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第十章 魔導学園学園祭編

761話 ご主人様呼びですが

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 誰かのために料理をする。今は喫茶店ってことでやってるけど、それでも私の作った料理を誰かに食べてもらえることに変わりはない。
 そう考えると緊張するけど、楽しみでもある。

 学園に来てからは、ご飯を食べるにも学食や外食ばかりで、自分で料理を作る機会があまりなかったけど……
 意外と体が覚えてるもんだなぁ。

「エランちゃん、あちらのお客様からも注文入ったよ」

「はいはーい」

 それに、こうしてみんなで協力してなにかをしていくってのは、やっぱり楽しい。
 魔導に関することじゃなくても、結構私料理とか好きなのかもしれないな。

 向こうの様子は気になりつつも、次々と入ってくる注文に対応していると、やがて向こうのことは気にならなくなってきた。

 ……そして、どれくらい時間が経ったか。結構料理作ったなってところで。

「ふぅ」

 一息つく。ふぃー、結構捌いたなぁ。
 少し落ち着いてきたみたいだ。みんないい顔している。

「ちょっと表見てくるね」

「はーい」

 一言告げてから、私は教室を覗く。
 うん、さっきよりだいぶお客さんは減ったな。ちょっと余裕で来た感じ。

 今いるお客さんも、のんびりと過ごしている人ばかりだし……って……

「だ、ダルマス?」

「ん、おう」

 テーブルの一つになぜか、ダルマスが座っていた。
 ダルマスはコーヒー片手に、優雅に座っていた。うぅん、悔しいけど絵になるなぁ。

 その理由は、髪型も含まれているな。いつものようなツンツンした感じじゃなくて、ちゃんと整えているから。

「なにやってんのさ」

「なにって……自分のクラスで出し物を楽しんではいけない、なんてことはないだろう」

 私の質問に、淡々と答えるダルマス。
 どうやら、このめいど喫茶を楽しんでいるようだ。確かに、自分のクラスのものにお客さんとして行っちゃいけない、なんてことはない。

 そっかぁ……そうだよな。

「ふぅん。で、どんな感じ?」

「どんなって……なにがだ」

「なにがじゃないでしょ。お客さんとしての感想だよ」

 せっかくだ、お客さんとして楽しんでいるのなら、お客さんとしての感想を聞いてみよう。

 ルリーちゃんたちはもういないし、聞ける人がダルマスくらいしかいない。
 それに、同じクラスだからこそ、働いている側とお客さん側とで感じるものも違うはずだ。

「……いきなりそう言われてもな」

「なんだよー、なんかあるでしょーよー」

「……雰囲気は、いいな。みんな明るくて見ているこっちもこう、気分がよくなる」

 お、意外とちゃんとした意見だ。
 やっぱりお店の雰囲気って大事だもんねー。『ペチュニア』でだって、タリアさんがハキハキしてるからこっちもなんか、暗い気持ちなんて吹っ飛んじゃうし。

 ふふん、わりと参考にしていたりするのだ。

「お客さんの立場でちゃんと見てってよね」

「……なら、軽くなにか注文しようか」

 ダルマスはコーヒーを飲んでいるだけだったけど、なにか注文しようとメニューを開く。
 どうせならなに食べて、それも評価しようってことだ。

 悩むダルマス。一応、クラスメイトとして商品を出す前に事前に味見はしたけど……やっぱり、味見とちゃんと食べるのとじゃ、違うもんね。

 ……ふむ。今のダルマスはお客様、か……
 あ、そうだ。

「……じゃあ、このデザートを貰おうか」

「かしこまりました、ご主人様」

「…………」

 さっきは、ヨルに対しては慎ましやかにすることはなかったけど。
 ダルマスなら、ヨルとは違ってそれなりの対応をしてもいい。会った頃ならまだしも、今ならね。

 なので私は、にこりと笑顔を浮かべてから、スカートの端をちょんと持ち、ぺこりと軽くお辞儀をしてからこの言葉を告げた。

「……?」

 だけど、ダルマスからの反応はない。もしかして滑ったか?
 それとも、私変な顔しちゃってる? 自分の顔が見られないから、ブサイクな笑顔になっちゃってるとか?

 ダルマスのことだから、皮肉めいた言葉でも飛んでくるかと思ったのに。なにもないと、それはそれで不安だ。

「あの……ご主人様?」

 不安になった私は、ダルマスに呼びかける。
 じっと固まってしまっているダルマス。その目は私を見ているような、どこか遠くを見ているような。

 まだ反応がないので、ダルマスの目の前で手をふりふりと振ってみた。
 すると、「はっ」とダルマスの声が聞こえた。まるで、今気づきましたというような反応。

「え、あ、あぁ……すまん、ちょっと意識が飛んでいた……」

 キョロキョロしてから私を見るその様子は、まさしく今気づきました、と言っているようだ。

 それにしても……いや、意識が飛んでたって。なんだよそれ、怖いよ。

「もしかしてお疲れですか? ご主人様」

「い、いや……も、問題、ない……」

「そうですか、よかったです。ご主人様に元気になってもらいたいのですが、どうしたらご主人様は元気になってくれますか?」

「……とりあえず、その……ご主人様、呼びを、やめてくれ……」

 なんとダルマスは、私に呼び方を変えろと訂正してきた。
 むぅ、このめいどである以上、相手はご主人様もしくはお嬢様だから、そう呼ばないといけないのに。まあ、呼んでない相手もいたけど。

 それとも、私のご主人様呼びは気持ち悪かったのだろうか。

「わかりましたー。じゃあ、注文を伝えてきますねー」

「……なあ、それはお前が作るのか?」

 去ろうとすると、ダルマスが聞いてきた。
 ふむ、普通の料理なら私が作るけど……

「え? いや……デザートは私担当じゃないけど……」

「……作れないのか?」

「む。担当じゃないだけで作れますよ、失礼な」

「なら……お前が作ってくれ」

 はて、私に作れ……と?
 さては、私のことデザートも作れないのがさつな女だと思ってるな?

 いーいだろう、作ってやろうじゃないの!
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