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第八章 王国帰還編

516話 深まる謎

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「何者……とは?」

 レーレちゃんとあの国王は、何者なのか……ここに来てから。いや国王に関しては来る前から抱いていた疑問。
 それを、ぶつけた……

 対するノマちゃんは、きょとんとした表情を浮かべていた。
 ……言い方が、悪かったかな。

「ごめん、抽象的すぎたね。えっと……
 ……これレーレちゃんに聞かせていい話なんだろうか」

 考えて、レーレちゃんを見る。
 まだ小さいとはいえ、「お前は誰だ」的なことを聞いてしまうのは……それは、いいんだろうか。

 さっき言っちゃったから今更な感はあるけど。

「では……お耳オフ、ですわ!」

「わっ」

 ノマちゃんがレーレちゃんを自分の膝の上に乗せ、背後から抱きしめるようにして両耳を塞ぐ。
 いきなりのことにレーレちゃんは混乱しているようだけど、暴れたりしないあたりノマちゃんを信頼しているってことだろう。

 この光景を見たら、なんとも微笑ましい。
 あの国王は、国民洗脳疑惑があるけど……この子には、害はなさそうだな。

「追い出すのもかわいそうだし……それでいいか」

 とりあえず、話を聞かれなければいいってわけで。

「こほん。じゃあ、改めて。
 そのレーレちゃんと、あの国王は何者……ううん、なんで新しい王様になってるの?」

 何者、って聞くと抽象的すぎる。だから、より具体的に。
 ザラハドーラ国王亡き今、どうして……

「ゴルさんのお父さん……あの人が死んじゃったっていうのは聞いたよ。国王が死んだら、次の国王が決まる……それくらいは私にもわかる。
 でも、それなら次の国王は第一王子のゴルさんじゃないの? ゴルさんはまだ学生だし……若いからまだ国王にはなれないっていうのならわかるけど、それでも全然知らないおじさんが国王になってるのは、なんで?」

「……」

 浮かんだ疑問を、ぶつけていく。
 ザラハドーラ国王が死んだことは悲しい。でも、その悲しみを感じる間もなく、この国がどこかおかしくなっているのを感じる。

 今言ったことも、そうだし……

「私は王族のことはよくわかんないから、ゴルさんの家系の人が必ずしも国王になる、ってわけじゃないのかもしれない。
 でも、それならそれで……早すぎない? まだ数日だよ?」

 私は王族のことも、国王がどうだとか全然知らない。
 知らないけど……次の国王が決まるのは、あまりに早いんじゃないだろうか。

 私たちが魔大陸に飛ばされて、ここまで戻ってきて……あの日から、数日しか経っていない。
 その間に、国の混乱が収まって次の国王が決まって国民もそれを受け入れている……

 これって、普通じゃない……と、思う。

「ねえノマちゃん、この国どうなっちゃったの?」

「……フィールドさん」

 私の言葉を黙って聞いていたノマちゃんが、口を開く。
 そして、少しだけ首を傾げてから……

「やっぱりなにかおかしいですわよね」

 きょとんとした表情で、言った。

「お……おぉ……」

 あまりにも普通の……私と同じような疑問が返ってきたので、ちょっとびっくりしてしまった。
 いや、びっくりって……ね。だって、この国の人は洗脳されてるっぽいし、てっきりノマちゃんも……

 だから、「なにを言っているのかわかりませんわ」とか「あの方が新たな国王でなにか問題がありますの?」的な答えが返ってくる可能性も考えてた。

「ノマちゃんは、普通なんだね……」

「ふつー?」

「な、なんでもない」

 いや、ちゃんと話が通じてありがたいんだけどね。
 ただ、逆にノマちゃんにも異変の理由はわからない、ってことになるのか。

「だって、おかしいですもの。みんな、コーロラン様のお父上が亡くなったのに、平然としていて。よくわからないおじさんが新しい国王になっているんですもの」

「ノマちゃんも結構言うね」

 あんた一応レーレちゃんに雇われているんだろう……その父親を知らないおじさんて。
 まあいいけど。

 それと、ノマちゃん的にはザラハドーラ国王は、前国王よりもコーロランの父上って印象が強いんだな。
 好きな人のお父さんだから、そんなもんか。

「じゃあ、コーロランやコロニアちゃんは今どこにいるかわかる?」

 ゴルさんは魔導大会の事件で、重傷を負っているらしい。
 ならば、その弟妹であるコーロランとコロニアちゃんが、なにか行動を起こしそうなものだけど。

 それに、ザラハドーラ国王と仲の良い人もいたはずだ。
 えっと……ジャスミルって秘書のおじいちゃんとか……なんかそれぞれ専門のエキスパートの人たちとか。

 その人たちも、どうしているのだろう。

「それが……わかりませんの。わたくし、ここで働いている今日までの間に、お城のあちこちを探してみましたの。
 でも、知っている方は誰も……お世話になった方も、誰一人見つけられませんでしたわ」

 しゅんとした様子で、ノマちゃんは話してくれる。

 そうだよな……"魔死事件"のとき、体を調べるためにノマちゃんはしばらくこの王城で暮らしていた。
 ……あ、ノマちゃんはあの事件の結果"魔人"ってやつになったから、もしかして洗脳が効いてないのはそのせいだったり?

 ともかく、そのときにノマちゃんの体を調べてくれたのが、マーチさん。ピアさんの尊敬してる人だったっけ。
 王城での暮らしが長い分、マーチさんたちのことは私よりもノマちゃんの方が心配なのかもしれない。

「それにしても……」

 いくらこの王城が広いとはいえ……仕事の隙を見つけてとはいえ……
 数日をかけて探して、知っている人が誰もいない? そんなこと、あり得るのか?
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