12 / 46
第二章 ヒーローとしての在り方
第12話 ブルーの正体は誰ですか
しおりを挟む「ブルーの正体を教えてほしいの、博士」
『なんじゃ藪から棒に』
尊と渚とのショッピングを終えた愛は、帰宅後自室にてスマホを手に、ある人物と電話をしていた。
電話の相手は、博士だ。ヒーロー用で支給されているこのスマホは、博士と通話することももちろん可能だ。
ブルーの……ヒーローの正体。愛自身、こんなことを聞くべきではないことは、わかっている。
しかし、だ。
「とても重要なことなの。私の渚ちゃんのハートが、ブルーに盗まれてしまったの!」
『いろいろとツッコミたいところはあるのぅ』
今日怪人が出現した場所、その場所にブルーが急行したこと、ブルーが怪人を倒したことは、博士にも伝わっている。
そこに愛までも居たとは、寝耳に水であったが。
愛のことだから、同じ場所に怪人が現れれば、迷わず変身して怪人を倒すはず……
だが、そうはしなかった。いやできなかった。
『つまり、愛くんがラブで夢中なたけるちゃんと、その妹であるなぎさくんが居たから、愛くんは変身できなかった。
そこにブルーが現れ、彼の活躍を見たなぎさくんのハートが盗まれてしまった、と』
「そ、そうですけど……その言い方やめてください」
博士の言い回しに、愛の顔が熱くなる。
状況自体は間違っていないが、言い方がなんだか嫌だ。
そんな愛の気持ちとは裏腹に、博士はひどく冷静な様子で、言葉を返す。
『ふむ。愛くんの気持ちはわかった。
しかし、ヒーローの正体については、詮索しない。……他ならぬ、キミが決めたことじゃろ』
「う……」
『それに、逆の立場で考えてみ。わしが、他のヒーローにレッドの中身を話したら?』
「うぐぐ、それは……」
博士の正論に、愛は返す言葉もない。
ヒーロー同士とはいえ、正体の詮索をしないようにと言い出したのは、愛だ。みんなもそれに賛同した。言い出しっぺの愛がそれを破るのはまずい。
博士ならば、ヒーロー一人一人の正体を知っているはずだ。
だから、博士に聞けばブルーの正体らわかる……それを素直に、教えてくれるはずもない。
浅はかな考えだったと、愛は肩を落として……
『まあでも、ブルーについては別に、正体は隠さなくてもいいと言われてるんじゃよな』
「へ?」
思わぬ言葉に、間の抜けた声が漏れてしまった。
「それって……?」
『自ら正体を明かすことはないが、もしも自分の正体を聞かれたら答えてやっていい、と本人が言ったんじゃよ。
もっとも、聞いてきたのは愛くんが初めてじゃがの』
ヒーローの正体を聞かないのは、暗黙のルール……詮索しないのも、レッドが言い出したこと。
だからこそ、今まで誰も、聞いてこなかったのだろう。
愛だって、渚の件がなければブルーの正体を聞こうとは、思わなかっただろう。
「い、いいんですか、本当に?」
『愛くんから聞いたんじゃろう』
謎に包まれたヒーローの、正体を知る……自分もヒーローなのに、なぜだかドキドキしている自分がいる、愛。
ごくりと、つばを飲み込む。
『ブルーの本名は、羅山 邦仁。わしの息子じゃ』
「わぁ、なんだかかっこいいなま……んん?」
聞いたことのない名字に、聞いたことのない名前。なんとかっこいい名前だろうかなんて思っていた所へ、衝撃の言葉が続く。
わしの息子だと、博士は言った。
……わしの息子だと?
