久野市さんは忍びたい

白い彗星

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第二章 現代くノ一、現代社会を謳歌する!

第56話 デートのお誘いかと思ったんだけどな

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「おじゃましまーす」

「ど、どうぞ」

 学校では、ルアや火車さんにからかわれたりしたが、最終的に応援してくれた。
 ただお礼の料理をごちそうするだけで、応援もなにもないとは思うのだが……まあでも、ありがたいものだ。

 そして今、週末……桃井さんを部屋に招いている。
 もちろん、事前に桃井さんには予定がないことは、確認済みだ。

 私服の桃井さんが、部屋の中を確認する。
 短めのスカートを履いているため、ちょっと目のやり場に困るが……まるで、モデルみたいだな桃井さんは。

「うんうん、部屋はちゃんときれいにしているみたいね」

「まあ、一応は……」

「……また、忍ちゃんにきれいにしてもらってるの?」

「そ、そんなことはないですよ!?」

 ふーん、と、どこか桃井さんは疑いの目を向けている。
 うぅ、前科があるからなぁ……信用されないのも仕方ないっていうことか。

「……ふふっ、冗談だよ冗談」

 けれど、桃井さんはすぐに笑って、さっきの言葉は冗談だと話す。
 その楽しそうな表情に、俺は一瞬きょとんとしてしまう。

「ちょっとした意地悪。そもそも、忍ちゃんが木葉くんの部屋のお掃除をしていたからって、私には関係ないことだし」

 な、なんだろう……言葉にちょっと、トゲがあるような、ないような?

 だけど、今回は桃井さんを招くために、俺一人で部屋をきれいにしたんだ。
 そこのところは、ちゃんと本当だ。

 ちなみに久野市さんは、火車さんに協力してもらって、外出してもらっている。
 久野市の嗅覚、聴覚なら、隣の部屋でなにが起きているか、すぐに察しそうだし。
 一応ご退場してもらった。

「それにしても、プライベートで木葉くんの部屋に来るのは、あの時以来だね?」

「……そうですね」

 部屋の中を見ながら、桃井さんが思い出すのは、あの時のこと。
 俺も、忘れもしない。火車さんが殺し屋だとわかって、久野市さんが俺を守る忍びで、諸々の事情を桃井さんに話したのが、この部屋でだ。

 とりあえず、あの話をしたおかげで、桃井さんには俺と久野市さんの関係を誤解なく説明できたはずだ。
 ……誤解って、なんのだ?

「とりあえず、どうぞ」

「ありがと。
 ……それで、今日はなにか用があって、呼んでくれたのかな?」

 俺は床に座布団を敷き、その上に座るようにと桃井さんに促す。
 桃井さんは、ゆっくりと座布団の上に腰を下ろしながら、今日部屋に呼ばれた理由を聞いてくる。

 俺はキッチンに移動しつつ、今日桃井さんを招いた理由を、説明する。

「今日は、桃井さんに日ごろのお礼をしたいと思いまして」

 冷蔵庫を開き、材料を用意しながら、俺は話す。
 桃井さんと目をあわせるのは、なんだか恥ずかしい。

「……お礼?」

「はい。いつもお世話になってる、お礼です」

「そんな……私は、大家として当然のことをしてるだけだよ」

「だとしても、俺が感謝の気持ちを伝えたいと思ってるのは、本当ですから」

 確かに、アパートの大家と住人……その関係性ならば、住居の提供と家賃の支払いという間柄から、ある程度距離が近くなることはあるかもしれない。

 ただ、いつもおすそ分けだと言って料理を持ってきてくれたり、バイト先のコンビニで帰りを共にしたり……他にも、いろいろあるけど。
 それらをひっくるめて、お礼をしたいと思っている。

「なにか、プレゼント的なものを渡そうとも考えたんですけど……情けないことに、なにを渡せばいいのか、わからなくて
 なので、料理はどうかって。篠原さんからアドバイスももらいまして」

「料理? 木葉くんの?」

「はい」

 バイト先の先輩、篠原さんに、桃井さんへのお礼はなにがいいかと相談した結果……
 手料理はどうかと、アドバイスをもらったのだ。

 幸運なことに、桃井さんの好きなものは、火車さんが知っていた。なので、オムライスを作って、振る舞うことにしたわけだ。

「だから昨日、お昼は食べないでって言ってたんだ」

「はい。お昼代わりに、お礼を受け取ってもらえたらなと」

「なぁんだ。私はてっきり、二人でご飯食べに行こうって、デートのお誘いかと思ったんだけどな」

「でっ……」

 お……っと、いかんいかん。あまりに動揺して、割った卵に危うく卵の殻が入るところだった。
 ど、動揺してるんじゃないぞ俺。卵を混ぜて、心を落ち着かせろ。
 おかずも、事前に刻んでいたものを冷蔵庫から出して、と。

 てか桃井さん、彼氏いるじゃないですか……と言おうと思ったけど、堪えた。
 今のは桃井さんなりの冗談だ、冗談にマジレスしてどうする。

「やだなぁ、冗談よしてくださいよ」

「……」

 なので、明るい感じで言葉を返したのだが……なぜだか、それに対する反応はなかった。

 熱したフライパンに、溶いた卵を流し込んでいく。
 じゅう……と、卵が熱していく音が、部屋の中に響く。あまり火が強すぎると、卵が固くなってしまう。ちょうどよく、調整して……

「へぇ、結構うまいねぇ」

「わぁ!」

 ふいに、後ろから声をかけられた。まったく気配を感じなかった。
 首だけで振り向くと、そこには桃井さんの姿が。い、いつの間に……

「桃井さん? あの……座って、待っててもらっても……」

「えー、だって男の子が料理するところなんて、初めて見るんだもん。興味深くて」

 そ、そうなのか? 桃井さんの彼氏、料理しない人なのか……

 これまでにオムライスの練習は重ねてきたが、さすがにこんなガン見されながら作るのは緊張する。
 あぁ、なんかいいにおいもするし……いやいや、集中しろ!

 炊きあがっていたご飯を卵の上に。さらにケチャップで味付けをして、細かく刻んでいたおかずを混ぜていく。

「んん、おいしそうなにおい」

 においは、どうやら合格点。
 まあ、オムライスなんて、焦がしてもしない限り変なにおいにはならないはずだ。

 問題は、味……果たして、ちゃんと桃井さんに、喜んでもらえるかだ。

「……ふぅ」

 なんだか、いつもより神経を使う。
 けど……

 なんとか、オムライスが完成したぞ……!
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