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第一章 異世界召喚かとテンションが上がった時期が俺にもありました
第24話 復学の話
しおりを挟む復学の話には驚いたが、それも真実であるとわかった。
「とにかく……俺は、退院したらまた学校に行ける、ってことでいいんだよな?」
「はい! その通りです!」
これまで以上に、リミの耳が激しく動いている。
それだけ、達志と一緒に学校に通えることが嬉しいのだが、残念ながら達志にはそれは伝わっていない。
それを見抜いているのは、セニリアだけだ。見抜く、とはいっても、わかりやすすぎるのだが。
「ですから、その……これからは、毎日一緒に学校に通えるといいますか……」
俯き、手を結びもじもじと脚を動かしている。その奥底にある気持ちに気づかないまま、達志は頷いて応える。
毎日ということは、どちらかがどちらかを迎えに行かなければいけないな、とも思う。
それも、学生らしくていいではないか。
あの頃は由香が迎えに来てくれていたが、その由香はもう社会人だ。
まあ家は近かったんだが。
目の前の少女と一緒に登校する光景を思い浮かべ、自然と頬が緩む。その未来のためにも、一刻も早くここから退院しなくては。
「ってことは……俺は、事故で休学扱いになった二年生から、再出発ってことか」
「はい! あ、私も二年です!」
はいはいっ、と目の前にいるにも関わらず元気に手を挙げるリミに、思わず笑みが溢れる。
ということはつまり、リミと同じクラスになる可能性もあるということだ。
「同じクラスになれりゃ一番だな。そん時はよろしく。って、気が早いか。まだ退院の日取りも決まってないのに」
「こちらこそよろしくお願い致します。
……ふふ、それもそうですね」
退院の日程が決まって、帰宅して色々準備して、それから復学……ふむ、中々にハードではないか。
しかもただの復学ではなく、十年もの歳月を経てなら、なおのこと。
教師はともかくとして、もう、達志の知っている同級生も先輩も後輩もいない。
復学とはいっても、実質新しく学校生活を始めることとなんら変わりはない。
……だが、少なくとも目の前の少女が一緒にいる。それだけで、達志の心の負担も減るものだ。
「……それではお二人とも。お話のキリもいいようですので……」
と、そこでセニリアが言葉を紡ぐ。見ると、既に深夜零時になろうかという時間ではないか。
こんなに時間が経っていたのにも驚いたし、なによりよくもこんな時間まで面会が許されたものだ。許可を取っているとはいえ。
それとも、これこそ姫様様々の権力効果というやつだろうか。
「そうだな。二人とも、こんな時間まで付き合ってくれて、ありがとう」
さすがに、これ以上引き留めることはできない。リミは心配ないとは言っていたが、やはり両親も心配するだろうし。
「いえ、そんなこと。私たちだって、楽しかったですし」
やはり顔を赤く染めながら、パタパタと手を振る。しかしその様子がどこか残念そうなのは、気のせいではないのだろう。
心の底から達志との会話を楽しんでくれた少女は、ここから去ることを残念に思っている。
「そんな顔しないでって。これからはこうして話せるんだから」
「……はい!」
正直、眠った時に再び……十年とはいかず眠ってしまうのでは、という心配がないわけではない。だが、不思議と予感があった。
いや、生まれたと言うべきか。
明日も、明後日も明々後日も……これからは、普通の生活を送ることができると。
「では、寂しいですが……明日も、来ますので」
「はは。無理はしないでね。でも、期待してる」
明日も来る、というリミの言葉に、達志は無理はしなくていいと言う。
ただ、口ではそう言うが、実際には期待している。
四時間過ぎの間会話をしていた相手、その相手とはこの時間でずいぶんと親睦を深めることができた。
『期待してる』というその言葉に、一瞬きょとんと呆気に取られたような表情になるリミだが……
すぐにその意味がわかったのか、顔を若干赤く染めながらも……
「はい!」
と、花の咲いたような笑顔で、応えたのだった。
――――――
「……また何年も眠った、なんてことはなかったか……よかったぁ……」
目覚めた達志は、まずテレビをつけた。今日の日付を確認するために。
そこに映し出されていたのは、昨日より一日追加された数字。昨日の一日後、すなわち今日だ。
リミたちが帰宅し、一人になった達志は、就寝した。あんなに眠っても、やはり睡魔というものは襲ってきた。不思議だ。
眠り、次に目覚めたら、また時間が飛んでいた……そんな不安を抱えていたことが、バカバカしくなるくらいに、今日は今日だった。
「うんうん、体の調子もいいし、寝起きにしちゃ上出来くらいに爽やかだな」
元々寝起きがよくない方であったが、今起きた時点で、自分でも驚くほどに、清々しい寝起きだ。
それが眠りに眠ったせいなのかはわからないが、この際どうでもいいだろう。
寝起きが清々しく、体の調子も悪いどころか良好に感じる。
これで、体力を元通り近くにさえ持っていければ、退院も同然だろう。
まあ、歩くだけで、階段を登るだけで息切れを起こしてしまう始末だ。これは、リハビリに相当な時間がかかってしまうことが予想される。
気長にやるしか、ないのかもしれない。
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