756 / 781
第十章 魔導学園学園祭編
744話 見回りしてます
しおりを挟むついナタリアちゃんのおじいちゃんだと言っちゃった。
アルミルおじいちゃんがナタリアちゃんのおじいちゃんだってことは間違いないけど、今は変装している。そして、変装しているのは女性にだった。
私としたことが、うっかりしていたぜ。
「いや、ほら……男か女か、わかりにくい人っているじゃん? だからほら、間違えちゃって」
「初対面の相手ならともかく、一緒にここまで来た相手の性別を間違えることはないと思うっすけど……」
うっ、そんな曇りなき眼で私を見ないで。あと正論ぶつけるのやめて。
だけど、エコちゃんはニコッと微笑んで。
「でも、エラン様がそう言うならそうなんっすね!」
なんて言い放った。
「えぇ……」
「? どうしたんすか?」
「いや、なんでも……」
私がそう言ったからそうなんだって、納得しちゃったよ。
まあ、下手にツッコまれなくてよかったけどさ。
私の言ったことならなんでも全肯定しそうだなぁこの子。
「ど、どうしたんすかエラン様。そんな熱い視線を向けられたら自分は、自分は……!
そ、そういうのはまだ早いと言いますか、自分なんかがおこがましいって言いますか。でも、エラン様が望むなら、自分なんでもするっす。ぬ、脱げって言うなら、この場で……」
「いきなりなにをどこまで言ってんの!? ちょっと見てただけじゃん! どこからツッコめばいいかわからないんだけど!」
「つ、突っ込むだなんて……きゃっ」
「うがぁー!」
だめだ、この子と二人で話してたらなんか変なペースに持っていかれる!
悪い子じゃないん、だけど……ぅんん……他に誰かいるならともかく、二人で話すのは危険だ。
用事も済んだし、これでおいとましよう。アルミルおじいちゃんがどれくらい中にいるかわからないし、私にタメリア先輩への伝言を頼んだってことは、待ってなくていいよってことだろうし。
「じゃ、じゃあ私はこれで」
「えぇ、もう行っちゃうんすか。……でも、仕方ないっすね。自分が止められる立場にないことは重々わかってるっす……でも、また戻ってきてくれたら、嬉しいっす。自分、ずっと待ってるっすので」
「都合のいい彼女か!」
そんなこんなで、私はこの場をあとにする。
振り向いたら、エコちゃんはぶんぶんと手を振っていた。試しに私から振り返したら、こっからでも見えるくらいに目をハートにして倒れていた。
……大丈夫かなぁ。
「まあいいか。
……うーん、どうしよっかな」
時間を確認する。結構おじいちゃんと話していたみたいだけど、本当ならこの時間はクラスの手伝いをしているはずだった。
それをクレアちゃんが気を遣ってくれたおかげで、今この場にいるわけだけど。
おじいちゃんと別れて暇になったし、クラスの手伝いに行こうかな。クレアちゃんがみんなに言ってくれたのは、あくまでアルミルおじいちゃんと話すため、って理由があったからだし。
それとも、このままみんなには内緒で自由時間を謳歌しちゃう?
うーん、どうしたもんかなぁ。
「……ここでなにをしているんだ、エラン」
「んぉ?」
うんうんと考えていると、私を呼ぶ声。
振り向くと、そこには声の主……ゴルさんがいた。
隣には、リリアーナ先輩……は、おらず。代わりに、別の女の人がいた。
この人も、きれいな人だ。地味と言えば地味だけど、その中に光るものがあるというか。
それに、スタイルもいい。
「……ゴルさん、私は内緒にしておくから。ね?」
「ね? じゃない。なにを考えているんだお前は」
だって……リリアーナ先輩とじゃなく他の人と学園祭を回ってるなんて、ねぇ?
これはあれですよ。とてもよろしくないことだと思いますのことよ。
「ゴルさんはそういうことしない人だと思ってたんだけどなぁ」
「おい待て、一人で勝手に話を進めるな」
「しかも学園祭なんていう、人の多いところで……」
「だから話を聞け!」
とりあえず、話を聞くことに。まあ話と言っても、たいしたことではなかった。
要は、この女の人は風紀委員会に属する委員長さんで、生徒会長のゴルさんと相談することがあったので話がてら見回りを……というわけだった。
「なぁんだ、なら早く言ってよー」
「お前が勝手に盛り上がったんだろ。あと、彼女の腕章をちゃんと見ろ」
ゴルさんが指す先には、彼女の腕。腕に巻かれた腕章には、確かに風紀委員と書いてある。
私としたことが、見逃しちゃったぜ。
そんな私を見てか、「ふふっ」と笑う声があった。
「聞いていた通り……いやそれ以上に、面白い子みたいね」
クスクスと笑う風紀委員長さんは、私のことを面白い子と言った。
やっぱり、私の噂って面白い奴っていう認識が多いんだろうか。
ゴルさんはゴルさんで、呆れたようにため息を漏らしている。
「勘違いしてごめんよー。なんかスキャンダルだと思ったんだよー」
「なにを言っているんだお前は」
まあ、考えてみればゴルさんみたいな一途な人が、他の女の人となんて考えられないよな。
さっき真反対のことを言っていたって? はははなんのことやら。
ともかく、一大事じゃなくてよかった。リリアーナ先輩にバレたら……
……あの人なら、バレた時点でとんでもないことになりそう。相手もゴルさんも。
「でも、こんなときもお仕事なんだね……って、私も一応そうか」
私は明日は、生徒会のお仕事で見回りだ。
もちろん、お仕事だからってカッチカチになる必要はない。今ゴルさんや風紀委員長さんが付けている腕章を付けて歩き回るだけだ。
普通に出し物を楽しんでいいとも言われたし。それでも、トラブルが起きないか事細かに見張る必要がある。
「あぁ、風紀委員の仕事は、風紀を取り締まること。こういった祭り事にハメを外す者は多いからね。
もっとも、キミのことは普段から注目しているけど。風紀を乱す問題児として」
「!?」
「あっははは、冗談よ冗談」
冗談……と笑う風紀委員長さんだけど。
なぜだろう。全然冗談に聞こえないのは。
10
お気に入りに追加
169
あなたにおすすめの小説
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる