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第八章 王国帰還編

577話 楽しんでません!?

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 おぉおおお、世界が揺れる揺れる!
 シルフィ先輩に肩を掴まれ、前後に大きく揺らされる。そのため、私の視界はブレブレだ。

 それを見たゴルさんが、「落ち着け」とシルフィ先輩の肩をポンと叩いてくれたおかげで、ようやく揺れは収まった。

「ふぅ、ふぅ……すみません、取り乱しました」

「気にするな」

「そうそう、誰にでもそういうことは……
 冗談だから、そんな目で見ないでよぉ」

 乱れてしまった髪を手直しする。まったく、ボサボサになっちゃったよ。
 先輩から向けられる視線から目をそらしつつ、私はゴルさんを見て言う。

「ほ、ほら! こうしてゴルさんちゃんと来れたんだし、結果オーライオーライってやつじゃん!?」

「なんだその言葉は。第一、ゴルドーラ様はともかくコーロラン様、コロニア様、リリアーナ先輩まで……」

「病室にいたから連れてきた!」

「……病室からゴルドーラ様が消えていたら、医師が驚くだろう。誰か残しておくべきだったのでは?」

「だいじょーぶ!」

 先輩の心配事に、私は指でVサインを作り、大丈夫だと答えた。

「病室に、お手紙を残してきたから! 私、文字が書けるようになったから!」

「……」

 えっへん、と私は胸を張る。
 以前は、文字が書けなかった。魔導学園の入学試験の筆記とか、文字が書けないからどうしようかと思ったもん。
 ま、結局書く工程は必要なかったから助かったんだけどね。

 それから私は、文字を書く練習をした。
 そのおかげで、文字が書けるようになったわけだ。すごいでしょう。

 先輩はなぜか、私を呆れた目で見ている。

「……リリアーナ先輩は、それで納得を?」

「一応、病院を出る前に近くのお医者様にお話は通したので」

「通したのか!?」

 シルフィ先輩の言葉に、リリアーナ先輩がこたえる。どうやら、私の知らないうちにお医者さんに話していたらしい。
 だけど、それに驚いた声を上げるのはゴルさんだ。

 話を通した、ってことは……ゴルさんを透明にして、私の浮遊魔法で運んでっていう一連の動作をだろう。
 ゴルさんは、頭を抱えていた。

「……医者に話したのなら、俺のあの無様な格好も知れ渡ってる可能性が……」

「見えないからいいじゃん」

「よくない」

 というか、私が言うのもなんだけど……あの重傷患者を浮遊魔法で運ぶから病院から出ますね、って言い訳でよく納得してくれたもんだ。

「あ、あの……そろそろ、本題に」

「おっと、そうだった」

 恐る恐ると手を上げるコーロランの言葉に、私はうなずく。
 ゴルさんも、忘れようと思っているのか表情をすぐに切り替えた。さすが生徒会長。

「で、こいつが例の?」

「はい。国中の人間を洗脳していた者です」

 シルフィ先輩が指すのは、椅子に座らせ後ろ手に縛り、目隠しもした状態のイシャスだ。
 先輩とリーメイが見張ってくれたおかげで、逃げ出す様子はない。

「ほぉ」

「でも、不思議だよねー。洗脳なんてことすらそんなのできるんだって不思議なのに、その規模が国中なんてさ」

 コロニアちゃんの言うとおりだ。ただでさえ聞き慣れない洗脳、それが国中に及んでいる。
 個人の力にしてはあまりにも、大規模だ。

 普通に考えれば、仲間がいると考えるよなぁ。
 そうすると、やっぱエレガたちみたいな黒髪黒目の……
 あ、私は除外ね!


 ダダダダッ……バン!


「フィールドさん!」

 外でなにやら騒がしい足音が響き……かと思えば、激しい音を立てて扉が開かれる。
 そこには、ぜーぜーと息を荒くしたノマちゃんがいた。例によってメイド服で。

 髪とかちょっと乱れている。
 ノマちゃんは私の姿を見つけ、口を開いた。

「もうっ、どういうつもりでのお二人をわたくしに任せてどこかへ行ってしまうなんて!
 ブリエさんも連れて行ったままですしおかげで誤魔化すのにくろここここ、コーロラン様!?」

「ごめんねー、急いでたからさ」

「いや、え、あ、えぇ!?」

 部屋に入ってきたノマちゃんだけど、中にいる人物を見て驚いているようだ。
 そりゃあ、いきなり王族がいたら驚くか。

「! ノマさん。まさかこんなところで会えるなんて……元気だった?」

「! は、はい! それはもう……こ、コーロランこそ、お元気そうで!?」

「はは、おかげさまで。
 ところで……その格好は?」

「あっ、えっと、いや、これは……!」

 顔を真っ赤にして、ノマちゃんが慌てている。
 ノマちゃんとコーロランは同じ組で、毎日顔を合わせている。なにより……ノマちゃんはコーロランに恋をしている。

 王族に恋をしているのだ。そもそも恋なんてものがどんなものなのか、私にはわからないけど。
 楽しそうに好きな人の話をするノマちゃんの姿は、いいなと思ったもんだ。

 そんな、恋している相手に会うとは思っていなかったのだろう。部屋の外に出て、身体を隠してしまった。
 今の際どいメイド服を見られるのが恥ずかしいのだろう。あんなに堂々としていたのに。
 髪も、手でさっさと治している。

「ま、ノマちゃんも話に加わりなよ」

「こ、この状況で!? フィールドさん、楽しんでません!?」

「そんなことないよー」

 ともあれ、ノマちゃんだけ仲間外れにするわけにはいかない。
 着替えてくると言って、ノマちゃんはそそくさと自分の部屋に戻っていった。
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