のヘラと握手を交わしているという、なんとも斬新な絵面。

「……よ、よろしく」

 ……十年間眠り続けた後の世界で。
 幼なじみは大人になり、自分が助けた少女は同級生となり。世界は大きく変わった。
 これから達志は、復学したこの学校で、様々な出会いをすることだろう。

 期待と、そしてちょっぴりの不安が、達志の心の中にあった。

 ……達志の学校生活が、幕を開ける。
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