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第八章 王国帰還編
533話 石の行方
しおりを挟むフィルちゃんの面倒は、ナタリアちゃんが見ていてくれた。元々フィルちゃんは、私たちの部屋で面倒を見ていた。
でも、私は魔大陸に飛ばされたし残されたノマちゃんもまた、寮から消えていた。
クレアちゃんやノマチャンの現状を知るまでは、二人が見てくれていた可能性も考えたけど……
ノマちゃんはお城暮らし、クレアちゃんは憔悴し引きこもっているとなれば、ナタリアちゃんしか適任がいなかったとも言えるかな。
「ルリーくんもいなくなってしまったから、部屋には余裕もあったしね」
「余裕はあっても、面倒見てくれたなんて。大変だったでしょ」
「それなりに言うことも聞いてくれたし、ほどほどだよ。
……それで、ルリーくんは?」
私とナタリアちゃんは近くの席に座り、対面で向かい合っている。
フィルちゃんは、私の膝の上に乗っかっている。
周りの生徒は、想像しく食堂を出たり遠巻きに私たちを見たりしている。
わっと話しかけられるかと思ったけど、そうでもなかった。
まあ、この話をするのに人が周りにいないほうがいいんだけどね。
「ルリーちゃんも、元気。今はクレアちゃんの実家で、待ってもらってるよ」
「そうか。いや、無事ならいいんだ」
私の言葉に、ナタリアちゃんはホッとしたように息を吐いた。
ナタリアちゃんとルリーちゃんはルームメイト。それに、ナタリアちゃんはルリーちゃんの秘密を知っている仲だ。
それだけに、心配もかなりしていたのだろう。
「しかし、二人だけでどこかに飛ばされて……大変だっただろう」
「はは、まあね。でも、大変なのはこっちもでしょ」
「まあな」
ナタリアちゃんには、話してもいいだろうか。クレアちゃんの現状を。
クレアちゃんが憔悴している理由には、ルリーちゃんがダークエルフであることが関わっている。
ルリーちゃんがダークエルフだと、ナタリアちゃんは知っている。ルリーちゃんの秘密を知っている少ない間柄だ。
ただ……クレアちゃんが死人だってことまで、話していいものか。
普通に、ルリーちゃんがダークエルフだとバレてしまって怖がられてる、で相談してみようか。
「あれは、転移の魔導具だろう? それも、かなり広範囲に影響を及ぼすものだ。
そんな珍しい魔導具、あんな形でお目にかかることになるとは。どこまで飛ばされてたんだ?」
「それがね、私たちは魔大陸ってところに……
……珍しい、魔導具?」
クレアちゃんの事情をどう説明しようか……そんなことを考えていた私は、ナタリアちゃんの言葉を話半分に聞いていた。
その内容も、これまでよく聞かれたものだったし。
ただ、その中に耳に引っかかった単語があった。
珍しい魔導具……なんだろう、なんだか胸の奥がもやもやする。
こう、なにかとても大切なもののような……なにかを忘れちゃってるような……
「あぁー!」
「!?」
「あたっ」
大切なことを思い出し、私はダンッ、と立ち上がる。
そのせいで、膝に乗せていたフィルちゃんが床に転がってしまった。
「ご、ごめんフィルちゃん!」
「ママァアア……」
「えっと……どうしたんだい?」
ゴン、とぶつけてしまったであろう頭を、よしよしと撫でてあげる。
フィルちゃんを介抱する一方で、ナタリアちゃんは首を傾げていた。よく理解できていないようだ。当然だ。
なので私は、説明する。
「いや、私も大切な魔導具があってね。それを、部屋に置きっぱなしにしてたなって思い出して」
「大切な魔導具?」
そう。それは、今は亡きザラハドーラ国王から貰った魔導具だ。いわば、遺品!
……国宝だからちょっと違うか?
指輪に嵌められた赤い石、『賢者の石』。魔力を莫大に引き上げることができるという。
「指輪の形をしてるんだけど。魔導大会でそれつけて出るっていうのも、純粋に自分の力を試したかった私としてはちょっとね。
だから部屋に置いて行ったんだけど……」
「魔導大会の最中に、転移させられてしまったと」
ナタリアちゃんの言う通りだ。魔導大会中は外して部屋に置いていたのだが、魔導大会中の転移のせいでそのままになってしまった。
部屋に置きっぱなしになっているのだ、あの魔導具。
せっかく貰ったものなのだ。回収しときたい。
「仕方ない、一旦自分の部屋に……そういえば、今私たちの部屋どうなってるの?」
私がいなくなり、ノマちゃんはお城暮らし。あの部屋は、今はどうなっているのだろう?
その疑問に、ナタリアちゃんは応えてくれる。
「確か、部屋はそのままだよ。ただし、ノマくんの私物は彼女が持っていったはずだ」
「そっか。お城で暮らすなら、自分のものも移動させないとね」
住む場所が変わったことで、ノマちゃんは自分の荷物を移動させたようだ。
ほとんどが寮のものとはいえ、自分で持ち込んだものも多少はあるし……
なら、今部屋寂しくなってるんだろうなぁ。
「あ」
「ん?」
ふと、ナタリアちゃんが声を上げた。
「どうかした?」
「いや……魔導具は、指輪の形してるって言ってた?」
「うん」
「……実はね」
ナタリアちゃんは、ノマちゃんの荷物運びの現場にいたらしい。
そのとき、ナタリアちゃんが目撃したのが、ノマちゃんのとある行動だった。
『まあ、なんてきれいな指輪ですの! 見てください、わたくしにぴったりだと思いません!?』
『それ、ノマくんのなのかい?』
『…………えぇ、多分わたくしのですわ!』
「あのとき、ボソボソなにか言ってたけど……多分、『この指輪に見覚えはないけどフィールドさんがこのようなオシャンティなアクセサリーを持ってるとは思えないから多分わたくしのですわ』って言ってた」
「ノマちゃんんんん!!」
まさかの曝露に、私は私の脳内で笑っているノマちゃんに叫ぶ。
あの子、私の魔導具持っていったの!? いやそりゃ、私はアクセサリー類なんて今まで集めてなかったけどさ……
いや、それでもこんなことある!? 自分のだと勘違いしてったの!?
私の『賢者の石』持っていったの!?
「ちくしょう……持っていかれたぁ!!」
私はその場で膝をつき、叫ぶ。
フィルちゃんがポンポンと、頭を撫でてくれた。
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