「息子ぉおおお!?」
『おぉお、いきなり耳元で大声出さんといてくれ。耳キーンてなるわ』
「す、すみません」
思わぬ真実に、愛は逆転してしまう。
まさか、博士の息子がヒーローだとは。思いもしなかった。
……というか、博士の名字羅山だったんだ。考えてみれば、博士の本名知らないや。名前はなんだろう。
『邦仁は、今は大学生だったかのぅ。理系の、頭のいい子でなぁ』
「へぇー」
大学生……二十前後といったところか。
そんな相手に、渚は恋をしたということになる。年齢差はそこまでないが、中学生にとって大学生とは、もう立派な大人だろう。
しかし、安心した部分もある。もしもブルーの中の人が、レッドのように女だった場合。渚は、叶わぬ恋を抱いたということになってしまう。
最近は恋愛の多様性がある世の中だが、それは一旦置いておこう。
『しかし愛くんや。ブルーの正体を知って、愛くんはどうしたいのじゃ? なぎさくんの恋のお手伝いでもするつもりかの?』
「私は……」
問われて、言葉に詰まってしまう。愛は、つい衝動的に博士に電話をして、ブルーの正体を問いただしてしまった。
なにせ、かわいい義妹のことだ。心配事は取り除いておきたい。
とはいえ、正体を聞いて……それから、どうしたいのか。
一応、愛ならばヒーローのツテを使って、ブルーを渚に紹介できるかもしれない。が……
「とりあえず、今は様子見ですね」
今は、ブルーが男だったと確認できて、充分だ。
渚は中学生だし、颯爽と怪人を倒したブルーへの憧れを恋と勘違いしている可能性も、なくはない。
それが恋だとして、明日明後日には忘れてしまうかもしれない。
今、どうこうしようと動くのは、早計だ。
『そうか』
愛の答えに、博士はどこか嬉しそうだった。
『ちなみに、今息子に彼女はいないそうじゃ。いやぁ、まさかJCに惚れられるとは、わしの息子も捨てたもんじゃないのぅ』
「あはははー」
やはり、嬉しそうな博士だった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
元妃は多くを望まない
つくも茄子
恋愛
シャーロット・カールストン侯爵令嬢は、元上級妃。
このたび、めでたく(?)国王陛下の信頼厚い側近に下賜された。
花嫁は下賜された翌日に一人の侍女を伴って郵便局に赴いたのだ。理由はお世話になった人達にある書類を郵送するために。
その足で実家に出戻ったシャーロット。
実はこの下賜、王命でのものだった。
それもシャーロットを公の場で断罪したうえでの下賜。
断罪理由は「寵妃の悪質な嫌がらせ」だった。
シャーロットには全く覚えのないモノ。当然、これは冤罪。
私は、あなたたちに「誠意」を求めます。
誠意ある対応。
彼女が求めるのは微々たるもの。
果たしてその結果は如何に!?
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
妹が聖女の再来と呼ばれているようです
田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。
「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」
どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。
それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。
戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。
更新は不定期です。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
いいですよ、離婚しましょう。だって、あなたはその女性が好きなのでしょう?
水垣するめ
恋愛
アリシアとロバートが結婚したのは一年前。
貴族にありがちな親と親との政略結婚だった。
二人は婚約した後、何事も無く結婚して、ロバートは婿養子としてこの家に来た。
しかし結婚してから一ヶ月経った頃、「出かけてくる」と言って週に一度、朝から晩まで出かけるようになった。
アリシアはすぐに、ロバートは幼馴染のサラに会いに行っているのだと分かった。
彼が昔から幼馴染を好意を寄せていたのは分かっていたからだ。
しかし、アリシアは私以外の女性と一切関わるな、と言うつもりもなかったし、幼馴染とも関係を切れ、なんて狭量なことを言うつもりも無かった。
だから、毎週一度会うぐらいなら、それくらいは情けとして良いだろう、と思っていた。
ずっと愛していたのだからしょうがない、とも思っていた。
一日中家を空けることは無かったし、結婚している以上ある程度の節度は守っていると思っていた。
しかし、ロバートはアリシアの信頼を裏切っていた。
そしてアリシアは家からロバートを追放しようと決意する。
高貴な血筋の正妻の私より、どうしてもあの子が欲しいなら、私と離婚しましょうよ!
ヘロディア
恋愛
主人公・リュエル・エルンは身分の高い貴族のエルン家の二女。そして年ごろになり、嫁いだ家の夫・ラズ・ファルセットは彼女よりも他の女性に夢中になり続けるという日々を過ごしていた。
しかし彼女にも、本当に愛する人・ジャックが現れ、夫と過ごす夜に、とうとう離婚を切り出す。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる