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第八章 王国帰還編

535話 ドラゴンに乗って王都を飛ぶ

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 そんなわけで……

「クロガネ、王城までひとっ飛びでお願い!」

『それは構わぬが……まさかこんなにも人の多い場所で、呼び出されるとは思わなかったぞ』

「わー、おっきー!」

「……」

 私はクロガネを召喚した。
 食堂の中でクロガネを召喚したら、建物ごとぶっ壊れそうなので……外に出た。
 私にだって、それくらいの分別はできるからね!

 食堂の中からは、生徒たちが窓越しに私たちを……というかクロガネを見ている。
 まあ、いきなりこんな大きな体が出てきたら驚くよね。

 フィルちゃんは手を伸ばして、キャッキャと飛び跳ねている。
 ナタリアちゃんは首が痛くなるくらいに見上げたまま、口を大きく開けて固まっている。

「あの、エランくん……これは……」

「あ、ごめんいろいろ話したいことはあるんだけど、今はノマちゃんから『賢者の石』返してもらわないとだから!」

「聞きたいことがありすぎる!」

 頭を抱えて大声を上げる。ナタリアちゃん。こんな取り乱した姿は初めて見たかもしれない。

 本当なら、この子が私と契約したクロガネです、って紹介したいんだけど……
 その時間も惜しい。

「まあ、戻ってきたら話すからさ」

「……とりあえず、行くなら早くした方がいい。騒ぎになりかけてる」

「おっと」

 ナタリアちゃんの指摘に、私は周囲を見た。
 クロガネの出現に驚いた生徒たちが、食堂や寮から出てきている。
 そのうち、騒ぎに気付いた先生たちも出てきそうだ。

 ……もしかして、私がいちいち挨拶に向かわなくても、クロガネを召喚すれば驚いた向こうから出てきてくれるのでは?

「なにか、とても不穏なことを考えていないかい?」

「あっはは、まさかー。それじゃ、行ってくるから」

「……あぁ。まあ、気を付けて……
 ……あれ、これエランくんと一緒にいたボクがなにか聞かれるなんてことはないよね?」

 ナタリアちゃんの見送りを受けて、私はクロガネに飛び乗る。
 上昇する直前に、ナタリアちゃんがなにか言っていたような気がするけど……まあいいだろう。

 下からみんなの視線を感じる中で、ある程度上昇した私たちは、王城へ向かって移動を開始する。

「おい、なにか飛んでないか!?」

「なにあれ……魔物!?」

「終わりじゃー、この世の終わりじゃー!」

『……契約者よ、これは目立つのではないか?』

「確かに」

 こうして空を飛んでいると、国民に見つかってしまう。クロガネほどの巨体ならなおさら。
 さっきまでは、人がいないなと思っていたけど……上から見ると、やっぱりいるなぁ。

 それにしても、このままじゃ目立ちすぎるよね。
 悪い魔物だと間違われて、攻撃されてしまうかもしれない。

「そんなときのための透明魔法~」

 私は、私とクロガネに対して透明化の魔法をかける。
 クロガネと、その上に乗る一人くらいなら、私でも透明化させることは出来る。

 魔大陸から『ウミ』を越えて、人大陸じんたいりくへと降り立った時。クロガネに乗って飛んでたら目立つからという理由で断念したのが、もはや懐かしい。
 ふふん、私だけなら、クロガネと一緒に見えなくなるのですよ。

「き、消えた!? あの黒いのどこ行ったんだ!?」

「私たちは夢でも見ていたのかしら!?」

「天変地異じゃー、天変地異の前触れじゃー!」

『……契約者よ、余計に目立ってしまったのではないか?』

「確かに」

 上空を飛んでいた黒い魔物が、突如として消えた……これはうん、普通に飛び続けているよりも目立ったかもしれない。
 一人二人なら幻覚で済むかもそれないけど、あんなたくさん見られちゃったらなぁ。

 最初から透明になって飛べばよかったんだよ。失敗失敗。

「ま、なんとかなるよ」

『そうか? 何人か大騒ぎで兵士らしき人間に声をかけているが』

「……」

 黒髪黒目の人間を捕らえる、ということで国中に兵士が歩いているけど、だからこの異変もすぐに兵士に伝えられる。
 むしろクロガネを直接見た兵士もいたかもしれない。

 兵士の口から、国王の耳へ……そして、異変の原因を突き止めるためにあれやこれやと……
 いや、考え過ぎだな。うん。

「騒ぎになっても、私と契約してるクロガネだよって説明すれば問題ないよね」

『……問題はないだろうが。
 契約者は少々、軽率なところがあるな』

「気を付けまーす」

 そうだよねぇ……学園でいきなりドラゴンを召喚して、そのまま空を飛ぶとか迂闊だったかもしれない。
 変に騒がせちゃってみんなごめんね。

『む、あれではないか』

 私が心の中で国民のみんなに謝っていると、クロガネが声をかけてくる。
 視線の先には、大きなお城。さっき出てきたばかりの、王城だ。

 やっぱり、クロガネに乗ると早いなぁ。同じ国内とはいえ、ベルザ王国は結構広いのに。

『さて、どこに降りようか?』

「うーん、このまま王の間に行って、窓からこんにちはしちゃだめかな」

『……契約者よ』

「冗談! 冗談だから!」

 さすがに私だって、ドラゴンに乗ったまま国王の部屋に突撃はしないよ!
 ……しないよ!?

 まあ王城の敷地内は広いから、そこに適当に降り立てばいいだろう。
 あぁ、それだと不法侵入になるのかな……やっぱり正面から行ったほうがいいのか。

 面倒だし、タイミングよくノマちゃんが王城から出て外出とかしてくれないかな……なんて、考えていたら。

「およ?」

 目を凝らし、下を見る。クロガネの視界とリンクし、細かいところまでくっきりと。
 今、王城の門から誰かが出てきた……さっき見たばかりの、金髪ドリル。そしてメイド服。

 あれは……

「ノマちゃん?」

 まるで私の願いが通じたかのように、ノマちゃんが外出しているところだった。
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