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第十章 魔導学園学園祭編

733話 あなたに憧れてるんす!

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 さて、「オウガ」クラスの異空迷路も、なんとか制限時間内にゴールすることができた。
 制限時間は三十分の中で、残っていたのは時間にして僅か三分。

 いやあ、ぎりぎりだったよね。

「さ、おかえりはあっちの扉だよ」

 ナタリアちゃんが指をさす方向には、扉がある。
 こんな開けた空間だというのに、そこにぽつんと扉だけがあるのだ。

「へぇ」

 私は、やっぱりジルさんのときを思い出していた。
 あの人の異空間も、こうやってそこにぽつんと扉だけがあったんだっけ。

 結界を通して別空間へ移動し、そして異空間内では扉を渡って移動することが出来る。
 エルフのウーラスト先生が師匠と敬っている人と同じことが出来るなんて……ナタリアちゃんめ、とんでもない力を持ってたもんだ。

「そういえば、商品はなにがもらえるの?」

 異空迷路を制限時間内にクリアしたら、素敵な商品がもらえるって話だ。
 私は別にぃ、商品なんて興味ないんだけどぉ。もらえるものはぁ、もらっておこうかなぁって。

「それは、教室から出たら受け渡すことになってるよ」

「その扉を潜れば、入ってきたのとは逆側から出られるからー」

 ナタリアちゃん、そしてコロニアちゃんの説明が続く。
 私たちは、教室の外と中との境を通って異空間に入ってきた。そして、この扉を潜れば、入ってきたのとは逆方向の出口から出られるようだ。

 そこで、商品を貰う……と。そういうわけか。

「わかったよ。二人とも、本当に楽しかったよ!」

 さっきまでのクラスでも楽しかったけど、このクラスはまた格別だ。参加型の出し物……実にいい。
 これまで、誰かと遊んだことはあってもこういうアトラクションに参加したことは、なかったもんなぁ。

「そう言ってもらえてなによりだよ。こちらとしても、結構準備は大変だったんだけど……」

「うん、喜んでもらえて良かった」

 やった、とナタリアちゃんとコロニアちゃんとがお互いに手を合わせる。
 二人とも、仲が良いな。コロニアちゃんは王族で、他のみんなからどう思われているのか心配でもあったけど……

 少なくともナタリアちゃんは、そういうのは気にしない人だもんね。

「じゃあ、そろそろ行きましょ。他にもクリアした人が来るかもしれないし」

「そうだね。じゃ、またあとでねー」

 私たちは手を振って、扉を潜る。
 一歩扉を潜ると、そこは……見覚えのある廊下。振り向くと、なんの飾りつけもされてない教室だ。

 不思議だな。外から見ると、ただの教室なのに……一歩足を踏み入れれば、そこには異空間が広がっているんだから。

「お疲れ様ー。クリアした二人っすねー」

 と、そこへ明るい声が届く。
 それは、出口に座っていた女子生徒のもの。にこにこと笑顔を浮かべている。

「いやあ、クリアしたのが二人だと聞いて驚いてたっすけど、名前を聞いたら納得したっす」

 その子は、私たちを……いや、私を見ていた。
 そして、おもむろに立ち上がると……私の手を取った。

「自分、あなたに憧れてるんす! エラン・フィールドさん!」

「えぇ……」

 いきなり……なんなんだ、この子は。
 なんか、私を見る目がキラキラしている。

 今まで、私を見る目は好奇心とか、畏れや恐怖なんてものもあった。
 だけど……これは、好奇心に変わりはないけどもっとすごい。そう、信仰心を感じるものだ。

 ……クレアちゃんのルームメイト、サリアちゃんが師匠に対して、こんな目をしていたな。グレイシア神なんて言ってて。
 あの落ち着いた雰囲気の子が、師匠の話になると目の色を変えるんだ。それを似たようなにおいを感じる……

 あれ、そういえばサリアちゃんもこのクラスじゃなかったっけ。大丈夫かよ。

「自分、エコ・コンコンって言いますっす! ぜひ覚えてもらいたいっす!」

「あぁ、うん、よろしく」

「はぁ、生エラン・フィールドっす、感激っす……って、自分ったら許可も取らずに勝手にお手を取ってしまったっす!
 も、申し訳ないっす……今すぐ、この手を切断してお詫びするっす……」

「ちょっと待ってよ!」

 なんなんだよこの子、ちょっと怖いよ!
 私を前にして感極まって手を取ったのは分からないでもないけど、だから自分の手を切断するってどういうことだよ!

 そういうのって、そんな軽々決断していいことじゃないから!

「い、いいよ手くらい……別に、怒ってないし」

「ほ、ホントっすか! あぁ、なんて懐の大きなお人っすか……胸が大きくない分、心というか器がめちゃくちゃでかいっす」

「今胸の話必要あった?」

 あれ? この子私のこと好きなんだよね? 喧嘩売ってる?

「はぁはぁ……や、やばいっす……こうして目の前にいるだけで、自分は、自分は……」

「ねえエランちゃん、この子エランちゃんのファン的な感じなんでしょ? なら、なんかサービスしてあげたら?」

 ついには涙を流し出すエコちゃんを見て、クレアちゃんが言う。面白そうに。
 他人事だと思って……!

「そりゃ、握手とかなら全然構わないけど……」

「ま、マジっすか! はぁ、はぁ……じゃ、じゃあ、その美しい黒髪……その一本を、ちょうだいすることも可能っすか? か、家宝にするんで……じゅるり」

「ちょっとぉ! 誰か助けてくださぁい!」

 人に好かれるのは、全然ウェルカムだけど……なんか、これはなんか違うじゃん!
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