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第九章 対立編
630話 世間って狭いですね
しおりを挟むサテラン先生が、ジルさんの孫だというちょっと衝撃な事実が明らかになった。
言われてみれば似ている気もするし、まったく似ていない気もする。
ウーラスト先生が、妙にサテラン先生になれなれしかったのは、そのあたりも関係していると言うことだろうか。
「そういえば、あの子が担任を請け負っているクラスに、面白い生徒がいると言うとったが……」
「そうそう、それこの子」
「多分私のことでーす」
面白い生徒、とは私のことだろう。この場にいる、サテラン先生のクラスの生徒は私だけだし。
はいはい、と手を上げて、私は自分をアピールする。
ジルさんは、お髭を触りながら私のことをじっと見ていた。
「おー、ほぉ……なかなか、興味深いのぉ」
「なにが!?」
どうやらジルさん的に、私は興味深いらしい。
それがどういう意味なのか、わからないけど。
「ウーラスト先生は、今でもジルさんとやり取りをしているんですね」
「あぁ。グレイ師匠の居場所はわからないけど、ジル師匠はわかるからね」
ふぅむ……やっぱりウーラスト先生も、師匠が今どこにいるかはわからないのか。
ホントどこ行ったんだろうなぁあの人。元々旅人ではあったけど。
魔大陸からここまで帰ってくる間に、師匠がいるかもって情報はなかったし。
まあ、積極的に捜していたわけではないし、いくら師匠でもエルフが好んで魔大陸にいるとは思えないけど。
「確か、あのグレイシア・フィールドに育てられたと……おー、なるほど、なかなかに精悍な顔つきを……
…………」
「そこ言いよどまなくていいじゃん!?」
間の抜けた顔をしているとでも言いたいのかこの人は!?
「って、ジルさんも師匠のこと知っているの」
「はは、むしろその名を知らぬ者はおらんじゃろう。
そうでなくとも、こいつに散々聞かされておったからな」
「こいつ呼ばわりはひどいなー」
そう言いながら、ジルさんはウーラスト先生を指差していた。
師匠は魔導士としても魔導具技師としても冒険者としても有名だ。だから、名前自体はかなり広く知られている。
そうでなくても、師匠の弟子だって言うウーラスト先生があれこれと喋るわけだ。
私だって、師匠の自慢話ならいっぱいしちゃうだろうから、気持ちはわかる。
「おじいちゃんが凄腕の魔導士か……」
なんだろうな、ちょっと引っかかることがあるような……なんか、似た境遇の子がいたような。
ふと、ナタリアちゃんと目が合った。うーん……
……あ、そうだ! ナタリアちゃんのおじいちゃんも、確か魔導のエキスパートというやつだったっけ。
以前、ノマちゃん魔人問題で一緒になったことがある。
王城にいたおじいちゃんだ。名前がナタリアちゃんと同じだったから、よく覚えてるよ。
「? どうかしたかい?」
かわいらしく首を傾げるナタリアちゃん。
ナタリアちゃんって背が高いし美形だし、男の子らしいところもあるけどこういう仕草は、かわいいよなぁ。
ナタリアちゃんのおじいちゃん、とは言っても血は繋がっていないはずだ。
ナタリアちゃんの家庭の事情はいろいろ複雑だから……と。
そういえば……国民洗脳案件のときに、お城にいた人がみんないなくなってた事態が起こってたよな。
確認せずに今日まで来ちゃったけど、結局あれどうなったんだろう。
「ナタリアちゃん、一つ聞いていい?」
「うん、どうしたんだい?」
「ナタリアちゃんのおじいちゃん……えっと、確か……アルミル・カルメンタールさん、だっけ。その人って、今もお城に住んでるの?」
「あぁ、もちろん。そういえば、エランくんはお祖父様に会ったことがあるんだっけね」
ふむ……どうやら、おじいちゃんはお城にいるままになっているようだ。
国民の洗脳が解けて、いなくなってた人たちもみんなに認識されるようになった……ってことかな。
国民を洗脳する魔導具があるくらいなんだし、お城の人たちを消しちゃうような魔導具があっても不思議じゃないか。
「アルミル! おー、ほほぉ、お前さん奴の孫かい! いやあ驚いた!」
そこで反応するのが、ジルさんだった。
その口ぶり……まるで、ナタリアちゃんのおじいちゃんと知り合いのようだ。
「知ってるの?」
「あぁ、まあ腐れ縁というやつじゃよ。
おー、あやつ確か幼い子を引き取ったなどと言っておったが……いやはやなるほどの」
「その子供が、ボクだよ」
「へー、ジル師匠とキミの祖父が知り合い! 世間って狭いねぇ」
あっちでもこっちでもいろんな人が繋がっていて、なんだか盛り上がっていく。
ジルさんは空間魔法がすごい人で、アルミルさんは魔導のエキスパート。
すごい人とすごい人が知り合いで、しかもどっちも私たちと関係のある人たちだ。
こうしていろんな人と関わっていくと、意外と世間って狭いんだなって思い知らされる。
「ぅん……」
「お」
そんなときだ。私たちのものではない声がした。
私は、ベッドへと視線を向ける。ベッドの上で眠っている、二人の女の子。
今の声は、そのうちの一人……クレアちゃんのものだ。
「ん……」
クレアちゃんは小さく声を漏らしながら、ゆっくりと目を開けた。
私はすぐに、側に駆け寄った。
「クレアちゃん、クレアちゃん大丈夫?」
「……」
「クレアちゃん、私のことがわかる?」
クレアちゃんは、しばらく天井を見つめたままで……
それから私の声に反応して、ゆっくりと私の顔を見た。
「……エラン……ちゃん……」
その口から、確かに私の名前を呼んで。
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