上 下
526 / 781
第八章 王国帰還編

514話 ババーンと登場ですわ!

しおりを挟む


「ババーン、ですわ!」

 どこか懐かしい、そして賑やかな声。
 バンッ、ととbらが大きな音を立てて開き、条件反射で私たちは振り向く。

 部屋に入ってきた、人物。それは……

「の、ノマちゃん!?」

 金色の髪を、ドリルみたいにして両側から垂らしている女の子。
 魔導学園の寮では私と同室でもあった、ノマ・エーテンちゃんがそこにいた。

 まさかの人物の登場に、私は開いた口が塞がらない。
 なんで、ノマちゃんがここに……? それに、なんだあの服装。

 一言で言えば……メイド服ってやつだ。この部屋にいる、メイドさんたちが着ているものと同じ。
 ただ、なぜかノマちゃんのものはスカートの丈が短い。
 それに、なんか胸のあたりがけしからんことになっている。

「へ、変態……」

「む、なにか?」

 私はつい、国王に視線を向けていた。声が聞こえていないのはよかったんだか。

 いやだって……ノマちゃんだけあんな、きわどい恰好しちゃって。
 これ、どう見ても国王の趣味でしょ。

「あの、これは……」

「フィールドさーん!」

「ごぶふぁ!?」

 なぜここにノマちゃんがいるのか、なぜノマちゃんがこんな格好をしているのか……それを国王に聞こうとしたところ、背後から衝撃が伝わる。
 ノマちゃんが、思い切り体当たりしてきたからだ。

 本人には、体当たりなんて認識はなくても……頭から突っ込んでこられては、これは再会の抱擁ではなく攻撃だ。
 しかも今のノマちゃんは、普通の人間とは構造が変わっちゃってるんだし……

「ぅ、おぉおお……の、ノマちゃ……」

「ぶぇええええっ、じ、じんばいじまぢだのよぉ!」

 これにはさすがに一言申したい……と、私の腰に抱き着いているノマちゃんに振り向くと……震えた声が、返ってきた。
 私の腰に顔を押し付けて、ぐすぐすと鼻をすすっている。

 これは……泣いて、いるのか。なんて言ってるかは正直、聞き取れないけど。
 ワンワンと声を上げて泣いているノマちゃんの姿に、私もすっかり怒る気力が失せてしまった。

「……ん? の、ノマちゃん! は、鼻水が!」

「ぶぇ……!」

「わー!」

 泣くのはいいんだけど、私の服にめちゃくちゃ擦りつけられてる!
 私の言葉に顔を上げたノマちゃんは、そのきれいな顔を鼻水と涙と涎とでぐちゃぐちゃにしていた。

 いや、再会を喜んでくれるのはいいんだけどさ! ……喜んでるのかこれ?
 とにかく、これちょっといろいろヤバいって!

「うぅ……ぼ、ぼうしわけ、あびばべんば……ぐすっ、ちーん!」

「謝ってるのはわかるけどその直後になにしてんのさ!?」

 ノマちゃんは豪快に、私の服で鼻をかんだ。もうぐちゃぐちゃだよ!
 隣ではヨルが笑いをこらえているし。なに見てんだこの野郎!

「ノマちゃん、とりあえず落ち着こう。いろいろ聞きたいこともあ……うわきったな!」

「びぇえええええ!」

「あー、泣ーかした」

「これ私のせい!? また感極まったわけじゃなくて!?」

 泣いてしまったノマちゃんは、そう簡単には落ち着きそうになかった。
 心配し過ぎだ……とは思ったけど、すぐにそんな考えはなくなった。

 私だって……もし逆の立場だったら、それこそ泣き喚くくらいに心配するだろう。
 以前ノマちゃんが"魔死事件"に巻き込まれた時……ノマちゃんが死んだと思って、私は気を失うくらいにショックを受けた。

 あれと同じような気持ちだったとしたら……ノマちゃんを無理やり引きはがすことは、できなかった。

「よーしよし、大丈夫だよノマちゃん。私はここにいるからね」

「そうだよノマおねえちゃん。知らないおねえちゃんがここにいるからね」

「そうそう……
 ……!?」

 しがみついて離れないノマちゃんの頭を撫でる私と、もう一つの手。
 いつの間にかそこにいた人物に、私はぎょっとした。見れば、私とは別にもう一人ノマちゃんの頭を撫でているではないか。

 ヨルでも、リーメイでもない。というか、二人に比べて手が小さい……

「えっと……どなた?」

「?」

 そして、体も小さかった。幼女……とまではいかないけど、小柄な私よりも全然小さい。
 こんな子供が、どうしてこんな……王城の、王の間にいるのか。

 そんな疑問は、目の前で腰に手を当て小さな胸を張る彼女自身が、解決してくれた。

「わたしは、レーレ・ドラヴァ・ヲ―ム! レイド・ドラヴァ・ヲ―ムの娘よ!」

「おぉー。レーレちゃーん!」

 どやぁ、と擬音が付きそうなくらいに堂々とした姿。彼女が着ている水色のドレスは、なんともきれいだ。
 そして、その名乗りにデレデレの国王……

 えっと……レイド・ドラヴァ・ヲ―ムが新しい国王の名前で……その娘ってことは……
 この金髪少女が、国王の娘……つまり王女様ってこと!?

 王女がこの部屋にいると兵士が言っていたのに、それらしき人がいなかったのが気になっていたけど……それは、ノマちゃんと一緒にいたからか。

「いやいや、なんでノマちゃんがここにいて、しかも王女と一緒にいて、それどころかノマお姉ちゃんなんて呼ばれてるの……?」

 なんだろう、この状況……再会したノマちゃんは号泣し、それを慰めている私と王女。
 ノマちゃんがここにいる理由も、王女と仲良さげな理由も、気になることがありすぎて……頭がおかしくなりそうだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

処理中です...