久野市さんは忍びたい

白い彗星

文字の大きさ
上 下
46 / 84
第二章 現代くノ一、現代社会を謳歌する!

第45話 笑顔で物騒なこと言うのやめてくれない!?

しおりを挟む


 ……とある理由から、命を狙われることになった俺、瀬戸原 木葉。
 なんの変哲もない高校生だった俺の下に、ある日一人の女の子、久野市 忍が現れた。驚くことに……というリアクションが正しいのかはわからないが、彼女は忍者で、俺の命を守るためにやって来たらしい。

 当初はそんなことは信じられなかったが、実際に命を狙われたことで彼女を信用することになった。そんな彼女は、俺の通う学校に突然転入してきた。
 なので俺は、彼女を引っ張り今、俺の部屋にいる……俺の命を狙った火車 紅葉と共に。

 火車さんは、仲の良いクラスメイトの一人だったが、実は俺の命を狙う殺し屋で、俺を殺そうとした。それを、久野市さんが止めてくれたわけだ。
 俺は今、なぜか転入してきた久野市さんと、俺の命を狙ってなお学校に通っている火車さんと同じ空間にいる。

 そして、この空間にいるのは俺たち三人……だけではない。

「……じゃあ、木葉くんが火車さんに命を狙われたのは、木葉くんに相続される遺産を狙った誰かに依頼されたから……ってこと?」

「そーゆうこと」

 これまでの説明を経て、重々しく口を開くのは、この部屋……というかアパートの大家代理である、桃井さくらい 香織さんだ。
 正直な話、彼女はこの話にまったく関係がない。なのに、わざわざ桃井さんを部屋に呼んで、説明をしたのは……

 いろいろと誤解を与えたままなのはもう耐えられないと、判断したからだ。ただでさえ、久野市さんとの関係を誤解されているんだから。

「言っとくけど、依頼人については教えられない。一応、ウチにも殺し屋としての矜持があるんでね」

「ふふ、死んだら矜持もプライドもないのに、おかしな人ですね」

「笑顔で物騒なこと言うのやめてくれない!?」

 俺も一度、状況を整理するために話をまとめたが……いくら聞いても、火車さんは俺の命を狙うよう依頼した人の名前を出さない。
 あれかな、守秘義務……ってやつかな。

 とはいえ、俺も本気で聞き出そうとは、考えていなかった。もしそうなら、久野市さんに頼めば聞き出してくれる気がする。
 ……どんな手段を使うのか、想像したくはないけど。

「それにしても、驚いたな……木葉くんのおじいさんが残した遺産が、木葉くんに相続されて……その影響で、命を狙われることになったなんて」

「あはは、俺もです」

 俺の話のはずなのに、実際に命を狙われなければ今も信じてはいなかっただろう。
 俺がその話を知ったのは、いや聞いたのは久野市さんからだ。

 正直、命を狙われている、なんて話、冗談でしたで済んだらどれだけよかったことか。

「でも、クラスメイトに殺されそうになったら、信じるしかないですよね」

「……ありがとね」

「え?」

 苦笑いを浮かべる俺に、なぜか桃井さんはお礼を言った。
 俺、桃井さんにお礼を言われるようなことしたか? むしろ俺の方がいつもありがとうなんだが。

「この話をしてくれたのって、私を信用してくれて、ってことでしょ? なんだか、嬉しくて……あ、不謹慎、だよね、嬉しいなんて。ごめん」

 お礼の理由……そして、直後にそれが不謹慎だったと、謝罪する。お礼に謝罪と、俺は慌ててしまう。
 確かに、桃井さんに話したのは彼女を信用したからだ。信用できない人間に、こんな話はできない。

 まあ、クラスメイトに裏切られて……ってのもなんか違うが、友達だと思ってたクラスメイトに命を狙われて、信用とかなに言ってるんだって思うかもしれないが。
 それでも、俺にとっては……桃井さんは、本当に信用できる人だ。

