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第十章 魔導学園学園祭編

744話 見回りしてます

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 ついナタリアちゃんのおじいちゃんだと言っちゃった。
 アルミルおじいちゃんがナタリアちゃんのおじいちゃんだってことは間違いないけど、今は変装している。そして、変装しているのは女性にだった。

 私としたことが、うっかりしていたぜ。

「いや、ほら……男か女か、わかりにくい人っているじゃん? だからほら、間違えちゃって」

「初対面の相手ならともかく、一緒にここまで来た相手の性別を間違えることはないと思うっすけど……」

 うっ、そんな曇りなき眼で私を見ないで。あと正論ぶつけるのやめて。
 だけど、エコちゃんはニコッと微笑んで。

「でも、エラン様がそう言うならそうなんっすね!」

 なんて言い放った。

「えぇ……」

「? どうしたんすか?」

「いや、なんでも……」

 私がそう言ったからそうなんだって、納得しちゃったよ。
 まあ、下手にツッコまれなくてよかったけどさ。

 私の言ったことならなんでも全肯定しそうだなぁこの子。

「ど、どうしたんすかエラン様。そんな熱い視線を向けられたら自分は、自分は……!
 そ、そういうのはまだ早いと言いますか、自分なんかがおこがましいって言いますか。でも、エラン様が望むなら、自分なんでもするっす。ぬ、脱げって言うなら、この場で……」

「いきなりなにをどこまで言ってんの!? ちょっと見てただけじゃん! どこからツッコめばいいかわからないんだけど!」

「つ、突っ込むだなんて……きゃっ」

「うがぁー!」

 だめだ、この子と二人で話してたらなんか変なペースに持っていかれる!
 悪い子じゃないん、だけど……ぅんん……他に誰かいるならともかく、二人で話すのは危険だ。

 用事も済んだし、これでおいとましよう。アルミルおじいちゃんがどれくらい中にいるかわからないし、私にタメリア先輩への伝言を頼んだってことは、待ってなくていいよってことだろうし。

「じゃ、じゃあ私はこれで」

「えぇ、もう行っちゃうんすか。……でも、仕方ないっすね。自分が止められる立場にないことは重々わかってるっす……でも、また戻ってきてくれたら、嬉しいっす。自分、ずっと待ってるっすので」

「都合のいい彼女か!」

 そんなこんなで、私はこの場をあとにする。
 振り向いたら、エコちゃんはぶんぶんと手を振っていた。試しに私から振り返したら、こっからでも見えるくらいに目をハートにして倒れていた。

 ……大丈夫かなぁ。

「まあいいか。
 ……うーん、どうしよっかな」

 時間を確認する。結構おじいちゃんと話していたみたいだけど、本当ならこの時間はクラスの手伝いをしているはずだった。
 それをクレアちゃんが気を遣ってくれたおかげで、今この場にいるわけだけど。

 おじいちゃんと別れて暇になったし、クラスの手伝いに行こうかな。クレアちゃんがみんなに言ってくれたのは、あくまでアルミルおじいちゃんと話すため、って理由があったからだし。

 それとも、このままみんなには内緒で自由時間を謳歌しちゃう?
 うーん、どうしたもんかなぁ。

「……ここでなにをしているんだ、エラン」

「んぉ?」

 うんうんと考えていると、私を呼ぶ声。
 振り向くと、そこには声の主……ゴルさんがいた。

 隣には、リリアーナ先輩……は、おらず。代わりに、別の女の人がいた。
 この人も、きれいな人だ。地味と言えば地味だけど、その中に光るものがあるというか。

 それに、スタイルもいい。

「……ゴルさん、私は内緒にしておくから。ね?」

「ね? じゃない。なにを考えているんだお前は」

 だって……リリアーナ先輩とじゃなく他の人と学園祭を回ってるなんて、ねぇ?
 これはあれですよ。とてもよろしくないことだと思いますのことよ。

「ゴルさんはそういうことしない人だと思ってたんだけどなぁ」

「おい待て、一人で勝手に話を進めるな」

「しかも学園祭なんていう、人の多いところで……」

「だから話を聞け!」

 とりあえず、話を聞くことに。まあ話と言っても、たいしたことではなかった。
 要は、この女の人は風紀委員会に属する委員長さんで、生徒会長のゴルさんと相談することがあったので話がてら見回りを……というわけだった。

「なぁんだ、なら早く言ってよー」

「お前が勝手に盛り上がったんだろ。あと、彼女の腕章をちゃんと見ろ」

 ゴルさんが指す先には、彼女の腕。腕に巻かれた腕章には、確かに風紀委員と書いてある。
 私としたことが、見逃しちゃったぜ。

 そんな私を見てか、「ふふっ」と笑う声があった。

「聞いていた通り……いやそれ以上に、面白い子みたいね」

 クスクスと笑う風紀委員長さんは、私のことを面白い子と言った。
 やっぱり、私の噂って面白い奴っていう認識が多いんだろうか。

 ゴルさんはゴルさんで、呆れたようにため息を漏らしている。

「勘違いしてごめんよー。なんかスキャンダルだと思ったんだよー」

「なにを言っているんだお前は」

 まあ、考えてみればゴルさんみたいな一途な人が、他の女の人となんて考えられないよな。
 さっき真反対のことを言っていたって? はははなんのことやら。

 ともかく、一大事じゃなくてよかった。リリアーナ先輩にバレたら……
 ……あの人なら、バレた時点でとんでもないことになりそう。相手もゴルさんも。

「でも、こんなときもお仕事なんだね……って、私も一応そうか」

 私は明日は、生徒会のお仕事で見回りだ。
 もちろん、お仕事だからってカッチカチになる必要はない。今ゴルさんや風紀委員長さんが付けている腕章を付けて歩き回るだけだ。

 普通に出し物を楽しんでいいとも言われたし。それでも、トラブルが起きないか事細かに見張る必要がある。

「あぁ、風紀委員の仕事は、風紀を取り締まること。こういった祭り事にハメを外す者は多いからね。
 もっとも、キミのことは普段から注目しているけど。風紀を乱す問題児として」

「!?」

「あっははは、冗談よ冗談」

 冗談……と笑う風紀委員長さんだけど。
 なぜだろう。全然冗談に聞こえないのは。
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