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第十章 魔導学園学園祭編

718話 まさかの招待状

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 なんだか、これまでに会ったことがない感じの人だな……婚約者さん。
 コーロランの婚約者。コロニアちゃんの話を聞くに、もう少し性格に難ありな人なんだと思っていたけど。

 ……いや、ある意味良い性格はしている気がするけど。

「こちら、お待たせしました」

「あら、ありがとうございます」

 コト、と机に食器が置かれる。それは、先ほど婚約者さんが注文したものがやって来たのだ。
 視線を移すと、食器に盛られたのは大盛りのパフェだ。

 やっぱり、女の人をターゲットにしているだけあって、オススメもパフェ関連になるのか。
 いっぱいのフルーツが盛りに盛られたクリームは、見るからにおいしそうだ。

「まぁー」

 それを見て、婚約者さんは目を輝かせている。
 さっきまでの不敵な笑みはどこへやら……パフェを見つめる目は、まさしく女の子といった様子だ。

 私も、おいしそうだとは思うけど……さすがに、さっきミニとはいえパフェを食べたばかりなので、今また大盛りのパフェを見るっていうのは……
 クレアちゃんも、青ざめてしまっている。

「ふふ、とってもおいしそう。ですが、一人で食べきれるかしら……お二人も、よければどうですか?」

「え? いやあ、私は……」

「お二人って……わ、私!? いいい、いえ結構です!」

 まさかのおすそ分け……オススメを選んだんだから、まさかこの量が出てくるとは思わなかったんだろう。
 私たちも、さっきパフェ食べてなければなぁ。いくらお腹に溜まらないとはいえ、さすがに直後にあの量は。

 私たちの答えに、「そうですか」とだけ言って婚約者さんはスプーンを手に、パフェを食べ始めた。

「まあ、おいしい。いつもはこのような甘いもの食べられないから、新鮮ですね」

「そ、そうなんだ」

 本当に嬉しそうに、食べている。お世辞とかではないんだろうな。

 ……それにしても、周囲の視線をちらほらと感じる。
 これは、私だけに向けられたもの……ってわけでは、なさそうだ。

「ええと……じゃあ私たち、そろそろ……」

「ねえ、エラン・フィールドさん?」

 なんとなく気まずさを感じ、相席を許可したとはいえこれ以上ここにいる理由もない……なので席を立とうと思ったところに、声がかけられた。
 パフェを食べながらも、婚約者さんの視線は私に向いていた。

「な、なんでしょう?」

「私、もっとあなたとお話したいわ」

 そう言って笑う婚約者さんの表情は、どこか妖艶だった。
 同じ女だけど、ちょっとドキッとしちゃうよ。

「ええと……」

「別に、今無理にとはいいませんわ」

 さて、どうしようか……私自身は、別に話すことは構わない。でも、クレアちゃんがいる。
 今日はクレアちゃんと遊ぶ約束をしていたんだ。しかも、それぞれ午後からは仕事がある。だから時間もそんなにあるわけじゃない。

 ここでクレアちゃんを放っておくわけにはいかないし、かといいって同席してもらうのもクレアちゃんの胃が心配だ。
 そんなことを考えていると、婚約者さんは懐からなにかを取り出した。

「紙?」

「今日はお友達との先約があるのでしょう? それを邪魔するつもりはありません。
 時間があれば、あなたから出向いてください。これは、わが家への招待状です」

 差し出されたのは、招待状だという。それも、家の。
 家の招待状なんて、なんかすごいな。豪邸なのだろうか。

 私はそれを、受け取る。

「私の方からあなたを伺うのが礼儀だとは思いますが、それだと今回のようにあなたの時間を奪ってしまいかねないので」

 これならば、私の都合で時間が取れる……と、そういうことか。
 そういうことなら、おとなしく貰っておこうかな。ポケットにしまっておこう。

 ……なんかクレアちゃんが、ハラハラした様子でこちらを見ている。

「それじゃあ、ありがとう。時間が出来たら行かせてもらうよ」

「えぇ。お待ちしています。
 ……あなたも、私に聞きたいことがありそうですし」

「……」

 聞きたいこと……か。まあ、コーロランの関係とかも、聞いてみたい。
 他の人がどう見ているかも大事だけど、やっぱり本人から聞くのが一番だと思うし。

 私は、婚約者さんにペコリと頭を下げてから、会計に向かう。
 一連の作業を終えて、教室を出た。

「ふぅ。いやあ、びっくりしたね。まさかコーロランの婚約者さんと会うなんて……」

「びっくりした、じゃないわよ! え、え、エランちゃん、招待状なんて貰っちゃって!」

 少しばかり緊張したなとため息を漏らしていると、クレアちゃんが慌てた様子で詰め寄ってきた。
 さっき貰った招待状についてだ。

「えっと……そんなに、驚くこと?」

「そ、そりゃそうよ! パルシュタン家なんて、何日何カ月前からの予約があってやっと訪問できるのよ! その招待状は、それらの予約をすっ飛ばして家に入ることが出来るものなのよ!」

 すごい興奮しているクレアちゃん。肩を揺らさないでー、世界が揺れるー。

 こ、この招待状そんなにすごいものなのか。というか、婚約者さんの家がすごいところなのか。
 そんなすごいものを渡すなんて……私って、もしかしてとんでもなく目をつけられてる?

「ど、どうしようクレアちゃん、そんなすごいものだとは……
 今から、返してこよっか?」

「ばっか! エランちゃんばっか! 返すなんて、そんなことをしたら失礼に当たるでしょうが! ばっか!」

 めちゃくちゃ怒られた……しょぼんぬ。

 まさか、誰かの家に行くのがこんなに緊迫した感じになるなんて。
 というか、誰かの家なんてクレアちゃんの実家以外行ったことがないんじゃないか私。だって学園の友達はみんな寮に住んでるし……行くとしたら寮の部屋だし。

 ゴルさんたちの実家はいわばお城だけど、まあそれは除外で。

「うーん……まあ、光栄だって思っとこう。どうするかは後で考えようよ」

「私はたまにエランちゃんの能天気さがおそろしい」

 能天気て……もう取り繕うこともしないなこの子。別にいいけど。

 うん、招待状のことはまた後々考えるとして。次だ次。
 今ノマちゃんに会ってきたから……次は、ルリーちゃんかナタリアちゃん。どっちから先に行こうかなー。
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