 上京してきた俺が、ここまでちゃんと生活することができたのは、桃井さんのおかげだ。アパートの部屋を借りられたのも、コンビニでバイトをすることができたのも、都会の常識をある程度学ぶことができたのも……

「謝らないでください。それに、お礼を言うならこっちの方です」

「え?」

 今俺が一番信用している人間は、桃井さんだと言ってもいい。それだけ、彼女には世話になっている。
 もしかしたら、この話をしたことで桃井さんが豹変して俺の命を狙うのではないか……そんなことも、考えなかったわけではない。

 でも、そんなことを気にしていたらなにもできないし。なにより、桃井さんに関しては信じたい、という気持ちが強い。
 それに……

「桃井さんに、隠し事はしたくないですから」

「! そ、そっか……」

 隠し事をしたくない。それが、混じりっけのない本音だ。
 それを受けて、桃井さんも納得してくれたようだ。コクコクと、何度もうなずいている。

 ただ、うつむいているので表情は見えないが、なんか耳が赤い気がする。暑いのかな?

「さて……桃井さんに説明が済んだところで、キミたちの説明を聞こうか」

「はーい!」

「ちっ」

 桃井さんへの説明を終え、俺は久野市さんと火車さんへと視線を向ける。二人の態度は正反対だ。
 ウキウキな様子の久野市さんは元気よく手を上げ、ふてぶてしく座る火車さんは舌打ちをする。

 久野市さんは素直に答えてくれそうだけど、火車さんちゃんと答えてくれるのかな。

「じゃあまず、久野市さん」

「はい!」

「どうして、俺の通ってる学校に転入してきたの? それも俺のクラスに」

「主様を守るためです!」

 ……ある意味予想していた答えが、予想していた通りに返ってきた瞬間だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

榛名の園

ひかり企画
青春
荒れた14歳から17歳位までの、女子少年院経験記など、あたしの自伝小説を書いて見ました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

私の日常

アルパカ
青春
私、玉置 優奈って言う名前です! 大阪の近くの県に住んでるから、時々方言交じるけど、そこは許してな! さて、このお話は、私、優奈の日常生活のおはなしですっ! ぜったい読んでな!

【完結】ホウケンオプティミズム

高城蓉理
青春
【第13回ドリーム小説大賞奨励賞ありがとうございました】 天沢桃佳は不純な動機で知的財産権管理技能士を目指す法学部の2年生。桃佳は日々一人で黙々と勉強をしていたのだが、ある日学内で【ホウケン、部員募集】のビラを手にする。 【ホウケン】を法曹研究会と拡大解釈した桃佳は、ホウケン顧問の大森先生に入部を直談判。しかし大森先生が桃佳を連れて行った部室は、まさかのホウケン違いの【放送研究会】だった!! 全国大会で上位入賞を果たしたら、大森先生と知財法のマンツーマン授業というエサに釣られ、桃佳はことの成り行きで放研へ入部することに。 果たして桃佳は12月の本選に進むことは叶うのか?桃佳の努力の日々が始まる! 【主な登場人物】 天沢 桃佳(19) 知的財産権の大森先生に淡い恋心を寄せている、S大学法学部の2年生。 不純な理由ではあるが、本気で将来は知的財産管理技能士を目指している。 法曹研究会と間違えて、放送研究会の門を叩いてしまった。全国放送コンテストに朗読部門でエントリーすることになる。 大森先生 S大法学部専任講師で放研OBで顧問 専門は知的財産法全般、著作権法、意匠法 桃佳を唆した張本人。 高輪先輩(20) S大学理工学部の3年生 映像制作の腕はプロ並み。 蒲田 有紗(18) S大理工学部の1年生 将来の夢はアナウンサーでダンス部と掛け持ちしている。 田町先輩(20)  S大学法学部の3年生 桃佳にノートを借りるフル単と縁のない男。実は高校時代にアナウンスコンテストを総ナメにしていた。 ※イラスト いーりす様@studio_iris ※改題し小説家になろうにも投稿しています

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...