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第二章 現代くノ一、現代社会を謳歌する!
第67話 瀬戸原くんが言っていた通りの子ね
しおりを挟む「まあー、お世話になっている親戚の子に、プレゼントを? それはとてもいいことね」
「あはは、まあ一応は」
桃井さんに手料理のお礼を振る舞い、桃井さんと一緒に久野市さんへのプレゼントを買いに行き、そして久野市さんにプレゼントを渡して喜んでもらえて……
その日の夜。俺はコンビニバイトのシフトに入っていた。
レジに並ぶのは、俺ともう一人。
篠原さんだ。気のいい人で、バイトを始めたばかりの俺にも気さくに話しかけてくれた。
どうやら俺と同じくらいの娘がいるらしい。
今では、こうしてプライベートもある程度話せるくらいに心を許している人だ。
「それにしても、瀬戸原くんの親戚の子が、同じアパートのしかも隣に引っ越してくるなんてねぇ」
「び、びっくりですよねぇ」
ちなみに、この親戚のこというのは久野市さんのことだ。
というのも、以前俺と久野市さんが一緒に歩いている所を、篠原さんに見られていたらしいのだ。
彼女か彼女かと詰め寄ってくる篠原さんに、俺はとっさに親戚の子だと話してしまったわけで。
正直に「彼女はくノ一で俺の命を守りに来たんですよぉ」なんて言っても信じては貰えないだろう。
「やたらかわいい子だったわねぇ。これは香織ちゃんも、うかうかしていられないわね」
「? 桃井さんがどうかしました?」
「なんでもないわ」
24時間営業のコンビニは、朝でも昼でも夜でも……一定の利用客層はいる。
だから、こうして話をする時間もあればお客さんの対応に追われるときもある。
今日も今日とて、忙しいようなそうでもないような時間を過ごしていた……
「いらっしゃいませ……」
「お、木葉じゃん」
扉の開く動作に反応して、店内に音楽が流れる。
お客さんが入店してきたことが分かり、お決まりの挨拶を言うと……その人物は、俺の名前を呼んだ。
とっさにその人物を見る。見慣れた金髪のツンツン頭。
そもそも俺のことを下の名前で呼び捨てにするのは、一人だ。
「ルア」
「よう」
そこにいたのは、クラスメイトの神崎 ルアだった。
彼はレジに立つ俺に手を上げ、他にお客さんがいないのを確認してから近寄ってきた。
「なんだ木葉、コンビニでバイトしているとは聞いてたけど、ここだったんだな」
「ま、場所までは言ってなかったからな。
ルアはこんな時間に、どうしたんだ? 家この辺りじゃないだろ?」
「夜の散歩ってやつさ。たまには、別のコンビニに入ってみようってな」
あははと笑うルアは、夜でも昼とは変わらない。
金髪に染めていると思われがちだが、これは地毛だ。両親が日本人と外国人のハーフで、日本生まれの日本育ち。
そんな彼は、高校で一人だった俺に最初に話しかけてくれた。
火車さんと同じ、俺にとって高校での特別な存在だ。
まあ火車さんは、俺に近づくために話しかけてきたのかもしれないが。
「あら、瀬戸原くんのお友達?」
俺たちの会話を聞いていた篠原さんが、俺とルアを交互に見る。
その視線に気付いて、ルアは小さくお辞儀をした。
「はじめまして。木葉のクラスメイトで親友の、神崎 ルアです」
「あらあらまあまあ」
ルアの真っ直ぐな自己紹介に、篠原さんは口元に手を当てて俺はとんでもなく恥ずかしくなる。
クラスメイトなのはともかく、親友て……ルアとは、高校に入ってからの付き合いだ。だから、まだ数ヶ月の付き合いでしかないのに。
し、親友て……
「あらら、瀬戸原くん顔が真っ赤よ?」
「なっ……そ、そんなことないです!
ルアも、親友とか恥ずかしいこと言うなよ!」
「え……恥ずかしかったか、ごめん」
照れ隠しにルアに指摘をするが、それを受けたルアは思いのほかしょげ表情を浮かべる。
眉を下げ、まるで飼い主に捨てられた小犬のよう。
耳が生えていたら間違いなく垂れ下がっている。
こ、こういうやつなんだよ……こういうところあるんだよ……
「あ、謝んなよ。悪かった……うん、し、親友だから」
「木葉……!」
途端に、ルアは表情を明るくする。
くっ、眩しい……そして恥ずかしい!
篠原さんがどんな顔をしているのか、見たくない! なんか温かいものをみるような視線を感じるけど、見たくない。
「神崎 ルアくんね。瀬戸原くんが言っていた通りの子ね」
「篠原さん!?」
「ん、木葉は俺のことなんか言ってたんですか?」
「えぇ。いつも明るくて、楽しませてくれて、助けられてて、一番のとも……」
「わーわー!」
篠原さんなにぶっちゃけてんの!?
そんなの本人に聞かれるとか……死ねるんだが!
いっそ殺してくれ!
「木葉……」
「やめろ! そんなキラキラした目で見るな!」
篠原さんに行ったことは嘘ではない。嘘ではないけど……
本人に聞かれるのは、なんか違うじゃん!
このままではいらないことまで吹き込まれてしまいそうだ。誰か助けて!
「! い、いらっしゃいませ!」
俺の願いが通じたのか、店の扉が開く。
お客さんが来たのがわかり、俺はいつもよりも大きな声で挨拶をする。
仕事が残っているから、ルアにはとっとと用事を済ませて帰ってもらいたい!
そう、思っていると……
「あら、美愛じゃない」
と、篠原さんが声を漏らした。
「! 篠原さん、知り合いですか?」
「えぇ。私のかわいい娘よ」
「……ども」
店内に入ってきたのは……まさかの、篠原さんの娘さんだった。
ジャージ姿に身を包んだ、俺と同い年くらいの女子。薄めの栗色の髪をツインテールにした、猫みたいに大きな目がきりっとしているのが印象的だ。
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