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第九章 対立編
646話 クロガネはすごいんですの!
しおりを挟むこうして、落ち着いた状態で学園の先輩と話をする機会はなかったような気がする。
先輩といえば、私には聞きたいことがあるのだ。
「先輩は、使い魔は召喚できるんですよね?」
「あぁ」
魔導学園では、一年生の後半に使い魔召喚の授業がある。
時期として魔導大会の後、ということはわかっているけど、それも今の状況じゃいつになるか。
二年生のレーレさんなら、すでに使い魔召喚の授業を済ませているはずだ。
「使い魔召喚の授業って、どんな感じなんです?」
「どんな、か……別に、たいしたものではないぞ? 使い魔召喚に関する知識や魔導を何日かに分けて学び、最終的に一人一人が、授業の中で召喚するんだ」
「ほほう」
一人一人が授業の中で召喚する……ってことは、クラスのみんなの前で召喚するってことか。
それは、なんか楽しそうだなぁ。
師匠が言うには、決まった手順を踏めば魔力量が少なくても使い魔は召喚できるらしい。まあ、ある程度の魔力量は必要だけど。
そのための、学園授業だろう。授業の中で、自分の魔力を引き上げていく。
召喚できる使い魔は、術者の魔力量によってある程度決まる。より強力な使い魔を召喚したければ、魔力量を多く。
だからみんな、強力な使い魔を召喚するために魔導を学ぶ。
「エランちゃんも、学園が再開すればこの時期だし、そう遠くないうちに使い魔召喚の授業は行われると思うぞ」
「あぁ、私実はもう使い魔がいるんですよ」
「!?」
使い魔召喚のことを聞いておいて、実は私にはもう使い魔がいます、って……レーレさんからしたら意味のわからない話だろう。
現にそういう顔をしている。
でも、使い魔がすでにいることと使い魔召喚のことを知りたいのは、別に矛盾していないよね!
「すでに使い魔がいる……エランちゃんのクラスは、もう使い魔召喚の授業をしたのかい?」
「ううん。召喚したわけじゃなくて、契約したの」
「け……」
使い魔を、召喚したのではなく契約している。
最終的な意味としては同じかもしれないけど、そこに至るまでの過程が違う。
召喚魔術で使い魔となるモンスターを召喚し、使い魔としての契約を結ぶパターン。
すでにそこにいるモンスターに、使い魔になってもらうために契約を結ぶパターン。
私のは、後者だ。
「……キミはいろいろと規格外だと聞いていたが、本当に規格外なんだな。その段階で使い魔と契約しているなんて、なかなか聞かないぞ」
規格外、規格外ってなんだ。私は上の学園にもどういう話で伝わっているんだ。
別に特別なことはしていないけどなぁ。魔獣倒したり生徒会長と決闘したり生徒会に入ったり他にもいろいろしてきたけど。
……まあ、普通とは言い難いけども。
「そうなんですか……って、まだ使い魔召喚の授業も習ってないんだから当然か」
まだ使い魔召喚の授業をしていないのだから、現段階で使い魔がいるのはわりと予想外なのだろうな。
「キミが契約したくらいだ。それはよほどのモンスターなのだろうな」
「はい! クロガネはすごいんですの!」
「クロガネ? ですの?」
あ、思わず興奮してノマちゃんみたいになっちゃった。
でも、クロガネのことを褒められるのは嬉しいんだもん!
「クロガネ……そういえばさっき、そのような名を出していたな。なるほど、使い魔の名前か」
使い魔契約の手順はいろいろあるけど、最終的には使い魔となるモンスターに名前を付けることで、契約は完了する。
ゴルさんなら、サラマンドラのドラ……みたいなね。
「いい名前だね。なんというか、愛を感じる」
「ホントですか!」
愛を感じる、だって! そんなこと言われたの初めてだ!
いやぁ、照れちゃうなぁ。
「それで、そのクロガネはどんなモンスターなんだい?」
「あー、クロガネはドラゴンなんですよ。ドラゴンってモンスターって区分でいいんですかね?」
「へー、ドラゴ…………ン?」
これはずっと考えていることだけど、ドラゴンはモンスターって扱いでいいんだろうか。
いや、魔物や魔獣じゃないんだから、モンスターであることには間違いないんだけど。
でも、この世界にはいろんなモンスターがいる。その中でも、ドラゴンは別格な気がする。
クロガネは、別にどうでもいいと言っているけど。
「って、どうしましたレーレさん。ボーっとして」
「……あ、あぁ。少し……いや、かなり衝撃的な言葉が返ってきたものだから」
頭が混乱して……と、レーレさんは頭を抱えていた。
やっぱり、ドラゴンという存在がインパクト大きすぎたのかな。
エルフ族と同じで、その存在は知ってても見たことのある人は少ない……ということだな。
「キミのことだから、ウソではないんだろうが」
「なら、直接見てみますか。
……って、ここじゃあな」
さすがに、こんな狭い部屋の中でクロガネを召喚するわけにもいかない。
今から外に出て召喚するのも、みんなを驚かせちゃうし。
……え? 前にも同じようなことをしただろうって? それはまあ、それとしてね。
「クロガネ、小さくなれたりしない?」
『無茶を言うな』
こうなったら、クロガネに小型化してもらって召喚を……とも考えたけど。
クロガネから返ってきたのは、呆れにも似た言葉だった。
そっかぁ、無茶かぁ。
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