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第八章 王国帰還編
584話 友達と友達を助けたい
しおりを挟むいつの間にか、集会場の前についていたみたいだ。
あれ、なんかデジャヴュだな。
しっかし、いつ見ても大きな建物だなぁ。
全校生徒が入る大きさなんだから、それも当然なんだろうけど。
「ところでエランちゃんよ。集会場まで来てどうするのさ。いきなり中に入っちゃうの? みんな王子様の演説に聞き入っている中に?」
「そういう言い方されると私が空気読めないみたいじゃん!」
「……」
「なんか言ってよ!」
先生が言うように、みんなの中にいきなり「我エラン・フィールドぞ!」って突入するわけないじゃんー。
まあ、なんで来たんだって言われると……なんでだだうね。
とりあえず学園の友達に会いたかったのかもしれない。
「というわけで、失礼しまーす」
「なにがというわけで?」
私は、扉をそっと開く。
バンッと大きく勢いよく開けることはしませんとも。そっと……顔が覗けるくらいに。
中では、先生の言ったように生徒たちが集まっていた。それに教師たちも。
みんな、一つの方向を見ていた。私も、その方向に首を動かす。
そこには……映像用の魔石で、壁に大きく映し出されたゴルさんの姿があった。
ほうほう、ゴルさんてば頑張ってるねぇ。
「ねえどうしよう、みんな真剣に聞きすぎてて、とても入っていける状況じゃないんだけど」
「自分からここに来ておいて!?」
だってみんな思いの外真剣なんだもの。
今まで洗脳されてて、それが解かれて、その説明があるってのは……こうなるってことなのかなぁ。
私も中に入って、こっそりみんなと一緒に映像見ようかな。
いや、それあんまり意味ないな。
「そうだ先生、聞きたいことがあるんだけど」
「おおう、なんだい。やっぱり中に入りたいって話かい?」
「いや、クレアちゃんってここに来てるのかなって思って」
「話が全然違った!」
この場に、クレアちゃんは来ていないのか。多分……いや十中八九来ていないだろうけど、一応聞いてみる。
「いや、アティーアちゃん? さあ……休校になってから会う機会もないし、わからないな」
「使えないな」
「ひどくない!?」
この人は、私のクラスの教育実習生。つまりクレアちゃんのことも知っているわけで、そんな彼女の動向を知らないかと思ったけど。
やっぱりわからないか。
休校になっては、いくら同じクラスとはいえ生徒と先生が会うことはない。
クレアちゃんがずっと引きこもってるなら、なおさらだ。
「そういえば彼女、姿を見せないって耳に挟んだけど……元気なのかい?」
「うーん……元気かについては、判断しかねるかな」
あれを元気と言えばいいのかどうか。
ルリーちゃんや私に怒る元気はある、って意味ならうん。そうなんだけど。
先生が耳に挟むほど、クレアちゃんの話は広まってるってことなのか……
「彼女、なにかあったのか?」
「……」
……どうしようか。現状、状況を知ってるのは当事者のクレアちゃんとルリーちゃんを除けば私とナタリアちゃんだけだ。
どちらも、ルリーちゃんの正体を知っていたって共通点はある。
先生は、ルリーがダークエルフだってことを知らない……けど、エルフだ。
エルフなら、この問題を話しても問題ないのでは? というか、単純に数が欲しい。
誰彼集めるわけにはいかないけど。
まあ、ルリーちゃんの許可なく勝手に話すことは……
……あれ?
「先生、先生って……エルフ族って、"魔眼"ってものを持ってるんだよね」
「ん? あー、よく知ってるね。コレな」
「その"魔眼"は、人の魔力の流れを見ることができる」
「そうそう、よーく知ってるねー」
そうだ、そうだった。エルフには、エルフ特有の目がある。
ナタリアちゃんだって、同じエルフの目でルリーちゃんの正体を知ったんだ。
つまり……
「先生ってもしかして、この学園にその、エルフ族がいるってことは……」
「あー、そういえば一人妙な魔力の子がいたな。人種族じゃない、エルフ特有の魔力……
あれ、もしかして知り合い? ……や、そういえばよく一緒にいるよねぇ、あのフードの子」
あぁ、やっぱり。"魔眼"で、エルフ族特有の魔力を持った人を見つけてる。
自分のクラスではないから顔や名前はわからないみたいだけど、特徴は覚えているみたいだ。
しかも、私と仲が良いってことも。
というかこの人、生徒にエルフがいるって知って黙ってたのか。
食えない人だ。
「実は、そう。ルリーちゃん、ダークエルフなの」
こうなったら仕方ない。バレているなら誤魔化しても仕方ないし。
「へぇ、そうかダー……ク、エルフ……」
ダークエルフ。その単語を聞いた瞬間、先生の口が止まった。言葉も、出てこない。
……そりゃ、そうか。ただでさえ、みんなダークエルフってだけで怖がるんだ。
エルフは、ダークエルフのとばっちりで人々から迫害を受けたようなものだ。
ダークエルフに対し、いい思いをしないことは間違いない。
……それでも。
「お願い、先生も協力して。私の友達と友達を助けるために」
私は、大切な二人の友達を、どちらも助けたい。
この人なら、ルリーちゃんがダークエルフだとは言いふらさない……なぜか、そんな確信があった。
拳を握り、訴える。
そんな私に、先生は……
「いいよー」
驚くほどあっさりと、あっけらかんと、そう言った。
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