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第九章 対立編
614話 無茶なこと
しおりを挟む「あぁあああああああああああああああああああ!!?」
雷撃に撃たれ、ルリーはたまらず悲鳴を上げた。
バリバリと身体中を流れる電流は、ルリーから思考能力を奪っていく。魔法のイメージは途切れ、創造していた足場が消失する。
意識が朦朧とする中で、ルリーは攻撃の出どころを確かめるために視線を動かした。
「……っ」
電撃は、クレアの杖から放たれたものだ。
クレアの杖は、視線は、まっすぐにルリーを捉えていた。
彼女がイメージしたのは、電撃。雷とも見間違うほどのそれは、一瞬のうちにルリーを包み込んだ。
これほどの強力な魔法、イメージできても具現化する魔力がなければ、不発に終わる。
しかし、クレアはそれをやってのけた。
「あぁあ……!」
足場が崩れ、空中に留まる術など持たないルリーは、その場から落ちる。
雷撃に撃たれ、考えるための思考を削り取られ、力の抜けた体は真っ逆さまに地面へと落ちていく。
「ルリーちゃん!」
その光景を見て、たまらず声を上げるのはエランだ。
結界内だ、あの高さから落ちても死ぬことはない。たとえ当たりどころが悪くても。
だが、当たりどころが悪ければダメージは反映されなくとも、そのまま気を失い戦闘不能になる可能性はある。
そうなれば、ルリーはこの国を出ていかなければいけない。
「……くっ」
薄れゆく意識の中、ルリーは必死にイメージを働かせる。
まだ体は痺れるし、熱い。火傷だってしているかもしれない。いや、結界の中だしそう思っているだけだろうか。
なんにせよ、このままやられてしまうわけにはいかない。
ルリーは丸め、地面に背を向ける。同時に杖を振るうと軽めの風を起こし、落下速度を低下させた。
「あたっ」
それでも、完全に勢いを殺すことはできず、地面に背中を打ち付けた。少し痛い。
だが、逆にこの軽めの痛みが、ルリーの意識を復活させた。
ゆっくりと、しかし素早く身体を動かす。
まだ多少の痺れはあるが、動けないほどではない。
「往生際の悪い……あのまま気絶してればよかったものを」
「普通の魔法で、あの威力……凄まじいですね」
「別に嬉しくないわね」
静かに深呼吸し、クレアはルリーを見つめた。
その視線に、ルリーは背筋が凍るのを感じた。ただ見つめられただけ……睨まれたわけでもないのに。
なぜこんなにも、胸が締め付けられるのだろうか。
「思ったんだけど」
「?」
クレアは、口を開いた。
「この身体……結構、無茶なことにも耐えられそうなのよ」
「な、なんの話です?」
「こういう、こと!」
その瞬間、クレアの身体から溢れる魔力が増大する。
ピリピリと、肌に触れてもいないのに静電気が走っているような感覚だ。
クレアは、自身の魔力を身体へと纏わせる。身体強化の魔法だ。
……身体強化の魔法は、身体に纏わせる魔力が多くなればなるほど、当然効力も上がる。威力も、速度も。
もちろん、魔力を増やすとそれだけ身体への負担も大きくなる。
「! く、クレアさんっ?」
それに加え、クレアは全身へと魔力を迸らせる。
元々、クレアは魔力による全身強化はできない。しかし自分の身体への負担を考えなければ可能だ。
部分強化は誰でもできるが、全身強化はそれを極める必要がある。そのために必要なのが、膨大な魔力量だ。
魔力の扱いに長けていても、全身に回す分の魔力がなければ全身強化には至らない。あるいは、数秒と持たない。
つまり、全身強化は膨大な魔力さえあれば、使用することは可能なのだ。
……身体への負担を考えなければ。
「だ、だめです、クレアさんっ」
クレアは今、その身体への負担を強いる方法を使っている。
身体強化を極めていないうちに全身強化をするとなれば、それは予想以上の負担がかかる。
身体強化は、部分強化から全身強化へと徐々に身体を慣らしていくもの。
しかし今のクレアは、水道の蛇口を一気に捻っているようなものだ。
噴き出す膨大な魔力は、身体を強化させる代わりに強大な負担となる。
そのはずだ。
「っはは、これ、なんともないわ……いよいよ持って、私の身体どうかしちゃったのかもね」
しかし、クレアは平然と、むしろ笑みさえ浮かべていた。
本来ならば身体への負担が半端ではないはずだ。だが今のクレアの身体は、感じるべき負担を感じない。
身体を鍛えていれば、あるいはそういうこともあるかもしれない。
残念ながら、そういった真っ当な身体ではないことに、クレア自身が気づいている。
「クレアさ……」
「遅い!」
「!」
まるでその場から消えたかのように、クレアの姿は……まばたきの合間に、ルリーの眼前にあった。
放たれる拳は、顔面を狙っている。ドクドクと、心臓が脈打つ。
拳が、顔面に触れる……その寸前、ルリーはさっと顔を右方向へと避ける。チリッ、と頰が熱く擦れる。
まさか避けられるとは思っていなかったのだろう。驚くクレアに少しばかりの隙ができ、その隙をルリーは見逃さない。
最小限の動きで拳を避けたルリーは、その顔を勢いよくクレアへと振りかざす。
クレアの額に、頭突きをおみまいしたのだ。
「っ、いっ……!」
反撃されるにしても、上半身のどこかだと気を向けていたクレアは、予想外の場所への痛みに悶絶する。
魔力で強化しているのか、それとも素なのか……石頭と呼べる代物だ。
さらにルリーは身を屈め、がら空きのボディへ二、三発拳を打ち込む。
そして……
「はぁ!」
腹部に手をかざし、超至近距離で魔力弾を放った。
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