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第八章 王国帰還編
595話 人間とダークエルフは分かり合えない
しおりを挟むルリーちゃんが決闘をすること。そして負けたらこの国を去ること。
それをこの男は、どこかから聞きつけたわけだ。
それをわざわざ私に言いに来るあたり、なんだかいやらしいな
「それ見たことか。友人と思っていた人間が、ルリーがダークエルフだと知った途端にあの態度だ。
これが、ダークエルフの扱いだ」
「……確かに、思っていたよりみんなからの認識はひどいみたいだね」
私も、甘く考えていたのかもしれない。
クレアちゃんならきっと、わかってくれると……そう思っていた。
その結果が、これだ。
「いい機会だ。いっそ人間と手を切ってしまえばいいんだ、あいつも」
「でもルリーちゃんは、まだ諦めてない。
決闘に勝って、友達と仲直りするつもりだよ」
「ご苦労なことだな」
……ルランは、ルリーちゃんが人と仲良くすることを快く思ってはいない。
人間を憎んですらいるルランにとっては、ルリーちゃんの行動は信じられないものなんだろう。
妹のことは大切に思っていても、その思いまでは肯定しているわけじゃない。
「それで、私に会いに来てくれたのは、わざわざそんなことを言うため?」
「なぁに、オレも決闘の結末に興味があってな。見届けさせてもらおうと思っただけだ」
「……」
この男、もしもルリーちゃんが負けたら、姿を見せてルリーちゃんを連れてこの国を出ていくつもりだろうか。
ルリーちゃんはルランのことは死んだと思っているけど、そこまでして隠し通す必要もないと思うし。
その際、もしかしたら国の人に危害を加えるつもりかもしれない。
やっぱり人間なんてこんなもんだ、みたいな感じで。
「……そういえば、リーサはいないんだ?」
ルリーちゃんとルランの幼馴染だという、ダークエルフの少女リーサ。
彼女がルランを監視してくれていたおかげで、ルランはあれ以来"魔死事件"を起こしてはいない。
そんな彼女の姿が、見えない。
まさかまた振り切られたとは思えないけど。
「別に、お前には関係ないことだ」
「ふぅん」
なんて素っ気ない返事。
まあ、ルランがリーサに手を上げることはないだろう。それはなんとなくわかる。
「……リーサもルリーも、なぜお前たち人間を許そうとしているのか、わからん」
「……」
ぼそっと呟いた声は、だけど私には確かに聞こえた。
それは、ルランの本音なのだろう。
人間たちに故郷を滅ぼされ、両親や友達、仲間を殺されて……恨みなという方が無理な話だ。
でも……
「二人とも、きっと許してなんかないよ。
ただ……ずっと憎しみに囚われるのは、虚しいことだって思ってるんじゃないかな」
ダークエルフに直接的な被害を与えた、黒髪黒目の人間。私はもちろん違うけど、そういう特徴の人間だけを恨むなら、わかる。
でもルランは、無差別だ。そんなの、疲れるに決まってる。
黒髪黒目の人間は、珍しいみたいだし……そういった人間に会わなければ、徐々に憎しみも薄れていったのかもしれない。
いくら凄惨な目に遭っても、何十何百年も気持ちは持続しないだろうから。
だから、無差別に人間を憎んでいるルランを、リーサは心配している。
「許せとは言わないよ。でも、人間だってみんながみんな悪人なわけじゃない。
それはルランも、わかってるんじゃない?」
これまで、計ったようなタイミングで現れた。
きっとルランは、人間のことを見ていたんだ。いつも、かはわからないけど、観察して、どんな人間がいるか知ったはずだ。
だったら、みんなが悪い人じゃないてわかるはずだ。
「そうだな、そうかもな」
「! なら……」
「だが、ダークエルフだと知った途端にアレだ。ルリーが、今まで特に仲良くしていた人間にも関わらずだ。
所詮人間とダークエルフがわかりあうことは、無理な話だ」
ルランの言葉は、以前なら即座に否定していただろうけど……今の私には、それができない。
実際に、クレアちゃんの様子を見てしまったから。
仲の良かった子が、あの反応だ。
知らない人相手だと、どうなってしまうのか……
「それでも……ルリーちゃんは諦めずに、頑張ってる。クレアちゃんに勝って、お話をしようとしてる。
お兄ちゃんなら、妹の気持ちくらい応援して……」
「あーはいはい。そういうのはもう聞き飽きた」
手をひらひらと振り、ルランは首も振る。
リーサは、ルリーちゃんの気持ちを応援してくれているのに……全然違うよこれは。
ルラン的には、ルリーちゃんの行動は理解できないものなんだ。
……どっちが正しくて、どっちが間違いなんて。私にはわからないけど。
「ともかく、オレは見届けさせてもらうぞ。ま、オレとしてはルリーがこの国を去る方を願ってるがな。
そのためには、あの人間に頑張ってもらわないとな。
人間に期待するなんざ、反吐が出る話だけどな」
「……」
ルランは、クレアちゃんを応援している……でも、その理由はひどく歪だ。
応援すると言っても、その勝敗の先にある要求……ルリーちゃんがこの国を去ることを望んでいる。
だから、ルランはクレアちゃんに勝ってほしいんだ。
友達を応援してくれるって点では嬉しいはずなのに、こうも複雑な気持ちになってしまうなんて。
「……だったら、なんで……」
「あ? なんか言ったか?」
「……なんでもない」
ルランは、最後に私を一瞥してから……開いていた窓から外へと飛び出し、この場から去った。
後に残されたのは、私だけ。
……ルランは、ルリーちゃんの気持ちを応援していない。
でも、それなら……自分の気持ちをルリーちゃんに、伝えればいいのに。
そうすれば、ルリーちゃんの気持ちを乱せるはずだ。お兄ちゃんが人間を憎んでいるなんて、とんでもなく動揺してしまうはずだ。
なのに、ルランは自分から姿を見せようとすらしない。
ルランは、ルリーちゃんの気持ちを応援してはいない……でも。
ルリーちゃんの気持ちを、あくまでルリーちゃん自身で決めさせようとしているのかな。
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