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第八章 王国帰還編

589話 ちゃんと話がしたいから

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 私とゴルさんの決闘では、結果的にゴルさんが勝者となった。
 そのため私は、ゴルさんの要求を吞み……生徒会に入った。

 当初ゴルさんが求めていたものとはニュアンスが違う気もするが、結局は勝者が決めることだ。
 決闘前に決めた要求から大きく外れてなければ、それは適用される。

 さて、つまりクレアちゃんとルリーちゃんにも、互いになにかを賭けて決闘を……と考えたわけだ。

「例えば、ルリーちゃんが勝ったら仲直りする。クレアちゃんが勝ったら……もう、近づかない、とか」

「要求するものの内容は本人が決めるから、そこはまた変わってくるだろうけど……
 もし決闘をさせるとしても、アティーアちゃんには決闘する理由がないってことだ」

「そうだよねぇ」

 クレアちゃんが勝てばクレアちゃんの要求が呑まれるんだから、正確には決闘する理由はある。
 でも、だ。そもそも私たちと会いたくなければ、あのまま引きこもってればいいだけの話。

 わざわざ出てきて、顔も合わせたくないルリーちゃんと決闘をするまでの理由が、あるかって言われると……

「とはいえ、もしかしたらもっとすごいものを要求してくるかもしれない」

「す、すごいもの?」

「アティーアちゃんがなにを求めるかによっては、決闘に応じる理由はあるってことだ。
 ま、そもそも本人たちに話もしてないのに今ここでワイワイ言っても、仕方ない」

「……そうだね」

 決闘だと、考えついたのは私だ。だから、本人たちに話をするなら私からするのが筋ってもんだろう。
 とりあえず二人に決闘の話を持ちかけることで、話は一旦終了となる。

 人払いの結界を解き、教室を出る。
 どうやらちょうど演説が終わったのか、外では生徒たちが出てきているところだった。

 みんな不安そうな表情をしていたけど、とりあえず落ち着いてはいる……かな。
 そのへんはゴルさんや先生たちに任せるとして、私はルリーちゃんを探さないと。

「えぇと……」

 多分、集会場から出てきた人波の中にいると思うんだけど……さすがに見つけるのは苦労しそうだ。
 ルリーちゃんの髪色は銀髪だし、目立つ色だからすぐに見つけられそうだ……彼女がフードを脱いでいれば。

 フードを被ったままダークエルフとしての正体を隠しているんだし、クレアちゃんがあんな状態になったのだから人前で明かせば騒ぎどころじゃない。

「ん、あそこにいるんじゃないか」

「え?」

 先生が指差す方向を見つめると……フードを被った、小柄な人物がいた。
 あれは、ルリーちゃんだ。よく見つけられたな。

「これでもエルフだからね。同族を見つけるのは難しくない」

 そんな自信満々な先生の台詞を受けて、私は人波の中へ。
 ルリーちゃんに呼びかけ、彼女の手を取り、とりあえずひとけのないところへと移動する。

 さて、と。

「ルリーちゃん、クレアちゃんとのことで、私から提案があるんだ」

「は、はい。なんでしょう?」

「ルリーちゃんとクレアちゃんでさ、決闘をしてみたらどうかなって」

「……はい?」

 きょとん……というか、なにを言っているんだろうこの人といったような顔。
 案の定の反応だった。

 クレアちゃんとのことを話しているはずが、二人の決闘になってるんだからなぁ。

「すみません、もう一度言ってください」

「ルリーちゃんとクレアちゃんでさ、決闘をしてみたらどうかなって」

「一言一句同じ……!」

 やっぱり聞き間違いじゃなかった……とでも言いたげな表情だ。
 ころころ表情が変わるのは、見ていて面白い。

 まあ、そういう場合じゃないのはわかってる。

「要は、二人ともぶつけたいことをぶつけちゃえってことだね」

 私の言葉をフォローするように、先生が話す。
 この場には先生も同席している。あくまでルリーちゃんに決闘を提案するのは私だけど、先生も会話には参加するつもりだという。

「で、でも…ぶ、ぶつけたいことなんて、私……」

「そうやって遠慮していたら、なにも変わらないよ」

「うぅ……そ、それでも、わざわざ決闘なんて……」

「それは二人がどうするか、だね。決闘はあくまでエランちゃんが提案したに過ぎない。
 ただ、これくらい力技じゃないと、ダークエルフに怯える少女を引っ張り出すのは難しいと思う」

「……先生、私がダークエルフだって知ってたんですね」

「エルフだからね」

 ルリーちゃんは軽くため息を漏らしたが、少し考えるように黙り込んだ。
 めちゃくちゃなことを言っている自覚はある。けど、なにかしら行動を起こさなければいけないのもわかっている。

 そして、なにかめちゃくちゃなことでもなければ、二人の距離は動かないと思ったのだ。

「……決闘ということは、私が勝ったらなにか要求できるんですよね?」

「うん。ルリーちゃんはクレアちゃんになにを望む?」

「……ちゃんと、お話がしたいです。ゆっくり、時間をかけてでも……向き合って」

 てっきり、前みたいに仲良くしたい……と言うのかと思った。でも、違う。
 きっと、決闘の勝利条件で仲良くなっても嬉しくないから。仲直りをするための場を、ちゃんと設けたいというのだ。

 普通に話をしたいと言っても、今のクレアちゃんは聞いてはくれないだろうから。
 決闘の勝利条件ならば、聞いてくれるはずだ。ルリーちゃんは、乗り気……あとは、クレアちゃんだ。
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