上 下
757 / 781
第十章 魔導学園学園祭編

745話 大変だね

しおりを挟む


「はじめまして、エラン・フィールドちゃん。私は、ルアシア・トルコヤード。
 今彼が言ったように、風紀委員の委員長をやっているわ」

 ゴルさんの隣にいた、女の人。ルアシア・トルコヤードさん。
 風紀委員っていうと、文字通り風紀を取り締まる委員会だろう。

 そういえば、学園内で朝とか、ちょくちょく見回っている人たちがいるな。確か、この人と同じように腕に腕章をつけていたような。
 校門あたりにいるときも見るけど、寮暮らしの学園じゃ休日以外校門を通ることはほとんどないからなぁ。

 こういうお祭りときだからこそ、風紀が乱れないかを確認しているわけだ。

「どうもー、なんか名前知ってくれてるみたいで、嬉しいです」

「この学園に通っていて、キミの名前を知らない人はいないでしょう。学年問わず……ね」

 ……有名人になると、自己紹介の手間が省けるなぁ。自分で言うのもなんだけどさ。
 それがいいことなのか悪いことなのかは、わからないけど。

 ともかく、いい人そうだ。笑顔で手を差し出してきたので、握手に応じる。
 うわ、柔らかい手ぇ。

「それで、お前は……確か、この時間はクラスの手伝いと言っていなかったか?」

「まあ、いろいろありまして」

 あははと、笑ってごまかす。話すと長くなっちゃうからね。
 それにしても、いつもゴルさんの隣にいるのと言えば、リリアーナ先輩たち生徒会メンバーって感じだったから……

 他の人が並んでいると、不思議な気分だなぁ。

「えっと、エランちゃん、って呼んでいいかしら」

 ふと、風紀委員長さんが、聞いてくる。

「うん、もちろん」

「なら私のことも、気軽にルアシアって呼んで」

 学年の違う相手とは、あんまり関わることはなかったけど……こういう場所だからこそ、場所も気にせずに会うことが出来るし、仲良くなれる。
 出し物を楽しむのもいいけど、こうして誰かと仲を深めるのもいいもんだよね。

 とはいえ、二人ともお仕事中だけどあんまり邪魔するのもよくないよね。

 ……あ、そうだ。

「ねえゴルさん、タメリア先輩どこにいるか知らない?」

「タメリア?」

 同じ生徒会のメンバーなら、タメリア先輩が今どこにいるのか知っているかもしれない。
 いや、私も生徒会のメンバーではあるんだけどさ。

 ほら、ゴルさん生徒会長だし。同じ三年生同士だし。

「なにか、用事でもあるのか」

「ちょっと、伝言がね」

 タメリア先輩には、アルミルおじいちゃんからの伝言を伝えないと。
 休憩の前、午後の番までには戻る、と本人が言っていたけど……私からも改めて、伝えておかないとね。

「今どこにいるかはわからないが……なんなら、呼び出そうか」

 ゴルさんは、懐から端末を取り出す。
 学園から支給されているものだ。これがあれば連絡を取り合ったりできる、なんとも便利なものだ。

 私はタメリア先輩の連絡先を知らないけど、ゴルさんなら知っているわけだ。

「伝言と言っていたな。連絡して伝えるのが手っ取り早いと思うが」

「それもそっか。なら、お願いしようかな」

 タメリア先輩に用事はあるけど、それは直接会う必要はない。
 連絡がついて、知らせることができるならそれが一番手っ取り早いもんね。

 タメリア先輩に連絡を取ろうとしているゴルさんに、伝える。

「アルミルおじいちゃんからの伝言で、午後の講演までには戻るってさ」

「あぁ、了解し…………アルミル……」

「おじいちゃん……?」

 ピタリと、二人の動きが止まった。どうしたのだろう。
 そして二人は同時に、私の顔を見て……信じられないものを見るような目を向けてきた。

「お、おい、一応確認するが……アルミル……お、おじいちゃんというのは……」

「魔導のエキスパートの、あの人のことだよ」

「……」

 言葉を失う、とはこのことなんだろうな。あのゴルさんが、ただ呆然と立ち尽くしている。
 隣のルアシアさんも、同じくだ。

 どうしたのか……聞こうと口を開いたところで……

「お前……正気か」

 まるで信じられないものを目の当たりにしたかのように、ゴルさんが言った。

「お前、あの人がどれほどっ、偉大な人間か……わ、わかっているのか!?」

「わかってるよー。ていうか、ゴルさんは私とおじいちゃんたちに会ったの知ってるでしょ? その場にいたんだし」

「いたし知ってるが、まさかそんな馴れ馴れしい言い方をしているなんて……おい待て、まさかそれ本人の前でも……」

「許可はもらったし。ゴルさんだって、おじいちゃんには偉そうにしてたじゃない」

「仮にも俺は第一王子だ、立場というものがある! あまりこういう言い方はしたくないが、俺とお前では立場が違うだろ!」

 すごいや、こんなに必死なゴルさん初めて見たかも。
 それだけ、あのおじいちゃんがすごい人なんだって再認識するけど。

 やっぱり、私馴れ馴れしすぎるのかなぁ。でも、本人がいいよって言ってたんだし、構わないよね。

「とりあえずそういうことだから、タメリア先輩に伝言よろしく」

「とりあえずで済ませていい問題じゃないんだが……はぁ」

 なんでかゴルさんは、とても疲れた表情をしていた。
 見回りが忙しい……ってだけの理由じゃないんだろうな。

 ……そういえば、ゴルさんのクラスって出し物なにやってるんだろう。一年生の出し物は触りだけ見たけど、他の学年のは全然知らない。
 今日はもう終わりが近づいてるから、明日にでも他の学年に行ってみようかな。

「ゴルドーラくん……キミも、大変だね」

 そしてなぜか、ルアシアさんがゴルさんに同情したような視線を向けていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

愛人がいらっしゃるようですし、私は故郷へ帰ります。

hana
恋愛
結婚三年目。 庭の木の下では、旦那と愛人が逢瀬を繰り広げていた。 私は二階の窓からそれを眺め、愛が冷めていくのを感じていた……

処理中です...